第1話
可愛い
綺麗な籠の中
その声は麗し
外を恋うて鳴く
その声もまた愛らし
それは微かな声だった。王宮の片隅、王太子のための庭で耳を澄ませなければ聞こえないほどの。
雨季の恵みを受けて青々と眩く色づく庭の向こう側を一瞥し、男は不快そうに顔を歪ませた。
「金糸雀か」
同行していた老人が、彼の名を呼んで
「ケビール、殿下は『鷹』だと仰っていたよ。それにこの国で儂ら
「分かってるよ。でも、奴隷には違いない。大体、鳥人の女の子を王子サマの名代になんて、誰が考えるんだよ」
男の足は歩みを早める。美しい細工が施された木製の柵の向こうにいた少女。彼女の背から生えた大きな翼だけを見れば、鷹と同じようなものだと言えなくもない。だが、この王国にいる限りはそれだけでは済まされない。
翼の生えた人間は「
そのめったに見られない鳥人がこうして王宮の中に居る。それは王族の奴隷をしているということだ。それが男を苛立たせた。
「鳴かせるから『
そう言いかけて男は視線を足元に落とす。彼に配偶者はまだいない。
そんな自信なさげな様子を見て、老人は皴の奥に潜む目をますます優しく細めた。
「そう思うなら、自分の嫁さんは精一杯大切にしてやるんだな。大体、お前さんは条件が多すぎるんだ。もっと、可愛ければいいとか、よく働けばいいとかそのくらいにしておかんと、嫁のなり手が……」
いやだ、と言いたげに男はフン、と鼻を鳴らす。まだまだ少年が青年になったばかりの年頃だ。夢が捨てきれないのだろう。
「俺は美人がいいとかいい子を産みそうな尻が良いなんて、ちっとも思わないね。守りたくなるような笑顔をしていて、気が強すぎないけど芯が強い子がいいんだ。あと旦那を尻に敷けば良いとか思ってるのは絶対にごめんだ」
多分好みに合う人物はいないだろうな、と老人は虚空を眺めて溜息をついた。この手の男はどれだけ美丈夫でよく働いても、女達から
ケビールも例にもれず、貰い遅れて無難な相手を宛がわれることだろう。そして、そんな男のところへ来てくれるのはとびきり気の強い女だ。それだけは間違いない。
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