第11話 祭りの結末

 そして健太と健太の母親も加わり、五人で露店を巡っている。


(……ほ。なんだ、一週間前に一目見た鬼狩りの顔なんて覚えてるわけねえか)


 と安心していたら、


「ところで、屋敷の件はどうなりましたか?」


 なんと、向こうからきいてきた。


「げえっ! 覚えてたのかよ!」


 おい、百、トンズラこくぞ! と千里が百の袖を掴むと、その千里の手を握って、


「心配無用です。ここであなた様方の身分を明らかにするつもりはございません。こう申しますのは失礼ですが、せっかくのお祭りが台無しになってしまいますから」  


 と母親はまっすぐな目で見つめてくる。千里も品定めするように見つめ返しながら、


「あんたはずいぶんこっち側にも親切なんだな」


 と言うと、

「それはもちろん。鬼狩り様には鬼から守っていただいてますし、なにより、この子を助けていただきましたから」


 そして声を潜めて、


「ですが、村人の中には鬼狩り様を半鬼と忌み嫌う輩もおります。どうぞお気をつけくださいまし」


 嘘をついてる風には見えない。他人の悪意に敏感な千里にさえ、健太の母親は信頼に足る人物として映った。


「そっか。ご忠告どうも。それで、例の屋敷の件だけど。鬼はいなかったぜ」

「え?」

「鬼じゃなくて、鬼のように強い武術の達人がいて、今はその人のところで稽古をつけてもらってる」

「まさか、その方が——」


 とここで朱音を振り返る。


 にっこりと微笑みで返す朱音。


「師匠の朱音といいます」

「すみません、私としたことが噂話に流されて……」

「気にしなくていい。おかげで朱音に会えたから」


 と焼き鳥を食べながら返事する百。

 すると、


「すっげー! お姉さん鬼狩り様より強いんだ!」


 と健太が瞳を輝かせて朱音を見つめている。

 そして、


「そんなら、おいらも弟子にしてください! そんで母ちゃんや妹を守れるくらい強くしてください!」


 と頭を下げる。 


 しかしすかさず、


「こら健太!」


 と母親に頭を叩かれた。


「すみません、一年ほど前に村が鬼に襲われて、そのときにこの子の父親も命を落としまして……それからというもの、『俺も鬼を倒せるくらい強くなるんだ!』と言って聞かずに」

「そうだったんですか……」


 複雑そうな表情の朱音。


 自分が鬼狩りをしていればその悲劇を防げたかもしれないと負い目を感じているのだろう。


 それに対して、


「まあ、まずは母親とはぐれても泣かないくらい強くならなきゃいけないだろうけどな」 


 ときつくあたる千里。


「わ、わかってらあ! おいらだって明日からはもう泣かない! 父ちゃんの敵を討つまでは!」


 と意気込む健太。


「だいたい、お前は鬼狩り様じゃないみたいだけど何者なんだよ!」


 と痛いところをついてくる。


「お、俺は……あ、相棒だよ! こいつの相棒だ!」


 すると当の相棒が


「そうなの?」


 と無邪気に訊いてくる。


「そうなんだよ!」

「え~怪しいけどなあ~」


 と蔑みの表情を浮かべる健太。


「相棒だって言ってんだろ!」


 と千里が掴みかかったところで、


「はいはい、喧嘩はそこまで。弟子同士の争いは禁止です」


 朱音の仲裁がはいった。


「は?」


 間抜けな声をあげたのは千里。


「——ってことは!」


 対照的に期待に目を輝かせるのは健太。

 朱音は母親に向き直って、


「そういうわけで、このお話お引き受け致します」


 と微笑んだ。

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