37.話ができて楽しかったよ
「妹は、ヴェルナスタ共和国に押しつけたよ。エングロッザ王国は……まあ、ロセリア連邦の好きにやらせてみるかな。東フラガナ人民共和国が、同じ黒色人種のよしみで世話を焼いてくれるみたいだし。
ベルグが
ヒューネリクの目が、少し興味を引かれたように細くなる。
「つまり、お
「アルメキア共和国陸軍、特務部隊のメルセデス=ラ・レイナよ。ロセリアのコミンテルンは敵だけど、それはまあ、置いておくわ。あなたには、関係のないことですものね」
「そう! そうなんだよ、関係ないんだ! 理解が早くて、嬉しいな。話ができて楽しかったよ」
「待って待って。押し売りみたいになっちゃうけど、つれないこと言わないで、仲間に入れてちょうだいよ。私たち、世界一の工業力で、世界一の資金力に世界一の政治力、とってもお買い得なんだから!」
ことさら、おどけて見せた後で、メルセデスも目を細くする。
「秘宝の
メルセデスの声に、
「
「……すごいな。ぼくたちの国が密林の外に知られたのなんて、ほんのちょっと前なのに、なんでも知ってるんだね。君たち白色人種が、知識と科学で世界を征服できたのも、わかる気がするよ」
ヒューネリクが、肩をすくめた。
表情が消えて、
「契約は不成立だ。それだけは、ロセリアだろうとどこだろうと渡さない。
白い
ベルグの鋭い視線が、そして
「それじゃ駄目なのよ、ミスタ・オヒトヨシ。あなたは人の……集団の善意を、知らなさすぎるわ」
「善意、か。おかしいね……善っていうのは、良いもののはずじゃないか」
「善意を疑わなくなった時、どんな残酷も現実になる。謎の解明は、知識も科学も求めてくれる善だもの。
科学が、自分たち白色人種の進歩の
「私は、趣味じゃないわ。でもね……私一人、ヴェルナスタのミスタ・オチビ、ロセリアの誰か、そういう話じゃないのよ。情報が、少なくとも複数の集団、組織に共有されて、
東フラガナ人民共和国はともかく、ロセリア連邦、アルメキア共和国、フェルネラント
近代国家の
「それが最良とは言わないけれど、最悪の未来は防ぎたいの。あなたの持っている情報を、教えてちょうだい。今すぐ信用するのも、難しいでしょうけれど……せめて、言葉に責任を持つと約束するわ。情報は独占しないし、させない。妹さんを悪いようにもしないし、させないわ」
メルセデスの言葉は、
だからこそ、メルセデス自身が、そんなものは無力であることを
「本当にすごいよ……君は、
「でも……一つだけ、間違ってる。ぼくを買いかぶりすぎだよ……
メルセデスが、少し上を
背中を合わせるように、
メルセデスとオズロデット、ベルグ、
淡水湖の水が、
『本当は、もう少し時間をあげたかったんだけど……アーリーヤ以外、この王都にいる全員を殺すよ。失わなくちゃいけないのは、創造神の知識だけじゃない。エングロッザ王国のアーリーヤ王女を、認識している全員だ……それが一番、確実なんだ。気が重いけれど、仕方ないよね』
ヒューネリクの声が
少しずつ形を持っていくそれは、
細く、長く、
メルセデスが、低く歌うようにつぶやいた。
「信じるのも、信じてもらうのも……難しいわね。ミスタ・サムライ」
「ああ。
ベルグが応じた。それが、静かな合図となった。
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