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 ちちち、まずはじめに言っておくでち。僕らはとても臆病な存在なんでち。それこそ鼠のように臆病なんでち。そこのところがどうにも誤解されがちで困るでち。


 人間の世界には攻撃は最大の防御という言葉があるでちね。僕らは人間を恐れればこそ、攻撃を加えるんでち。何もむやみやたらと人間を襲っているわけではないのでち。人間が僕らに無関心でいてくれるかぎりは争いなんて起きようもないんでち。僕らのことは放っておいてほしいんでち。


 僕らはいつも怯えてるでち。だから、僕らは隠れるでち。その方が双方にとって幸せなんでち。僕らにとっても、人間にとっても。顔を合わせてしまったらそれは双方の悲劇でち。そうなったら生き残れるのは人間か僕たちかの二つに一つ。ああ、こんなに悲しいことがほかにあるでちか。僕たちは互いに見て見ぬふりをして共存するのが一番平和なんでち。


 それが邪教の人たちときたらひどいものでち。あの人たちは僕らを追い立てることはしないけど、代わりにじっと観察してくるでち。その視線がこそばゆいのなんの。勘弁してほしいでち。僕らはわかり合えない。そのことをまず理解してほしいものでち。まったく、人間っていうのはなんでこうも馬鹿なんでち? 君の家族や友達にしたってそうでち。散々追いかけ回されて、僕がどれだけ怖かったかわかるでちか? あの人たちは殺されて当然だったでち。


 ちちち、その意味で、君は賢明でちね。七年前、君は僕を見るや否やショックで気を失ったでち。結果として、それが君の身を助けたんでちよ。君は僕を「見なかった」ことにしてくれたでちから。あのときは本当にほっとしたでち。


 ちちち、でも、そのときのことが後遺症になったようでちね。君は度々意識を失うようになったでち。それはたとえば祝詞を唱えてるときだったり、僕ら魔臼と相対したときだったりするようでちね。人間の世界には夢遊病って病気があるでちね。君に起こっていることはそれに近いでち。体は動けども、心は眠ってるんでち。


 ちちち、きっと君は僕たちとよく似てるでち。とっても臆病で、だから心を眠らせないと魔臼の一匹も殺せないんでち。僕に止めを刺せずにいるのがその何よりの証拠でちよ。


 よくしゃべると思っているでちか。ちちち、僕らはとっても臆病で、だけどとってもおしゃべりなんでち。それこそマウスそのもののように。でも、さすがの僕もしゃべり疲れたでちね。君もいい加減、祝詞をやめたらどうでち。ほら、外を見るでち。他の魔臼が集まってきてるでちよ。僕の相手をしている暇があったら、彼らを片づけた方がいいと思うでち。

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