いつか有名になっても。

姫森なつな

第1話

─ 数年前 ─


こはく「…奏馬くん、今日はどうしたの??」

奏馬「今日はさ、こはくに会いたいって言ってる奴がいてさ!!」

こはく「わ、私に?!」

奏馬「そう!こはくに!!」

こはく「んー…私に会っても何もいいことないと思うけどな。私と話していても楽しくないだろうし」

奏馬「まーたこはくのネガティブが始まった〜」

こはく「ご、ごめん…」

奏馬「もう少し自信持てば?お前、作詞出来るしスゲェ才能持ってんだから!!」

こはく「そ、そんなことないよ!奏馬くんの方が作曲も出来るし歌も上手だし…!!」

奏馬「それはありがとよ!!けどもう少し自分に自信持っていいんだぜ??」

こはく「んー…」

奏馬「あっ!!来た来た!!お前遅せぇ〜よ」

?「ごめんごめん!!」

奏馬「こはく、紹介するな!!コイツがこはくに会いたがっている翔!!」

翔「安沢 翔です!!よろしくね!!」

こはく「えっと…今井 こはくです…よろしくお願いします…」

奏馬「翔は俺の大学の時からの友達で、今はダンスグループに所属していてスゲェダンスが上手い奴なんだ!!」

こはく「そ、そうなんだ…けど、なんでそんな人が私に会いたがっていたの…??」

奏馬「俺がよくバンド仲間の奴らと路上ライブしてるのは知ってるだろ??」

こはく「あ、うん!私が作詞した曲もよく奏馬くん達のバンドが路上ライブとかで歌ってくれてるよね!」

奏馬「そうそう!この間の路上ライブに翔が初めて来てくれたんだ!その時に聴いた曲を翔が気に入ってくれてさ、誰が作詞したのかって聞いてきたからさ、こはくが作詞したってことを伝えたんだ!そうしたらこはくに会いたいって言い始めて!!」

こはく「…な、なるほど。もしかして“その先へ“って曲のこと?」

奏馬「それそれ!その曲!!」

こはく「たしかにあの曲は私が作詞したけど作曲したのは奏馬くんで、奏馬くんの作曲の能力が高いからよく聴こえただけで……」

翔「それだけじゃないよ!!」

こはく「…え?」

翔「たしかに奏馬の作曲も凄いなって思ったけど俺はこはくさんの作詞した歌詞がすっごく素敵で心に響いたんだ!!あんな素敵な歌詞が書けるなんてめちゃくちゃ心が綺麗な人だろうなって思ったらどんな人なのか会ってみたくなって…」

こはく「…え、そんなに褒めてもらえるとなんか照れちゃいます…笑」

翔「俺はお世辞抜きで本気でこはくさんの考える歌詞は素敵だと思ってる!!」

こはく「ふふ、嬉しいなぁ…ありがとうございます!!」

翔「喜んでもらえて俺も嬉しいよ!!」

奏馬「なになにーお前らラブラブじゃーん笑」

こはく・翔「ちがう!!」

奏馬「ハモってるし笑 今日はもう俺は用無しかな?2人っきりで話した方がいいと思う!」

こはく「えぇ?!ちょ、ちょっとそれは…!」

奏馬「あー…バンドの練習時間も近いから俺はお先に失礼する!!」

翔「あっ!!おいっ、奏馬っ!!」

こはく「……行っちゃった」

翔「……え、えっと…こはくさん、この後時間あります??」

こはく「…あ、あります」

翔「よ、よかったらカフェにでも…」

こはく「あっ!ぜ、是非っ…!!」


あの日から私たちの距離は近づいていった。

いつの間にか私も敬語ではなくタメ口で話していて、お互い「こはく」「翔くん」と呼び合えるくらいに仲良くなった。

それから数ヶ月後の私の誕生日に翔くんは私に誕生日プレゼントを渡してくれた。


翔「こはく!お誕生日おめでとう!!」

こはく「わぁー!!翔くんありがとう!!」

翔「奏馬も含めて3人でこはくのお誕生日パーティーしたかったな〜」

こはく「奏馬くんは今日、バンドのライブだから仕方ないよ」

翔「んー…じゃあ今日は俺が奏馬の分もこはくのことお祝いするね!!」

こはく「ふふ!ありがとう!嬉しい!!」

翔「……あのさ、俺」

こはく「ん?」

翔「俺、いつか有名なダンサーになる!!ダンスの楽しさを日本中…いや、世界中に広めたいって思ってる!!」

こはく「うんうん、とっても素敵な夢だね」

翔「でさ、俺がダンスを楽しむ姿を誰よりも1番近くでこはくに見ていてほしい」

こはく「え……」

翔「俺、こはくのことが好きなんだ!!…もしよかったら俺と付き合ってください」

こはく「……翔くん」

翔「……ダメかな??」

こはく「…ううん!!私も翔くんのことが好き!!私でよければよろしくお願いします!」

翔「え?!本当に?!?!や、やったぁー!!」

こはく「こんな私だけどこれからもよろしくね…!!」

翔「俺、絶対、こはくのこと幸せにする!!」

こはく「うん!!」


翔くんからの告白は私にとって1番嬉しくて幸せなプレゼントになりました。

その後、私は社会人として働きながら作詞をして、翔くんはバイトをしながらダンサーとして少しずつ名を広げていった。

翔くんはダンスの練習の合間を縫って私と沢山デートをしてくれた。優しくて面白くて、少し天然で可愛い翔くんの彼女になれて幸せだった。幸せ……だったのに。


─ 現在 ─ 夜の公園


翔「…ごめんな、カフェとか一緒に行けなくて」

こはく「ううん!翔くんも忙しいし、それに、翔くんはファンの子達のことも気にしてるんでしょう?もし私とデートしてる所がファンの子達に見つかったら悲しませるかも、って」

翔「…こはくには全部バレちゃってるんだね」

こはく「分かるよ、私には」

翔「少しずつだけど俺のダンスグループの知名度も上がってきてる。ファンの子達も増えてる、特に女の子。だから今が1番大事な時だと思うんだ。もし、俺たちがデートしてる所を見られて噂になったらダンスグループのメンバーにも少なからず迷惑はかけるし、ファンの子達はショックを受けると思う。だから今はこうやって夜の公園で静かに会話を交わしたりすることが精一杯なんだ、ごめんね」

こはく「…う、ううん。翔くんにとってグループのメンバーさんもファンの子達も大切だもんね、分かってるよ」

翔「…ごめん、本当に」

こはく「……翔くん、私さ…………」


〜♪ 翔のスマホが鳴る


翔「…あ、ごめん、メンバーから電話だ。そろそろ行くね、また会える時は連絡するから」

こはく「…うん、頑張ってね!!」

翔「ありがとう。こはくも体調とか気をつけてね、最近気温下がってきてるから」

こはく「ありがとう!」

翔「…じゃ、行くね、またね」

こはく「うん、バイバイ…」


最初は話題のカフェに一緒に行ったり、イルミネーションデートもしていた。月に何度もデートしていた。けど翔くんが少しずつ有名になっていくにつれてデートの回数も減った。翔くんはメンバーのこともファンの子達のことも大切にしている。それは痛いほど伝わってる。だけど、私は…?私って翔くんの彼女だよね…そもそも翔くんにとって私って大切なの……??

翔くんには幸せになってほしい、幸せになってほしいからこそ私は翔くんにとって邪魔者だって思えてくる。


こはく「……もしもし、奏馬くん」

奏馬「…こはく?どうした?」

こはく「……私、翔くんと別れる」


«続く»

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