第二章 密林に叫ぶ
11.傷つきますわ
エングロッザ王国の王都ジンバフィルは、険しい山脈の下、高原と密林、
淡水湖には大小様々な魚、貝、
山脈に連なる高地ならではの、
山脈から
太古から続く
明るい色の
その宮殿の廊下を、アーリーヤは得意満面で歩いていた。朝と昼の中間の、まぶしい陽光が差し込んでいた。
鮮やかな色彩の衣装からのぞく、健康的な肉づきの手足と
「お兄さま、
宮殿の一室の扉を、
アーリーヤの顔ほどにも大きい、まだ口から点々と血をたらした、丸々と太った
「このところ料理長の
「ああ、うん……あれ、本当に試したんだ……?」
窓際の机で書類を広げていたヒューネリクが、
アーリーヤとは少し年齢が離れた十八歳で、均整の取れた身体に、王族としては質素な
さりげなく書類を片づけようとしたヒューネリクの手を、アーリーヤは見逃さなかった。兄の、大きくて骨張った手が好きだったからだ。
「また新しい、外国の本ですの? お兄さまは勉強家ですわ」
「これは新聞っていう物でね。本とは、ちょっと違うかな。もっと手軽に配られていて、近い時期の出来事や、他の国の情報なんかが書かれているんだよ」
ヒューネリクが、形の良い目を
「ぼくも、半分くらいしか読めないけど……密林の外は、ずいぶん騒がしいみたいだね。世界中が戦争をしていて、なんだか、この国だけが大昔に置き去りにされたような気がするよ」
「戦争をしなくて済むのなら、それは、良いことではございませんの?」
「目も耳もふさいで、
「それくらいの
「……ぼくは、納得していないよ」
「傷つきますわ」
「そういう話じゃなくてね」
ヒューネリクが、少し種類の違う苦笑をした。
「近親婚なんて、なんの利点もない
「難しい話はわかりませんが……まあ、見知らぬ殿方と比較して、仲良くできるかどうかという不安はありませんわ。これも王族の責任として、他に
言いながら、アーリーヤが
「恥ずかしながらわたくしも、物語のような大恋愛にはあこがれますが……それは、結婚と別口で考えますわ」
「
アーリーヤと、アーリーヤの組んだ手からだらりとたれ下がる
「アーリーヤ……世界は広いよ。君ならきっと、どこへでも行ける。王族とか責任とか、そんなものとは関係なく、幸せに生きて欲しい。いつか……そう言ってあげたいんだ」
「ではわたくしも、その時、同じことをお兄さまに言って差し上げますわ。結婚は助け合いですもの」
アーリーヤは満面の笑顔で、
「さしあたって本日の昼食、お兄さまは
「……それ、選ばなきゃいけないのかな?」
「さんざん、
ヒューネリクが、今度こそ苦笑にもならない、
********************
朝と昼の中間くらいの、明るい陽光の感じが夢の中と似ていて、アーリーヤはぼんやりとしたまま
「ああ……それも、ありでしたわ……」
アーリーヤは、身体を起こした。清潔でやわらかい、寝台の上だった。
目をこすりながら足を下ろす。ふらついたが、それ自体に、気がつかなかった。意識が半分以上、
なんとか歩いて、部屋を出る。服のあちこちがつっぱるような、妙な違和感があったが、食欲をそそる匂いが他にもいろいろ流れてきて、それどころではなかった。
むしろアーリーヤ自身が
絵画と調度品で飾られた、
二人が、
二人は少年で、一人は年配の男だった。
「レナートさま……っ! 良かった、
瞬間的に、記憶の最後の場面に追いついて、アーリーヤは
駆け出した。振り向いて、夢の中の使用人たちのように
銀髪で青い目の、中性的な顔が固まって、二人そろって勢いのあまりひっくり返る。
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