老人と獣
仲仁へび(旧:離久)
第1話
とある世界。
どこかの世界。
その世界には、突如化け物がやってきた。
その来訪は唐突で、予測なんてできるはずもなかった。
だからその世界の住人達は、みな慌てふためいた。
満足に対策もとれないまま、翻弄されて。
またたくまに、多くの生命が脅威にさらされていった。
化け物に襲われ、命を落としていった。
「ひいいっ助けてくれ!」
「いやつ、まだ死にたくない」
多くの生命たちは逃げ惑うしかない。
その世界にやってきた化け物は、悪魔の様に人間や生き物達に、襲い掛かり、むしゃむしゃと食べ始めた。
その結果、非力な生命たちは、どんどん数を減らしていった。
そして、多くの種が消え、血が途絶えていった。
化け物のその強さは、どんな武器も毒も兵器も通じないほど。
誰もその化け物を倒す事ができなかった。
人々は畏怖の感情をこめてその化け物を、デビルと呼んだ。
しかし、その出来事は歴史書に記されない。
歴史が途絶えてしまったからだ。
生き残ったのは、数人の金持ち達だけ。
いつかデビルがこの世界から去ってくれると、儚い希望を抱きながら、彼等はコールイドスリープした。
しかし結局、彼等も生き残れはしなかった。
機械の故障によって、強制的に目覚めさせられた彼らは、何も変わらないままだった非情な世界に放り出された。
彼等は無力なままデビルに襲われ、死んでいった。
しかし、そんな彼らの中、たった一人だけが生き残る事が出来た。
その人物は、多くの獣を従えて、デビルの脅威から逃れていた。
なぜか、その世界では四足獣の獣だけが生き残っていた。
そしてデビルはなぜか、それらの獣が苦手らしい。
生き残った人間は、多くがいなくなった世界で、獣と共に生活し続けた。
獣は、笛の音によって制御され、人間の指示をよく聞いた。だから人に襲い掛かる事はなかった。
獣は順々に人のために、デビルを追い払い続ける。
その対価に、人間は働く獣を労い、食べ物を与えたり、住みかを作ってやったりした。
やがて人間は、年老いて寿命を迎え、横たわるだけの存在となった。
笛を吹く事もできないくらいに弱々しくなってしまった。
しかし、獣はその人間の元を離れなかった。
「お前達、笛の音がなくとも私を守ってくれるのか?」
指示がなくとも、デビルの脅威から最後までその人間を守り続けた。
そこには、確かな絆が芽生えていた。
老人と獣 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032
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