まとまりの無い架空戦記短編集

蒼 飛雲

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日米10大空母決戦 ~死闘のミッドウェー~

第1話 第一航空艦隊

 空母六隻を基幹とする機動部隊がその舳先を東に向けて進撃している。

 開戦以降八面六臂の活躍、向かうところ敵なしと評判の第一航空艦隊だ。

 搭乗員はその多くが熟練、他の乗組員も一部の補充兵を除き実戦経験を積み重ねた百戦錬磨の強者ばかりだ。

 多くの将兵は一航艦こそが世界最強、無敵の艦隊だと信じている。

 しかし、一航艦上層部、少なくとも司令長官と参謀長の見解はそれらとは違っていた。


 「こう言っては不謹慎だが、米機動部隊の帝都空襲によってMO作戦が中止になったのは僥倖だったのかもしれんな」


 一航艦を率いる南雲長官、その彼が隣の草鹿参謀長に声をひそめて話しかける。

 実は一航艦司令部はインド洋作戦の直後、連合艦隊司令部より麾下の一部の空母がMO作戦に投入されることになると事前通告されていた。

 MO作戦は米豪遮断こそが戦略の王道だと考える軍令部の主導によるもので、彼らの作戦に対する決意には並々ならぬものがあった。


 しかし、四月に起こった空母「ホーネット」とB25爆撃機による帝都空襲が状況を一変させる。

 空襲を仕掛けてきたB25に対し、帝国陸軍と同海軍は全力でこれを迎撃したものの、その多くを取り逃がしてしまった。

 そのうえ、やっとの思いで撃ち墜としたはずの一機があろうことか宮城に墜落してしまう。

 幸い、死傷者は出なかったものの、本土における防空態勢の不備をさらしたあげく、お上の命まで危険な目に遭わせた陸軍と海軍はそれこそ面目丸つぶれだった。


 そのことで、米豪遮断よりもまずは厄介者の米空母を撃滅して帝国の空の安寧をはかるべきだという陸軍と、「いま一度、宮城に万一のことがあったら軍令部は責任が取れるのか」という山本連合艦隊司令長官のツープラトン口撃に、さすがの軍令部もMO作戦についてはこれの延期を認めざるを得なかった。

 もし、仮にMO作戦が予定通りに実施され、一航艦が同作戦のために空母を派遣していたとしたら、その空母はスケジュールのタイトさからMI作戦への参加は絶望的だっただろう。

 しかし、MO作戦延期のおかげで一航艦はインド洋作戦に参加した第一航空戦隊の「赤城」と第二航空戦隊の「飛龍」と「蒼龍」、それに第五航空戦隊の「翔鶴」と「瑞鶴」、さらに修理が完了した「加賀」を加えた空母六隻態勢でMI作戦に臨むことができた。


 「そうですな。空母が六杯あることでミッドウェー基地攻撃と敵機動部隊攻撃の役割分担が可能になりましたから。ただ、真珠湾のときのような定数いっぱいの完全編成では無いこと、それと搭乗員の練度がかなり落ちているのが少しばかり気がかりです」


 南雲長官のささやき声に草鹿参謀長も小声で応じる。

 この時期、世界最強をうたわれる一航艦ではあったが、その力の源泉とも言うべき艦上機隊のほうは、はっきり言ってジリ貧状態だった。

 定数を満たしている空母は一隻もなく、「翔鶴」と「瑞鶴」に至っては今回の作戦では七五パーセントの充足率でしかなかった。

 それに、一航艦は開戦からの連戦で少なくない熟練搭乗員を失っている。

 さらに、拡充が著しい基地航空隊の基幹要員あるいは練習航空隊の教官として転出していった者も少なくない。

 その穴埋めとして新たに配属されてくる搭乗員たちは筋は悪くないのだが、それでも古参兵に比べれば物足りなさが残る。

 艦上機の数もそうだが、搭乗員の質の低下も深刻な問題として一航艦司令部の悩みのタネとなっていた。

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