お前がいなければ

@anv

第1話 プロローグ



 兄上は、優しい人だった。


 友人や家族のこととなると、自分の身を顧みなかった。


 特に、生まれつき病弱な僕のことを気にかけてくれていた。


 でも、その優しさは少しいきすぎていて。


 今でも、まるで人が変わったように暴力的になっていた兄上の姿を思い出す。


 僕達や母上に手をあげる親父に必死で抵抗していた姿…………。


 僕を殺そうとしてきた奴を、殴り殺した姿

……………。


 親父の罵声、母上の涙、血の臭い、そして、兄上の最期の笑顔………思い出すのはいつも同じ。


 兄上は決して悪くない。周囲の環境が、あんな結果を導いてしまったんだ。


親父がまともだったら、家が貧しくなかったら、僕が病弱でなかったら。


きっと兄上は、死刑にならずにすんだんだ。








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