プロローグ 03

 何とかこの大広間を抜けて、避難艇がある港に向かわなければ。数は十分あるはずだが、出来れば大勢と一緒に避難したい。しかしテロリストに占領されたこの大広間を脱出しなければ。


 ミサもドクターマトンも武装などしておらず、ただの一介の研究者が武装したテロリスト集団の中を突っ切れるはずがない。何とか視線から離れて逃げ切れれば、と物陰に隠れる二人だったが、僅かな足音をテロリストたちは聞き逃さなかった。


『施設の人間だ』

『殺せ!地球の敵だ!!』


 耳をつんざくような銃声が何度も響き、二人は物陰に身を寄せ合ってやり過ごそうとする。だが、そのうちの一発が物陰ごとドクターマトンの右肩を撃ちぬいた。


「アアッ!!」

「ドクターマトン!!」


 どんどん真っ赤に染まっていくドクターマトンの右肩を、ハンカチで抑えるミサ。だが太い血管を傷つけてしまったのかその程度では出血は抑えきれなかった。


「逃げるんだドクターキリシマ。奴らになにをされるか………」

「何を言うんです!どの道、逃げられやしません!」


 震える声で逃げるように促されても、ミサは逃げられるはずがないことくらい理解していた。今は銃声も収まっているが、どんどんテロリストたちが距離を詰めてきていることは足音で分かる。このままこのボロボロの物陰に隠れていようが、ドクターマトンを置いて逃げ出そうが、額に穴が開くのが数秒違うだけだ。


「せめてお供させてください、ドクターマトン。貴方も死ぬときはせめて私くらいがそばに居れば嬉しいでしょう?」


 助からないのなら、せめて目の前で死んでいくこの人の為に。ミサの言葉にドクターマトンが微かに笑い、テロリストたちが二人を取り囲んだ。


 ズキューン!!


 その時、別方向から銃声が響いてテロリストの一人が崩れ落ちた。思わず銃声の方を振り向くと、海上自衛隊のマークのついたヘルメットを着用した青年が拳銃片手にこの大広間に突入してきていた。


「せいやああああああああっ!!」


 防弾チョッキを着用しているとはいえ拳銃を連射し、的確にテロリストたちの動きを封じながら突入してきた青年は、余りに突然のことに困惑しているテロリストたちを次々とキックで蹴り飛ばしてノックアウトしてしまった。


「大丈夫ですか!!」

「え、ええ。私は………ですが、ドクターマトンが!」

「ひどい出血だ………簡単な応急処置をして、僕たちの船に連れていきます!もう少しだけ頑張って下さい!!」

「あ、ああ………」


 青年自衛官は防弾チョッキの隙間からきれいなガーゼを取り出して傷口に当てると、素早く取り出した包帯でケガの周囲を圧迫するようにきつく締めあげていく。しかしその時、ノックアウトされたテロリストのうちの一人が起き上がっていた。


「君!後ろだ!!」


 ドクターマトンが咄嗟に叫び、立ち上がったテロリストが再びライフルを青年に向けようとする。しかし青年は振り向きざまに拳銃を抜き、目にもとまらぬ速度で撃ちぬいた。


「素晴らしい早業だ………!まさか、ニホンの自衛官にこんな人材が居たなんて」

「密かな自慢でした。それより、固定は終わりました。痛むかもしれませんが、移動します!貴女も、付いてきてもらえますか!?」

「は、はい」

「じゃあ、彼の左肩をお願いします。私がケガした方を」


 青年の指示に従い、ミサとドクターマトンは大広間を、そして港に停泊していた海上自衛隊の巡視船に乗ってサンズ・オブ・トリニティを脱出したのだった。



--------------------------------------


面白かったら応援、レビューお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る