ちゃんと世界は救うので放っておいてください。
@nwowa
第1話
太陽が昇り始め街がにぎやかになり始めた頃にキリノはいつも起き出す。
大きなあくびをしてのっそりとベッドから出て窓を開ける。
今日もいい天気だなぁとのんきな感想もそこそこに空腹が耐えられないので朝食の準備に取り掛かる。
「今日は野菜のスープとパン…幸せすぎる…」
テーブルに置かれたごちそうにため息を漏らしたキリノは両手を合わせて「いただきす」と挨拶をした。
街の賑やかな音を聞きながらゆっくりと食事をする。
「ここに来て早一年…早いなぁ」
都市"ヴィオラ"にキリノが来たのは一年前。
キリノは日本の東京で仕事をしていた。
ある日、慌てていたキリノは階段を踏み外してしまう。倒れる!と咄嗟に目をつむったが何故か痛みがなかった。
キリノが恐る恐る目を開けると何故か西洋風の街並みの場所に立っていたのだ。
なんかすごいことが起きたなぁと非現実的な出来事に反応できずにいると、「あなたどうしたの?」と声をかけられる。
声の方を見ると金髪の女性がこちらに向かって歩いてきた。
「見たことない服装だけど…どこの国の方?」
「えーっと…分からなくて…」
「え?」
女性は分からない?とキリノに聞き返す。
キリノはここはどこなのかと女性に尋ねた。
「ここは都市ヴィオラよ。ここへは何しに来たの?」
女性がキリノに色々質問するがキリノは分からないと答えるだけ。
そんなキリノが複雑な状況にあると思ったのか女性は家に招いてくれた。
質問をされても答えられることがない、どこか泊まる場所を教えて欲しいとキリノが女性に尋ねるがキリノがこの国のお金を持っていない為どこも泊まることができなかった。
見かねた女性、アデーレは今日は泊まりなさいと部屋を貸してくれた。
食事とお風呂までいただき、なんだかよく分からないことになったなぁと借りたベッドでうとうとしているとキリノの頭の中で声がする。
"東 きりのさん、日本のことは心配しなくて大丈夫なのでこの世界を救ってあげてください"
そんな声が聞こえ反応しようとしたが眠気に負けたキリノは翌朝にアデーレが起こしに来るまで寝ていたのだった。
「キリノ、おはよう」
「おはよう、アデーレ」
「今日はどこいくの?」
「今日は肉屋のおじさんが手伝ってくれって言ってたからそこに行くよ」
「わかったわ、今日のパンはこれね」
「ありがとう。……そのクルミのパンはだめ?」
「今日はだめなのよ、明日持ってくるわ」
アデーレのお陰で住む家も手に入れたキリノはこの一年、何でも屋の様な仕事をしていた。
街中で困っている人がいたら助けてお礼としてお金をもらう。
必要最低限の生活費で十分のキリノはのらりくらりと過ごしていた。
"キリノ!明日は仕事引き受けちゃだめだからね!"
そしてこの一年で頭の中で聞こえる声の主"デンパ"とも仲良くなった。
"もう少し事前に分からないの?"
"うーん、残念ながら…ごめんよ"
"まぁ、デンパのせいではないよ"
姿は見たことないが頭の中で会話が成立するのだ。
ちなみにデンパという名前はキリノがつけた。
"まだ小さい瘴気しか出てこないんだよなぁ"
"早くラスボスが来るといいよね"
"ね!でも、ラスボス倒したらキリノと頭の中で会話できなくなるからなぁ"
"その時は会いに行くよ"
"本当に!?ならさっさと倒そう!"
キリノがデンパについて深く尋ねたこともないためデンパの年齢、性別も何もわかっていない。
そんな会話をしたあとからデンパの声は聞こえなくなったため、キリノは肉屋に向かうために家を出た。
「おはようございます。何からやりましょうか?」
「お!ようやく来たな!もう少し早くに来ることは無理なのか?」
「起こしてくれる人がいれば早く起きられるのですが…」
「なら、早くいい旦那を見つけないとなぁ」
目覚まし時計のないこの世界でみんなどうして早起きができるのか、キリノはずっと不思議に思っている。
キリノは今も早起きができない。街の賑やかな音がないと目が覚めないのだ。
店に着くと早々に肉を捌くよう言われキリノは慣れた手つきで次々と捌いていく。
この一年でキリノが手伝った仕事は多岐にわたり、依頼は一度きりで終わることがないのでキリノの技術もどんどん上がっていった。
「おや、キリノちゃんは今日は肉屋かい?」
「おばあちゃん、こんにちは。肉買いに来たの?」
「そうだよ。今日は孫が来るというから奮発しようかと思ってね」
「なら!これがいい!」
おじさんが話に入ってきておばあさんにおすすめの肉を勧めた。
おばあさんだけでなく、肉屋に来た客は全員「キリノは今日は肉屋か」と言って肉を買っていく。キリノは近所ではちょっとした有名人だった。
接客はおじさんの役目なのでキリノは肉を捌き、袋に詰める作業をもくもくをした。
2時間ほどで今日分の作業は終わり、キリノはおじさんから謝礼金を貰い街をぶらぶら歩く。
「キリノちゃん!ちょっと手伝えるかい?」
「キリノ、これを運んでくれ」
「キリノさん、少しお願いが…」
話しかけられれば手伝い、謝礼金や食料を貰う。
時には井戸端会議に参加するだけということも。
日が傾くまでキリノはぶらぶらと街を歩きながら手伝えることは何でもし続ける。
これがキリノの日課だ。
家に帰ると今日の稼いだお金を計算し、夕食の準備に取り掛かる。
といっても、キリノの食事は毎日毎食野菜スープとパン、時々肉か魚が加わる。
家に着いて食事をしようと手を合わせたタイミングでデンパの声がした。
"キリノー、明日の予定話してもいい?"
"デンパ、おかえり"
"ふふ、キリノもおかえり!"
嬉しそうな声を出したデンパは早速明日の予定を話し始めた。
"明日はね、街の北側。城の裏門から出て1時間ぐらい歩いたところ"
"いつも通り、デンパが案内してくれるんだよね?"
"もちろん!"
"なら、明日起きたら行こう。じゃあ、私はお風呂入って寝るね"
"もう寝るの?もう少しお話ししようよ〜"
"明日たくさん歩くから寝たい。明日たくさん話そう"
"仕方ないなぁ。じゃあ、また明日ね"
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