作者に聞け!―― Web作家さんたちへの仮想インタビュー集

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第一回:冬乃こたつ『私と世界のトラジェディア』(1)

▼ 作者に聞け  記念すべき第一回は、「小説家のつどい」の呼びかけ人でもある冬乃ふゆのこたつ/冬野ふゆの冬真とうまさんに来ていただきました!


● 冬乃こたつ  小説家コミュニティ「小説家のつどい」管理者の冬乃こたつです。よろしくお願いします。


▼ 作  冬乃さん、今日は貴重なお時間をいただき、ありがとうございます。


 早速、カクヨムと「小説家になろう」で連載中の長編小説『私と世界のトラジェディア』(以下『トラジェディア』)について、いろいろお話をうかがっていきます。


  https://kakuyomu.jp/works/16816700429624720025


 作品をご存知ない方のために、簡単な紹介をさせてください。


 物語は、高校二年生の栄井さかい勝利かつとしが、友人の小泉こいずみ千穂ちほ小暮こぐれかおるに誘われて、夏休みに秩父の廃村――小野沢村・奥杉集落――で肝試しを計画するところから始まります。


 ところが、同級生の浅香あさか夏澄かすみは、なぜかこの計画を止めさせようとする。彼女は、その廃村でおよそ六年前に起こった惨事の関係者(唯一の生存者)であることがほのめかされています。勝利たちの肝試しを思い留まらせようとするのは、その記憶のせいということのようです。


 結局、夏澄は、反対しないかわりに自分が三人に同行することを決めます。しかし、彼女の恐れていたとおり、肝試しが始まってすぐ、凄惨な事件が起きてしまう。


 これまでのストーリー、だいたいこんな風に要約できるでしょうか?


● 冬乃  いいですね。わかりやすくまとまってますよ。



―――― タイトルと構想 ――――


▼ 作  まずお聞きしたいのは、現在連載している部分と構想全体の関係です。タイトルの「トラジェディア」はイタリア語だそうですが、素直に訳せば、「悲劇」かと思います。


 その「悲劇」は、先ほどご紹介した主人公たちの体験する恐ろしい事件と、どう関係するんでしょうか?


● 冬乃  悲劇の意味を含む言葉がタイトルに使われていることからなんとなく想像がつくかもしれませんが、私は初期構想のころからダークな物語を作りたいと思っていたんですよね。そこで選ばれたのが「トラジェディア」です。


 現時点で、あまり細かいことはお話できませんが、第一部の事件は、主人公に深い孤独と後悔を味あわせることになります。それだけでなく、新しい状況のなかで、自分には受け容れがたい価値観と直面することになり、さまざまな屈辱や挫折、孤立感や喪失感にさいなまれる。


 しかし、何より彼が戦慄するのは、そうした価値観に抵抗することを諦め、妥協し、受け容れてしまうことで、自分が苦しまずにすむのではないかという自問です。譲れない価値観を放棄することで「楽になる」という選択肢の誘惑と恐怖です。


▼ 作  今、初期構想のお話が出ましたが、『トラジェディア』は冬乃さんが昨年九月に「小説家になろう」で連載を始めた『アラグディアの伝説』を「改作」したものなのですよね?


● 冬乃  はい。内容に納得できなかったのと、そのころの構想にはやくも限界を感じていたので。


▼ 作  その辺りをもうすこし詳しく伺いますね。


 まず、作品全体の構想をご紹介すると、『トラジェディア』は五部構成になっています。


 第一部 怪異の世界

 第二部 敬虔な腐敗

 第三部 勇者の役目

 第四部 遺志の継承

 第五部 世界の崩壊


 このうち「第一部 怪異の世界」が連載中で、現在十二話、約二万二千字分が掲載されています(「小説家になろう」では十話に統合)。完結すると「百五十万字」になるとのこと、壮大な構想ですね?


● 冬乃  なかなか面倒な作品になりそうです(笑)。


▼ 作  それだけ大きな物語にしたい、しなければならないと感じられたということですね。前作『アラグディアの伝説』は、ほぼ第三部に相当する部分だったと理解しています(完全に同じではないのでしょうが)。


● 冬乃  その理解で合っています。


▼ 作  物語の中心は第二部・第三部で、現在連載中の第一部は、いわばその「前日譚」という位置づけなのですよね?


● 冬乃  そうですね。前日譚をしっかりと描くことで、第二部・第三部での主人公の描写を際立たせる狙いがあります。


▼ 作  その「前日譚」とのつながりなんですけど、第一部の舞台は現代の日本で、主人公は高校生です。それに対して、第二部・第三部は、「異世界転生ファンタジー」と聞いています。その異世界はどんな世界なのか、さしつかえない範囲でお話いただけますか?


● 冬乃  なかなか難しいですね。まず世界観は異世界ものとしては王道の中世・近世ヨーロッパの文明で、剣と魔法が存在します。魔物もいるし、第三部のタイトルに「勇者」が使われていることからわかるように、魔王も存在する世界です。ここまでは多くの作品と同じですね。


 他と差別化されている部分というと、まず魔法使いの数はそう多くはありません。教会の人間や、勇者などに限られます。あとは在野に両手で数えられるほどいるかどうか。


▼ 作  差別化を意識されているということですね。いわゆる「ナーロッパ」的なものと違う部分でしょうか。


● 冬乃  差別化を意識したというより、トールキンの真似をしたらこうなりました。


▼ 作  お尋ねしていいのかわかりませんが、冬乃さんはある箇所で、この異世界が「二億年前の地球に存在した大陸ローラシア」と書かれていました。この設定は、まだ生きていますか?


● 冬乃  いやあ、もう死に設定ですね。ローラシア大陸の地形はそのままに使っていますが、今の設定では全く異なる惑星でのお話になります。


▼ 作  執筆と並行して、設定もバージョンアップしていっている。


● 冬乃  第一部も変わったりしますからね。


▼ 作  物書きたるもの、臨機応変でないとね(笑)。


● 冬乃  まさしくそれです(笑)。


▼ 作  ただ、変わらない、ブレない軸の部分がありますよね? 冬乃さんにとって、その軸となるのが、転生をめぐる物語なのだと思います。


 第二部・第三部では、主人公たちを取り巻く社会との関係ということが、クローズアップされるようです。今の段階でお話できることはありますか?


● 冬乃  社会との関係でいうと、現代の価値観との相違で懊悩してほしいというのがありますね。


▼ 作  現代の日本?


● 冬乃  そうです。日本です。


▼ 作  それは、現代日本の価値観が、異世界に来て揺さぶられたりする感じですか?


● 冬乃  そうですそうです。自分の元から持っていた価値観が変わってしまうことに対する恐怖心。これが制作目標のひとつです。


▼ 作  面白いですね。異世界ファンタジーを読む(現代日本の)読者も、主人公の苦悩や戸惑いを感じる仕組みになっているということでしょうね。


● 冬乃  ああ、そこはあんまり意識してなかったですね。制作はキャラ達と相談してやっているので、読者の方々も感得できるかと言われれば、そこはなんとも。


▼ 作  ただ、その異世界の価値観の一部に、多くの読者は抵抗を覚えるのでは?


● 冬乃  少なくとも現代ではタブーであるものが相当にあります(実はこのタブーの行為や価値観が、魔法使いが少ない理由の一つになっていたり)。


▼ 作  その設定も興味のあるところですね。どんなタブーなのかは、まだオープンにできませんか?


● 冬乃  オープンは厳しいですね。第二部・第三部の重要な要素の一つですから。


▼ 作  それはまずいですね、さすがに(笑)。



(2)に続く

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