<82> サプライズ
中川と田中と仲良くランチに行った時、
「聞いてください!クリスマスデートの確約を取り付けました!」
と、田中が興奮気味に報告してきた。
「良かったじゃない!ここで一気に畳みかけなさいよ!」
中川がガッツポーズして応援する横で、香織は盛大に拍手を送った。
田中は嬉しそうに笑うと、
「中川さんも原田さんも、もう予定は入っているんでしょ?」
と聞いてきた。
香織が首を横に振る横で、中川はもちろんと大きく頷いた。
「人気のホテルを予約したの。今年のクリスマスイブって金曜日じゃない?三か月前から予約したわよ」
「三か月も前から!?」
香織が驚いてると、
「人気なホテルは最低でもそのくらいから申し込まないと。でも、それより早く予約するのは、する方も勇気いるわよね~、もし別れたらって。ふふ、とりあえず、別れてなくって良かったわよ」
中川はお道化るように笑って見せた。
そのホテルの人気レストランもばっちり押さえていると言う中川に、
「わぁ、素敵ですね!」
田中も香織も目を輝かせた。
「何言っているのよ、原田さん。原田さんだって、それこそ素敵なところでクリスマスするんでしょ?」
「そうよ!副社長とどんなところに行くの?」
「え・・・」
目をキラキラさせて聞いてくる二人を前に、香織は言葉を詰まらせた。
そう言えば、クリスマスのことなんぞ陽一と相談していない。
と言うよりも、忙しそうで相談しづらく、敢えて話題に上げなかった。
(一応、プレゼントは用意したけど・・・)
イブは金曜日だし、遅くなっても、家でのんびりクリスマスケーキくらいは一緒に食べれらればいいかなと思っていた。
初めてのクリスマスがそれでは寂しいかもしれないが、これも仕方がないと諦めていた。
「たぶん、忙しくて一緒にクリスマスを過ごすのは難しいかなって思ってます」
「え!うそ!?」
「だって、初めてのクリスマスでしょ?」
二人は驚いて目を丸めた。
「はは、でもこればっかりは仕方ないですよ~」
香織は笑いながら答えた。
可哀相という田中は同情するが、中川は目が輝いた。
「もしかしたら、サプライズがあったりするかもよ!」
「サプライズ・・・」
「そういう事そつなくこなしそうじゃない?副社長って。もしかしたら素敵なレストランとか予約してるかもよ~」
サプライズ・・・。
そう言えば、サプライズは陽一の得意とする分野だ。
今までも、何度、度肝を抜かされてきたことか・・・。
っていうより、サプライズしかない気がする。
そして、その度、若干寿命が縮まっているような・・・。
(いやいや、陽一さんのサプライズは洒落にならん!)
「ははは、どうでしょうね?」
香織は愛想笑いを浮かべて、ドキドキする胸を押さえた。
(よもや、神聖なクリスマスまで度肝を抜かさることはないでしょうね・・・)
幸せそうに笑っている二人の傍で、一抹の不安を抱えながら、香織はランチを食べ終えた。
☆
クリスマスイブの金曜日。
その日の朝食の時に、陽一から夕食は用意しなくていいと言われ、ああ、やっぱりと落胆した。
「・・・今日は、クリスマスですけど・・・。ケーキくらい家で一緒に食べれますか?」
香織は恨めしそうに陽一を見た。
「ああ、そうだな・・・。じゃあ、頑張って起きてろよ?」
陽一はそう言うと、香織の頭をクシャっと撫でた。
それだけで、香織の不機嫌は治ってしまった。
我ながら現金だと思いつつ、ご機嫌で会社に出社した。
流石にクリスマスイブで金曜日!
まるでノー残業デーのように、定時になると人が履けていく。
香織も机を片付けながら、
(デパ地下でケーキ買お!可愛いの!)
そうウキウキしているところに、一人の女子社員がぶつかってきた。
それと同時に、彼女が持っていたコーヒーが香織の洋服に掛かってしまった。
「あ!ごめーん!原田さん、掛かっちゃった?もしかして」
謝罪の言葉を口にするが、態度はまったく悪びれていない女子社員を見て、香織は一瞬思考回路が止まってしまった。
(え?もしかして、わざと?まさかね?んなわけあるか・・・)
わざとだとしたら、逆に凄い。こんな昭和的テクニック。
いい大人があり得ない。
だから、本気で前を見ていなかったのだろう・・・。
「ははは、大丈夫ですよ!」
香織は笑ったが、よく見ると大丈夫ではない。
白いセーターに大きくしっかりとコーヒーのシミが付いてしまった。
「ごめんね~、もしかして、これからデートだった~?」
てへっと可愛らしく舌を出す女性に、香織は唖然とした。
(あ、やっぱり、これ、わざだ。・・・いるんだ、本当にこういう事する人って・・・)
すごい。ドラマや漫画の世界にしかいないと思っていた人物がここにいる。
香織は思わず、まじまじとその人を見てしまった。
すると、彼女は急に眼を吊り上げた。
「何よ、謝ったじゃない!」
(しかも怒る?)
香織は、もうどうでもいい気持ちになり、
「はは、本当に大丈夫ですよ~。もう今日は帰るだけなんで・・・」
力なく答えたが、急に彼女の様子がおかしくなった。
青い顔をして、少し震えている。
「?」
香織が首を傾げると、後ろから声が聞こえた。
「ああ、本当に気にしないでいいよ。こいつも前を見てなかったんでしょ?お互い様だよ」
香織も青くなって、恐る恐る振り向いた。
(ひっ!でた!サプライズ男!)
香織のすぐ後ろに陽一が立っていた。
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