第29話 訓練
「そうと決まれば――」
十戒は千里が巻いた包帯をおもむろに取ると、呪文を唱えた。
「我、招、理、是、火」
すると、十戒の掌から小さな火が出る。十戒はそれを傷口にあてて、焼いて傷口を塞いだ。ここで「痛そう」とか「熱そう」と感じないところが千里のもつ狂気でもあった。
「もしかして、それも忍術?」
興味深げに見つめる千里。
「ああ、これと、他にいくつかの戦闘忍術と弓術を覚えてもらう」
「それと、あと土蜘蛛ってやつの特徴を教えてくれ。どんなやつか分かれば対策のしようもある」
「そうだな。体長はおよそ十寸。刀のような足が八本。目が正面に六つある。足は硬くて並大抵の刃物では傷つけられない」
「百の怪力ならなんとかなるんじゃねえの?」
「試してみる価値はあるな」
「まかせて」
「それと口から糸の塊を吐き出してくる。粘着性があるので、一度食らうと身動きがとれなくなる。それも要注意だ」
作戦としては、遠くから弓で目を潰す、可能なら百の怪力で足を砕き、動けなくなったところへとどめをさす、この程度しか考えられない。
「ところで、十戒は怖くないのか? 今度こそ殺されるかもしれないって」
「ふ、恐怖などというものは物心つくころには忘れたさ」
「あんな無様にやられなきゃ、その台詞もかっこよかったんだけどなぁ。……なんなら、百だけ送りこもうか?」
これこそ必勝法とばかりに千里が言うと、百が即座に、
「それは無理」
と答えた。
「正面から一対一で殺し合うとなると勝ち目は薄い」
これには千里も頭を悩ませて、
「うーん、それなら何か作戦を立てなきゃいけないよな」
「同感だ」
「異議なし」
「よし、全員一致で決まったところで、こっちの戦力を整理しよう。俺は無能のポンコツで、百は――」
「千里、自分で言ってて悲しくならないの?」
百が哀れむような目をするので、
「客観的なだけだよ! だから悲しくなんかないんだよ! いいから、俺を除いて、百には怪力、十戒には忍術がある。具体的にはどんなのが使えるんだ?」
忍者は懐から巻物を取り出しながら、
「炎以外では、水、風、雷の巻物がある。それと、煙玉と閃光玉、苦無に忍者刀、拙者の装備は以上だ」
「待った! 雷の忍術まであるのかよ!だったら、俺が覚えるのは電撃や雷の忍術だけでいい。まかせてくれ、考えがある」
「ほう? 期待していいんだな?」
「当たり前よ」
ニヤリと笑う千里。
そして始まる訓練の日々
まず初日の朝。
「弓には足踏み、胴造り、弓構え、打起し、引分け、会、離れという流れがあってだなーー」
「オッケー、まずはひとつずつ教えてくれ」
初日の夕。
「忍術で扱う呪文にも文法がある。まず、必ず『我、招、理、是』とつく。この後ろに呼び起こしたい事象をくっつける。巻物を使えばより強力な忍術が使えるが、これは覚えるのが難しいため、後日伝授しよう」
「覚者の真言は信仰が仏に届いて奇跡が起きるって聞いたけど、忍術の原動力はなんなんだ?」
「霊力と言われているな」
次に十日目の朝。
弓の方は静止している標的にちらほら当たるようになってきた。
「ほう、思っていたよりも飲み込みが早いな。まだ体幹にブレはあるが」
忍術の方は空想を生々しくすることで、静電気程度は起こせるようになった。
「どんな大魔術もまずはここからだな」
「分かってらあ。こんなもんでおさまる器じゃないやい」
さらに二十日目。
弓の方は動いている小動物を標的に狩りの特訓。
「相手の動きを予測するんだ。一手先を読んで、そこに矢を放て」
忍術の方は川に放てば魚を三匹くらい殺せる程度の電撃が出せるようになった。
十戒の身体もほぼ完治して、百と組み手をするようになった。
そして三十日目。
弓の方は兎や鳥も射抜くことができるようになった。
「よもや、ここまで才能があったとはな。経験があったのか?」
「まさか。生き死にがかかってるんだから、必死にもなるさ」
忍術の方は川に放てば十匹くらい魚を殺せる程度にまで仕上がった。ちなみに十戒がやると二十を超す。
「だいぶ仕上がってきたな。これなら本当に勝てるかもしれん」
「かも、じゃなくて勝つんだよ」
「力をあわせればやれるはず」
と百も意気込んでいる。
そうして、舞台はいざ土蜘蛛戦へ。
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