街道での出会い
山越えが終わり、街道へとたどり着こうという手前の林の中で……
俺たちは、異様な集団を目にした。
彼らは木々に紛れて、街道を伺っている。
最初は山賊かと思った。
だが、山賊とは雰囲気が異なる……おそらくは、ゲリラ戦を得意とする革命軍の一つだろう。
木々に隠れる彼らの背中をさらに後ろから見ながら、俺はリリスとひっそりと身を隠す。
助かったのは、リリスのセンスの良さだ。
まだ幼い少女ながら、神術エネルギーを見事に抑えて気配を消してくれている。
リリスを後ろから抱きしめながら、俺は静かに声を発する。
「リリス、彼らが危険なのはわかるね。
彼らが去るまで、隠れておけるかい?」
そう聞けば、リリスはコクリと首を縦に振った。
――馬の足音が響く。
一台の豪華な白い馬車を、二頭の馬が引いている。
その横の四頭の馬には、護衛らしき騎士たちが乗っていた。
革命軍が貴族の馬車を襲撃する、そういったところだろうか?
革命軍側が二十名弱。
貴族側が四名の護衛と、力の無い御者……馬車の中身はわからない。
革命軍側が有利と俺は見立てた。
――襲撃が始まる。
弓矢による不意打ちに、四人の護衛は馬から落とされる。
「何事か!?」
気丈な雰囲気の女の声がして、馬車の中から声の主が現れた。
それは、男が着る騎士の制服を着ていたが、金色の長い髪のポニーテールが、遠目に見ても美しい――女だった。
「おのれ、山賊め!」
女は叫び、飛びかかる襲撃犯たちに雷撃を放ち、不意打ちによる速攻を止めてみせた。
俺の見立ては間違いだったらしい。
騎士の制服に身を包んではいるが、お嬢様といった感じのその女。
その実力は、護衛たち以上だ。
貴族側の戦力も相当なもの。
勝負はわからない……だが、影からの矢が、女の肩を射抜いた。
「……ゼノさん、助けてあげて。」
抱きしめるリリスの、小さな声。
――助ける?
貴族には死んでもらった方が助かるし、この人数の相手は無理というものだ。
ただ、隠れて見ているのがベスト。
そう思ったが、リリスがそれを許さない。
今度は大きな声で、リリスは叫ぶ!
「ゼノさん、お願い!」
その声に、林の中の襲撃犯たちが一斉にこちらを向いたのだ。
――ちっ!
木の間に一人、二人……全部で十五か。
そう数えなら、彼ら全員の位置と、それらへと向かう通り道を確認する。
その通り道に、木々の隙間を縫うように、俺は雷撃を走らせる!
遠距離、かつ精度のいる神術。――運良く相手の動きを止められた。
雷撃だけで倒れ込んでいる者もいる。
俺はリリスの元を離れナイフを抜き、雷撃を通した道を今度は自分が駆けてゆく。
そして、木々に紛れる彼らを後ろから襲うのだ。
不意打ちに何もできない者、神術を放つも、木々に阻まれる者、この木々の中で長剣を抜き、自ら動きを鈍らせる者。
全員が鍛え上げられた兵士というわけでは無いらしい。
近づきその顔を見れば、まだ若く、十代後半といった者も多い。
怯えた若い顔を見て殺すのをためらい、その若者たちを俺は雷撃で眠らせた。
軍人らしき男もいたが、一般人だろう青年の方が多かった。
潰れた国領、潰れた貴族領、それらの元兵士による革命軍。
そこに、平民の若者たちが取り込まれていく……そういった成り立ちか?
どうやら自分たちが後ろから襲われる想定は、全くしていなかったらしい……
大した相手にはならない。
思いのほか手薄……実力者は、街道に飛び出した奴らだろう。
戦い慣れしていない若者は、雷撃で仕留めた。
戦い慣れしていそうな男は、その首をかき切った。
そうして俺は、林の中を制圧。
そして、街道へと飛び出したのだ。
矢で肩を射られても、気丈に戦っているお嬢様が俺を見て叫んだ。
「新手か!?」
街道に出て、馬車の四方を取り囲んでいた襲撃犯たちも、俺の方を向く。
俺は女だけを見て、ナイフを向けて宣言してみせる。
「俺はあんたの味方だよ。」
俺の宣言にお嬢様は目を丸くしたが、笑顔を見せて返してくる。
「そうか、助かった!」
――このお嬢様はアホなのか?
俺を素直に信用したらしい……
だが、その緑の瞳は真っ直ぐで、俺が苦手な輝きを放っている。
――意志を宿した真っ直ぐな瞳――
他人をすぐに信用してしまう世間知らずのお嬢様に呆れていたが、今度は逆に驚かされる。
「は、ああああああああああ!」
お嬢様が叫ぶと、神術エネルギーが彼女を中心に膨れ上がる。
その膨れる光に襲撃犯たちは弾かれて、散り散りに飛ばされた!
――神具の壁!?
このお嬢様、神具持ちか!
お嬢様の持つ長剣――その刃は青白く光り、柄は金製で、埋め込まれた宝石が見える。
――間違い無い!
女を殺して神具を奪うか?
怪我人を回復して体制を整えるか?
八人の襲撃犯のどれから倒すか?
俺は選択肢の多さに行動を迷う。
――そこに、お嬢様が叫ぶのだ。
「林側の四人を頼む!」
多いよ!?
そう思ったが指示に従い、体は林側の襲撃犯たちへと向かっていた。
長剣相手にナイフは厳しいか?
一人目は上手く懐に潜り、左手で剣を持つ相手の右手を掴めた。――相手は驚いた顔のまま、俺に首を刺されて死んでいく。
すぐに、二人目の突きが飛んでくる。
その突き放たれた剣に、自分のナイフを滑らせながら相手へと近づく。そして、相手の胸ぐらを掴み、首にナイフを突き立てた。
三人目!
少し遠目で振りかぶる相手に、雷撃を当てる。
そして真っ直ぐに、彼の心臓にナイフを突き刺した……その瞬間だ!
――四人目!
その突きが三人目の背後から、俺の顔面目掛けて飛んできていた――即死コース!
不意打ちに死を覚悟したが、その突きは急に軌道を変えて逸れていく……四人目の横っ面に、雷撃を伴ったナイフが刺さる!
その不意打ちは……
男にナイフを刺したのは、林から飛び出て来た金色の髪の少女だった。
男はその攻撃に、地面へと倒れ込む。
必死だっただろうリリスは、しばらくその倒れた相手を見つめていた……
俺とリリスは共に息切れを起こしながら、ゆっくりと目を合わせる。
そして俺は、緑の瞳に礼を告げた。
「――リリス、助かった。」
そうすれば、リリスは優しい微笑みを返した。
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