幸せを運ぶ物語

石川 琥珀

一つ目 小さな小鳥

 小さな小鳥は、きれいな声で鳴きました。そうすると周りの人が喜ぶからです。けれど、小鳥は困ります、せっかくきれいな声を持っていても、見た目が美しくなければ人は目をそらしてしまいます。


 小さな小鳥は、色塗り上手なフクロウの元を訪ねました。


「私の汚い灰色の羽を美しい七色の羽にしてください。」


 フクロウは、その願い事を聞き届け小鳥の羽を七色に塗りました。


 小さな美しい小鳥は、美しい容姿でキレイな声で鳴きました。そうすると周りの人が喜ぶからです。けれど小鳥は困ります、せっかくのステージに子供が悪戯をするからです。


 小さな小鳥は、おっかないカラスの元を訪ねました。


「私に、人を怖がらせるコツを教えてください。」


 カラスは、その願いを聞いてやり小鳥をできる限り強くしてやりました。


 小さな小鳥は、美しい容姿と逞しい体でキレイな声で鳴きました。そうすると周りの人が喜ぶからです。けれど小鳥は困ります、すべての人が自分の歌声に飽きて誰も自分の歌声に耳を傾けてくれないからです。


小さな小鳥は、人に飼われているカナリアの元を訪ねました。


「私の心が満たされる方法を教えてください。」


 老いたカナリアは小鳥を諭してやりました。


「美しい容姿を持っても、美しい歌声を持っても、強い体を手に入れても、結局は自分で自分を認めてやらねば意味がないのです。何人に認められようが、結局その努力を一番知っていて一番自分の事が分かるのは自分なのです。」


 老いてしまったカナリアはそこで言葉を切ると、じいっと小さな小鳥を見ました。


「私には、もう先がありません。ですから最後にあなたのきれいな歌を聞かせてくれますか?」


 小さな小鳥は優しく歌いました、とてもとても優しく歌いました、歌っている最中に雨が降っていきます。ぽつりと水滴が落ちるたびに美しい色は剥がれ落ちてきました。逞しい体は死にゆくカナリアに何もしてやれません。


 けれど、その美しい歌声は、その美しい歌声だけは、カナリアの心を一杯に満たしました。


小さな小鳥は、みすぼらしい容姿と小さな体で美しい音楽を奏でます。そうすると、自分の心が満たされるからです。そして小鳥の周りには、音楽を愛する人が集まります。小鳥の力強く自信に溢れた歌声は、自分の心だけではなく人々の心も満たすからでした。


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幸せを運ぶ物語 石川 琥珀 @kohaku_ishikawa

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