BL詰め合わせ
瀬川
風紀委員長×生徒会長
俺達の関係を一言で表すと、ライバル。
それ以上でもそれ以下でも無かった。お互いに切磋琢磨をしあい、成長していく。そうやって、これからも一緒にいるのだとそう思っていた。
でも、いつからだろう。
俺はあいつのことを、ただのライバルとして見られなくなっていたのだ。
顔を見るたびに胸が高鳴って、少し話をしただけでも一日ふわふわして落ち着かなくなる。
こんなの、ライバルとは言えない。向こうは俺のことなんて、なんとも思っていないのに。
どんどん苦しくなって、俺は一つの決断を下した。
「おい! どういうことだよ!」
思ったより早かったな。
生徒会室の扉を勢いよく開き入ってきた人物に、俺はそんな冷めた感想を持った。
「いきなりなんだ。静かに入ってこられないのか」
相手が求めているのは、この返事じゃないことはわかっていて、あえて知らないふりをした。
目線は手元の書類に向けて、顔を見ないようにする。視界に入れてしまったら、平常心を保てなさそうだ。
「これがどういうことか説明しろ!」
テーブルを叩く音と共に、一枚の紙が目に飛び込んでくる。
その紙には『来年度留学希望者について』と書かれていた。下に連なる生徒の中に、俺の名前がある。
「どういうことかって見たままだろ。来年度の留学を希望しただけだ。それの何が駄目なんだ」
俺の決断というのは、逃げることだった。
そばにずっといれば、いずれ聡いこいつのことだから俺の気持ちに気づいてしまう。そうなったら、もう今までの関係が崩れる。そばにいることさえ叶わなくなる。
留学するのを決めたのは、少しの時間だけでも離れればこの気持ちが小さくなってくれるのでは、という希望からだった。
ずっとそばにいられることと比べれば、少しの時間離れることも、気持ちを消すことも簡単だと考えたのだ。
「俺はいずれ会社を継ぐことになる。世間を知らないままでは、上手くいくはずない。何事も経験するのは大事だ。そのために留学しようと思った、それだけのことだよ」
「……それだけの理由で、海外に行こうとしているのか」
「行くって言っても、たったの二ヶ月ぐらいだ。俺がいない間も、学園の機能は上手く回るようにしておく。何も迷惑をかけるつもりは無い」
俺の突飛で私的な考えのせいで、誰にも迷惑はかけたくなかった。
そのために今こうやって見ていた書類も、不在の間の引き継ぎに関するものだった。
生徒会役員には、留学の件はすでに伝えてある。どうして突然と驚いていたけれど、今言ったのと同じ理由を伝えれば最後には納得してくれた。
向こうで怪我することのないようにしてください。そう言って微笑んだ副会長は、もしかしたら何かを察していたのかもしれない。言っては来なかったけど。
「そういうことを言っているんじゃない!」
思考を別のところに飛ばしていれば、叫び声とともに書類を持つ手を掴まれた。
「……何すんだ。離せ」
未だに顔は見られない。
俺は頑なに書類を見続けて、普段と同じ態度を意識して作った。
「俺は忙しいんだ。別に留学ぐらい、騒ぐことじゃないだろう。それともなんだ。俺と会えなくて寂しいのか?」
「そうだと言ったら?」
その言葉にすぐに返すことが出来なかった。
はく、と息が上手く吸えない変な音が喉から出て、平静を保てなかった。
「な、に言って。冗談は、止めろ」
なんとか搾り出したが、一度冷静さを失ったせいで上手く取り繕えない。
どうしてそんなことを言うんだ。俺のことなんか、なんとも思っていないくせに。気持ちを消すと決めたのに、その苦しさを知らないくせにかき乱さないでほしい。
気持ちを伝えていないのは俺だから、知らないのは当たり前なのに恨んでしまう。
俺は唇を噛んで、必死に叫び出したくなるのを抑えた。
耐えろ。今ここで気持ちを伝えたところで、関係を壊すだけだ。
どんなに胸が痛くても苦しくても、今は耐えるしかない。
「……どうして、さっきから俺の顔を見ようとしないんだ」
掴んでいた腕が離される。
離して欲しいと思っていたが、いざ離されると寂しさを感じた。
それをごまかすように、掴まれていた場所をさすった。
「……なあ。こっちを見てくれ」
「どうして? その必要は無い」
「俺が見たいからだ」
ずるい。そんなふうに言われたら、拒めなくなる。
俺は覚悟を決めて、ゆっくりと顔を上げた。
「……なんで、泣きそうな顔をしているんだ」
その顔をするのは、俺の方じゃないのか。
怒りも確かにあったけど、苦しんでいるように見えた。
「お前が、俺に相談もせずに、どこかに行こうとしているからだ」
「今生の別れじゃないんだから大げさだ」
「少しでも離れるなんて。俺の知らないところで俺の知らない奴らと仲良くしているなんて。想像しただけで何もかもぶち壊したくなる。ずっとそばにいて欲しいんだ」
「それは……」
俺は自分のことを鈍感じゃないと思っていた。
学園では様々な種類の感情を向けられるから、好意にはすぐ気がつく自信があった。
でもこれは、鈍感だったと認めるしかないかもしれない。
涙で膜が張っている瞳、その奥から伝わってくる感情に、胸の中を占めていた苦しさや悲しみが消えていく。
代わりに溢れ出した温かさを共有したくて、俺はそっと手を伸ばして冷たい頬に触れた。
「あのな。聞いて欲しいことがあるんだ」
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