鬼離殺が棲む孤島

ウニ軍艦

始ノ章

 小さな島の広場の中央に大量の薪が用意され、炎が焚かれる。孤島の祭事。

 燃えゆく様子を見守る人々は朱色に照らされていた。

 ひとりの少女も同じように群衆からやや離れた場所に立ち、じっと炎を見つめていた。だが退屈になってきたので屈みこみ、足元の土に落書きをはじめる。

「なにしてるの?」

 声をかけられたので少女が顔を上げてみると、通っている小学校で同じクラスの、ほとんど話をしたことがない女の子だった。

 地面に視線をもどして、「……らくがき」とだけ答えた。

「なに描いたの?」

 絵を指さして問う。棒人間が横たわっている絵だ。それだけではなく、棒人間からは何本かの縦線が上に伸びている。寝ている人間から草が生えているようだった。

「にんげん」

 と少女はいった。

「人間から草が生えてるの?」

「草じゃないよ」

「じゃあなに」

「くさび」

「……草と違うの?」

 少女は首をひねって、「くぎ、みたいなやつ」

「ふうん。……刺さってるの?」

「うん」

「……じゃあ死んで、るの?」

 そう訊かれて、少女はこくりとうなずく。

「だれがやったの?」

「お母さん」

 即答したが、くちにしてから少女ははっとした。

「ごめん……うそ」

 少女は同級生の顔を見ていう。

「うそつきだ」

「うん。ごめん」

 ちょうどそこへ、恰幅のいい中年の男が小走りで寄ってきた。

「お嬢さま、何度もいっておりますが……」

 男がいうと、少女はさっと立あがって、

「もう行かなきゃ」

 と女の子に告げる。

 ばいばい、と手を振られたが、少女が振り返すことはなかった。

 少女は炎が焚かれる広場から遠ざかっていき、闇のなかに霞んでいった。

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