深海獣超常決戦 ガザラ対ラグラ

@dominant

序章

プロローグ 01

 西暦20XX年。潮風を浴びながら一人の白衣を着た女性が止まっていたカモメに餌を与えていた。首から下げたネームプレートには、海洋生物学顧問ミサ・キリシマと書かれてあった。


「ドクターキリシマ、もう間も無くマスコミの第一陣が到着するぞ。君みたいな美人がそこに居たら絶好の餌だ」

「ありがとうドクターマトン。ならせめて、貴方がカモメ達に餌をあげてくれないかしら?」

「オイオイ、私は鳥類アレルギーなんだ。勘弁してくれ」

「あら、前は甲殻類アレルギーじゃなかった?」

「生物全体にアレルギーが出るのさ。美人を除けばね」

「あらお上手。セクハラで訴えちゃおうかしら」

「そりゃ余計に勘弁だ」


 陽気な白人系の同僚、ドクターマトン。ミサはカモメ達への餌を全て座っていたベンチに置くと、カモメ達が一斉に群がっていくのを横目に建物に入った。


「太平洋上に浮かぶ名もなき島。この島に現代技術の粋を集め、再開発の結果誕生したこの『サンズ・オブ・トリニティ』は、世界中で懸念されるエネルギー問題に終止符を打つべく日米政府合同で建造された、世界最大規模の原子炉です。従来の原子炉を遥かに上回る、直径五十メートルの大きさの新型原子炉格納容器三つが常に稼働状態にあり、一日の総発電量は全世界一日の総電力消費量の約80%。また発電にかかるコストは従来の十分の一に抑えられ、本日の正式稼働をもって日米両国民は真の電力自由化を手にするのです」


 建物のメインフロアに足を踏み入れると、何百回と聞いたアナウンスが耳に入る。もう間も無く世界中のマスコミがこのアナウンスを聞き、そして一字一句流さず世界中に発信していくのだろう。


 元々はただ巨大なだけの岩礁に過ぎなかったこの島は、あちこちから運ばれた土やコンクリートで固めて広げられて今や東京ドーム十個分の広大な土地になった。人工的に植林された僅かな木々を除けば、その殆どがアナウンスで語られた大型の新型原子炉のサンズ・オブ・トリニティを有する世界最大の原子力発電所で構成されており、残りの施設も研究施設ばかりだ。


 ネームプレートをかざし、関係者用のゲートを潜って研究棟に移動する。研究棟の中には犬や猫、猿と言った哺乳類だけでなく、蛇やトカゲの様な爬虫類、更には魚類に鳥類に昆虫など、この研究棟で飼育出来るありとあらゆる生物がケージの中で生活している。


「新型核融合炉から出る放射能が生物に与える影響、か。今のところはどいつもコイツも可愛くないくらいに元気じゃないか」

「今のところは、ね。この子達の世代ではなんの影響も与えないかもしれないけれど、子供や孫の世代にどんな影響が出るか」

「まさかここに住んでるトカゲが、ある日ゴジラの卵を産むってのかい?なぁドクターキリシマ。アメリカ人の俺が言うのもフキンシンな話かもしれないが、君たち日本人は放射能に対して怖がりすぎじゃないか?」


 ドクターマトンの言葉にミサは微かに視線を泳がせる。放射線被曝の恐れから、分厚い半透明のプラスチックの壁越しにしか触れ合えない小猿と目を合わせ、手のひらを壁越しに合わせる。この小猿は、このサンズ・オブ・トリニティで産まれた最初の個体だった。未熟児で産まれたが、まだそれが放射線被曝の影響であると証明されてはいない。


「エネルギーの事は臆病なくらいがちょうど良いのよ。火や水だって、使い過ぎれば人だって殺すわ」

「そうさせるのはいつだって人間さ。俺にしてみれば、核や放射能より人間の方がよっぽど怖いよ」



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