愛ちゃんと僕 -おさななじみの愛ちゃんは塩対応だけど、僕は気にしない。愛ちゃんのことが大好きだから……。-

福守りん

しゃぼん玉

 中学一年の、夏休み。

 愛ちゃんが、しゃぼん玉をしていた。

 おさななじみの、僕と同じ年の女の子。

 僕の家の、すぐ近くに建ってる家だから、僕の部屋の窓から姿が見える。

 ベランダのはしっこにいる愛ちゃんは、たくさんのしゃぼん玉に囲まれていた。

 鍵をあけて、ガラス窓を横にずらした。


京助きょうすけ。おはよ」

「おはよう。なにしてるの?」

「遊んでる」

 あっさりした返事だった。

「しゃぼん玉なんか、するの」

「たまに。さいきん、はまってるの。

 京助も、やる?」

「やる。届くかな……」

「届くよ。はい」

 二人で、手をのばした。届いた。

 しゃぼん液の入ってるピンク色の容器ごと、緑色のプラスチックのストローを渡された。

 愛ちゃんの指先が、僕の手にふれた。

「部屋に、入ってきそう」

「だいじょうぶだよ。ただのせっけんだよ」

 ストローを口にくわえて、ふーっと吹いた。

 ぶわーっと、小さなしゃぼん玉が大量発生した。前から風が吹きつけてきて、僕の顔と体に、しゃぼん玉がぶつかってくる。しゃぼん玉が、ぱちぱちとはじけた。

 めがねにも、いっぱいぶつかった。

「うわっ」

「多い」

 ベランダで笑っている。

 肩がでてる、赤いワンピースを着ていた。

「もっと」

「するから。待って」


 ふーふー吹いていたら、なにがおかしいのか、手すりに額がつくくらいに、脱力しながら笑っていた。

「笑いすぎ。愛ちゃん」

「ほっぺが、まんまる……。やばい」

「たくさん作るには、たくさんの空気が必要なんだ」

「そうだよね」

「返すよ」

 容器を渡した。愛ちゃんが受けとる。

 また、ふーっと吹いた。

「宿題、した?」

「ぜんぜん。京助は?」

「してるよ。毎日」

「えらいね」

「うちで、やる?」

「うん。吹きおわったら、行く」

 やった。今日も、いっしょにいられる。


 白い雲と、青い空。かわいい愛ちゃん。

 愛ちゃんが、僕にむかって吹きまくったので、しゃぼん玉がどんどん入ってくる。

 部屋がせっけんのにおいになった。


「せっけんのにおいが、すごい。お風呂に入ってるみたいだ」

「ごめんね」

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