テレビはなくても
シヨゥ
第1話
久しぶりに友達の家へ遊びに行くと部屋の様子が変わっていた。
「あのでっかいテレビはどうしたんだ?」
「処分したよ」
「買ったばかりじゃなかったっけ?」
「そうだけど、いらないかなって思い直してさ。その代わりにこれを買ったんだ」
そう言ってモニターに手を置く。
「それじゃあテレビは見れないだろ」
「見たい番組もないしね。ゲームをするならこれで十分」
「たしかにそうだけど……ニュースとか少しぐらい見とかないとダメだろ」
「それ、決めつけだよね。社会人はニュースを見ないといけないって」
「そうだけど、世間で何が起きているか知らないと不利じゃない?」
「別に。僕は自分の手の届く範囲の情報が手に入ればいいと思うよ」
「自分の手の届く範囲?」
「そう。自分が動いて影響を与えることができる範囲と言ってもいいかな」
「具体的には?」
「いらないものを話しちゃった方がいいかな。例えば芸能人の結婚。僕には全く関係ない」
「たしかに」
「例えば政治家の汚職。勝手にやって、勝手に罰せられたらいい」
「たしかに」
「あとは遠いところで起きた事件事故。そんなもの知っても気分が悪くなるだけだ。ひとかけらも利益にならない」
「たしかにな」
「だからそんなものを注ぎ込んでくるテレビはいらないと思ったんだ。人一人が抱えきれる情報なんて高が知れている。だからこれで気になるニュースを見るだけで十分」
そう言ってスマートフォンを持ち上げた。
「知るって快感でもあるけど、ストレスでもあるんだよね。僕はそんなストレスを感じるなら知りたくないんだ。だって僕はマイペースに、ゆっくりと生きたいんだからね」
「それならニュースはいらないな」
「だろう?」
納得がいった。見回してみると雑誌の類やラジオなんかもなくなっている。徹底して情報から離れようとしているような気がする。
「なんか本当に変わったな」
「まあ今はそういう心境なんだよ。外野がうるさい。そう思えて仕方がないんだ」
「じゃあこんなことを訊く俺もうるさい外野なのかな」
「そんなはことはないさ。まだ僕にも情というものは捨てきれないからね」
そう言って笑う友達。その顔を見て、情を捨て去った時この部屋はどう変わるのだろうか。そんな少し怖い想像をしてしまうのだった。
テレビはなくても シヨゥ @Shiyoxu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます