〈15〉【終わりの黒、始まりの白】


 背後にて迫り来る、落石の雨。

 頭上から降り注ぐ、無数の砂埃。

 そして、退路の先より差し込む、太陽の光。


 そう、既に脱出を果たしたであろう二人の背中へと続こうとしているのは……。

 最後尾で激しく息を切らす──【紅】の少年である。


「はぁ……、はぁ……、ぐっ……!?」


 体力に限界が訪れているのか。

 未だ神殿内から一人、抜け出せていない様子の彼。


 果たして、このまま無事に……。

 外へ逃げ切れるのだろうか?


 すると、俯きながらフラフラと走る少年の前に。

 まもなく、とある人物の手が差し伸べられる。


 

『──【紅】くんっ!!』



 その通り。

 前方の出入り口から身を乗り出すようにして現れたのは、【紫】の乙女であった。


 おそらく、脱出に手間取っている少年の存在を、いち早く察したのであろう。

 自らの危険を顧みず、わざわざ出口付近で待ってくれていたらしい。


「……なっ!? ……お前、まだ避難していなかったのか……?」


「頑張ってっ! ほら、あともう少しだよ!!」


 伸ばした手で少年の袖を掴み……。

 神殿の外へと引っ張り出してみせる、【紫】の乙女。


 ……が、しかし。

 事件が起きたのは……。


 そんな少年が神殿からの脱出を果たそうとする。

 まさに、その瞬間であった──



「……っ!?」



 ──頭上側から響いてくる。

 ガラガラとした謎の異音。


 おそらく、形を維持できなくなっている神殿の外壁が、一部だけ剥がれ落ちてきたのであろう。


 少年達が外に飛び出すや否や。

 一枚の大きな岩塊が、不運にも降り注いでしまったのである。


「くそっ……!?」


「……っ!!」


 瞬間、少年の頭を守るようにして。

 咄嗟に自身の胸の内へと強く抱き寄せる、【紫】の乙女。


 ……ただ。

 そんな風に岩壁の影で覚悟を決めようとする。

 彼らの近くでは──



『本当、よくやったぜ。……お前さんら!』



 ──どうやら、ドンと大きく片足を鳴らしてくる人物も、また別に存在していたらしい。


 そう、低姿勢で身を寄せ合う彼らの前に現れたのは、誰よりも大きな背丈を持つ、【灰】の大男。


 なんと、彼は両手に握っていた戦斧を地面に投げ捨てると……。

 そのまま少年達へと降り注ぐ一枚の外壁を、自らの背中で受け止めてしまったのである。 


「……ぐ、ぐぅぅ……っ!?」


 ズシンと響く強烈な衝撃音と共に。

 真下でうずくまる二人の近くへと片膝をつけてしまう、大男。


 一枚の分厚い岩と地面が作り出した僅かな隙間の中で、鼓動を加速させている様子の少年達であったが……。

 彼の働きによって、何とか最悪の結果だけは免れることが出来たようだ。


「ぐおぉっ……!? い、痛ってぇぇ……!!?」


 ただ、二人の真上にある大きな体躯の持ち主からは、当然ながら苦痛の呻き。

 ソレどころか、彼の後頭部からポタポタと数滴の血液が流れ落ちてくる始末である。


 このままでは……。

 地面の隙間から岩を支え続けている大男ごと潰されてしまうのも、時間の問題となるだろう。

 

 なので、そんな彼の姿を見た少年達も……。 

 すぐに岩の下で次のような行動を取り始めた模様。


「……おい、【紫】っ! あの斧をっ!」


「うん! 任せて!!」


 支柱となりうる位置を迅速に探し出して。

 そのポイントに目印を刻み始める、【紅】の少年。


 加えて、足元に転がっている大きな戦斧を引き摺るようにして回収し、ソレを指定の位置へと縦向きで構え始める、【紫】の乙女。


 その通り。

 彼らが協力して作り出したのは、岩と地面に対する即席の支柱である。


「【灰】さん、岩を固定させたよ!!」


「ほんの数秒ほどしか持たん! すぐに出ろ!!」


 すると、そんな彼らの働きもあり……。

 下で支える大男も、岩の隙間から飛び出すように逃げ出すことが出来たようだ。


「……うっし! これで全員だなっ!?」


 ミシミシと軋ませた斧が割り砕ける音を背後で感じ取りながらも……。

 息つく暇すら与えられないまま、各々で神殿から遠ざかる、五人。


 そして、四方を囲う防壁まで避難したのちに。

 壁に手を当てながら、ゆっくりとその場を振り返ってみる彼らであったが……。

 背後では既に、滅びゆく神殿が最期の時を迎えていたらしい。


「……はぁ、……はぁ……」


 ガラガラと鳴り響く、絶え間ない轟音。

 天高く舞い上がる、砂塵の雲。

 瞬く間に高さを失いゆく、神聖な建造物。


 まるで、先程までの慌ただしさは何だったのかと言わんばかりに。

 ソレは一瞬にして、形を消し去るのであった。


「……」


 やがて、途端な静寂へと包まれゆく。

 色とりどりの男女達。


 ただ、そんな空気も……。

 ほんの暫く。


 次第には、崩落した神殿の残骸を無言で眺めている彼らの間で、ポツリポツリとした小さな会話が生まれ始めていたようである。


 そう、最初の独り言を発した人物は……。

 推定最年少──【黄】の少女からだ。


「あ、あのネズミ……、今度こそ潰れちゃいましたかね……?」


 おそらく、神殿の下敷きになってしまった巨大鼠の存在を気にしているのであろう。

 ソワソワと防壁内を見渡しながらも、そのような疑問を呟いてきたのである。


 すると、彼女の近くに立っていた【蒼】の青年が、隣から笑顔の意見を見せてきた模様。


「いやいや。たかが落石くらいじゃ、あの硬い毛は潰せないでしょ。……多分、まだ生きてんじゃない?」


「へっ!? じゃあ、さっきみたいに! また這い上がってきちゃうかもしれないってことですか!?」


 青年の発言を聞いたせいか。

 再び、その場で焦りを見せてしまう、少女。


 しかし、逆側に立つ【紫】の乙女だけは。

 彼女が発したその可能性に、素早く否定を示してくる。


「ううん、その心配はないと思うな」


 加えて、付近に座り込んでいる少年に向かって。

 無言の視線を送り始める、【紫】の乙女。


 その通り。

 今回の作戦を立てた張本人である──【紅】の少年に、その続きを委ねようとしたのだ。


 すると、四人の視線が自身に集中していることを察したのか。

 少し間を置いた【紅】の少年は、その場でこう口にしてきた。


「……どれだけ強大な力を持っていようと、生物として存在していることが弱点になる」


 ただ、その言葉を聞いても尚……。

 ポカンとした表情を浮かべている様子の、【黄】の少女。


 なので、少年は小さな嘆息と共に。

 更に分かりやすい言葉で。


 その意味を。

 静かに訂正してみせる──




「餓死、溺死、圧死……。色々と考えたが、やはり『呼吸手段を断つ』という方法が最も手っ取り早いようだ」




 ──そう、この世には。

 不死身の生物など存在しない。


 例え、どれだけ強大な存在であろうとも。

 生物でいる限りは、全ての死から逃れることなど決して不可能なのである。


 よって、少年が導き出した解答に。

 互いの顔を明るく見合わせることとなる、他四人。


「ふーん、なるほどね。文字通り、たらふく砂の飯を食わせてやったって訳だ」


「そ、それじゃあ……!」


「うん! 今頃は、地面の中で窒息してる頃じゃないかな!」


 そして、最後は……。

 【灰】の大男による、豪快な勝鬨が砂漠中に響き渡ったところで……。



「おっしゃあぁぁぁーー!! オレ達の勝ちだぁぁぁぁぁーーーーっっっ!!」



 彼らの初陣──【聖地解放作戦】は……。

 無事、ここにて終結を見せるのであった。


 守るべき物を失った防壁内で、横並びに座り込みながらも……。

 各々で勝利の余韻を噛み締める、五人の男女達。


 本日より、人々から放棄されし化け鼠の巣喰う。

 この聖地こそが……。

 彼らの活動拠点となるのであろう。



           *


 ──────


 ────


 ──……その夜。

 すっかりと陽が沈みきった聖地では……。

 再び、例の五人が集まりを見せていたらしい。


 そう、防壁内にて灯される焚き火を囲み、各々で静かな時を過ごしていたのである。


 すると、まもなく。

 森の方角からテクテクと防壁内に侵入してくる、一人の人物が……──


「はいはーい! 本日のみなさんを救ってあげた美少女英雄っ! めちゃカワ【黄】色ちゃんが、ただいま戻りましたよっー!!」


 おそらく、砂や血を大量に付着させた身体を、森の小川で順番に清めているのであろう。


 頭の横で一纏めにされていた髪を解き、幸せそうな表情を浮かべている【黄】の少女が……。

 ようやく、防壁の裏門側から聖地へと帰還してきたようだ。


「おっ、待ってたぜ! 【黄】の嬢ちゃん!」


 加えて、そんな最後の人物を温かく迎えてくれたのは、焚き火の前にてドカッと座り込む、【灰】の大男。

 ……何やら、温かい焚き火の炎を利用して、本日の夕食を作っている様子であるが……。

 一体、彼は何を焼いていたのであろうか?


「わぁ、良い匂ーい! もしかして、今日の晩御飯ですか?」


「おうよ。実はさっき、水浴びの帰りに【紫】の姉ちゃんが仕留めてきてくれてな」


 なるほど。

 どうやら、彼が握る削った木の枝に刺されていたモノは……。

 【紫】の乙女が狩猟してきた人数分の野鳥であったらしい。


 少女がのんびりと森で水浴びを済ませている最中に、せっせと血抜きから火通しまでの作業へと入ってくれていたようである。


「焼き上がるまではまだかかりそうだから、先にその辺で髪でも乾かしてな」


「はーい!」


 ……という訳で。

 焚き火の前にて膝を曲げつつも、辺りにいる他の人間達の様子を暇つぶしがてらに観察してみることにした、【黄】の少女。


 見たところ、防壁内には……──


 すぐ背後にある防壁の真上にて。

 寝そべりながら星空を眺めている、【蒼】の青年。


 少し離れた場所にある前門付近にて。

 一頭の馬を撫でながら外の世界を覗いている、【紫】の乙女。


 そして、焚き火付近である自身の隣側にて。

 兵達の遺品を黙々と調べあげている、【紅】の少年。


 ──という、三人の姿が確認できた模様。

 果たして、少女は誰に声をかけるのであろうか?


「ねぇー! 【紫】の人〜?」


 その通り。

 焚き火で自身の髪を乾かす少女が、迷いなく暇つぶし相手に定めた人物……。

 それは、少し離れた正面門付近に立つ、【紫】の乙女である。


「あっ、おかえり! 【黄】ちゃん!」


 唯一の生き残りである一頭の馬と並びながらも、何やら下を俯いていた様子である彼女。


 ただ、そんな少女の声に反応したのか。

 彼女はその場からすぐに顔を上げ、背後にいる少女の方へと振り返ってくれたようだ。


「そんな所で何やってるんですか〜?」


「ほら。私達が勝てたのって、この人達が武器を貸してくれたおかげでしょ? だから、助けて貰ったお礼に感謝のお祈りをしてるの」


 まだ半分と片付いていない。

 門の外に広がる無数の死体達を見渡しつつも、少し離れた場所に座る少女へとそう返す、彼女。


 なるほど。

 おそらく、無念に散った何処ぞの兵達を憐れんでいるのであろう。

 たった一人で、弔いの祈りを捧げていたようである。


 すると、そんな慈愛溢れる彼女の行動に驚いたのか。

 防壁の上で寝そべる【蒼】の青年までもが、上空から反応を見せてきた模様。


「うわっ、マジ? ……外見だけじゃなくて内側まで美人とか、無敵の存在じゃん」


 加えて、大きな欠伸を挟んだのちに。

 その場から軽々と地上に飛び降りてくる、【蒼】の青年。


 以降、暫くは……。

 そんな彼ら三人による、他愛のない会話である。


「【黄】色ガールも、チヤホヤされたいならアレを参考にすれば? 多分、爆速で人気者になれるよ」


「えー、嫌ですよ……! せっかく綺麗にしてきたのに、死体なんかに近づきたくないです!」


「そうだ。もし良かったら、みんなも一緒にどうかな? ……人気者にはなれないかもだけど、きっとこういった行いは神様も見てくれてるよ」


「うぷぷー! 全く、おっぱいデカいくせに幼稚ですねー! まさか、神様なんて信じちゃってるんですか〜?」


「ふーん。……てことは、【黄】色ガールは『神様を信じていない派』なんだ?」


「だって、神殿の中で必死に神様にお祈りしましたけど、ぜんぜん効果なかったですもん! きっと、神様なんてこの世にいないんですよ!」


 ……が、しかし。

 そう断言してみせる少女に対して。

 真っ先の否定を見せてきたのは……──



『……やはり生粋の馬鹿だな、お前は……。基本的に、神は存在するモノだと考えるべきだろう』



 ──意外にも意外。

 なんと、すぐ隣に座っていた【紅】の少年であった模様。


「「……えっ!?」」


 無論。

 あまりにも少年らしからぬ発言を耳にしてしまったせいか。

 その場で酷く驚いた表情を見せてしまう、少女と乙女。


 ただ、そんな中でも……。

 【蒼】の青年だけは、興味深そうに小さな笑いを溢していた様子だ。


「へぇ。性格に似合わず、意外と信心深いじゃん。……てっきり、『神など人間共が作り出した偶像だ』とか言い出してきそうなキャラだと勝手に思ってたけど?」


「……理論上、『神の存在を否定しない道を選んだ方が、神を否定する選択よりも僅かに利得が発生しやすい』というだけの話だ。深い意味はない」


 すると、そんな少年の回答を聞くや否や。

 「あ〜……」と納得の表情を浮かべてくる、青年と乙女。


「なんだ、そういうコトね〜」


「……あはは、【紅】くんらしい考え方だなぁ」


「えっ……!? な、なんで神様を信じた方が得するんですか!? 私にも教えて下さいよ!」


 周囲とは異なり。

 未だにその傍らで、疑問に包まれている様子の【黄】の少女。


 なので、そんな彼女に対し……。

 少年は声だけの解説をしてやることに。


「……確率論で考えてみろ。仮にもし、この世が『神の存在を否定しないだけで、赤子すら死後平等に救われるような世界』であったとすれば、お前ならどうする?」


「そ、そりゃあ……。実際にそんな世界だったら、私だって信じてあげなくもないですよ? ちょっと信じるくらいなら、タダみたいなもんですし!」


「では、いざお前の死後にそれが全て嘘であったと判明した場合、お前に限らず神を信じなかった全人類が平等に救済されなくなる訳だが……。これは、お前だけが損をする結果になりうるか?」


「……まぁ、周りの人達も揃って救われないなら『神様がいなくて残念でした』くらいの感想で終わりですかね? 私だけが損をしたとは思わないかもです」


「そう。大した労力も使わない単純な行為のみで、可視化できない加護を無償で授かれるチャンスに恵まれるのであれば、否定するよりも否定しない選択をとっておいた方が僅かに得である。……つまりは、そういう理論だ」


 少年の解説でようやく意味を理解したのか。

「ほえー」と感心した声をあげ始める、【黄】の少女。


 しかし、彼女は少し間を置くと同時に。

 その考え方のとある重大な欠陥に気がついてしまう。


「……あれ? でも、信じるだけに損や労力はないとは言いますけど、生きてる時にお祈りや供物を捧げてる熱心な人達に関しては、その時間やお金を損することになっちゃいません?」


 そう、それは。

 尽くしていた神に捧げる生前での時間や金銭は、全て無駄になってしまうのではないか……?

 ……という疑問であった。


 すると、そのような疑問をぶつけられた少年は、そこでようやく実に彼らしい本音を発してくる。


「ああ。……だから、俺は神に頼って生きるような真似は絶対にせん。神頼みの偶発に縋るくらいなら、自力による必然を頼った方がマシだからな」


 故に、彼の考えはこうである……。

 神の存在は信じてやらなくもないが、その力を過信するつもりは毛頭ない、と……。


「お〜っ、それ便利ですね!! 私もその考え頂きですっ!」


 結果、少年の考え方にすっかりと感化されたのか。

 【黄】の少女は、次第に夜の星空に向かって。

 次のような叫びを発し始めるのであった。


「……やーい、やーいっ!! 無能な神ぃ〜!!! 貴方の存在だけは認めてあげますけど、実力はそこまで認めてませんからねー!!」


 身も蓋もない少年達の会話に対して。

 少し引き攣った笑いを見せる、【紫】の乙女。


「……あ、あれ? なんだか、よりバチ当たりな結論に着地しちゃったような……?」


「まっ、神殿を攻撃手段として考えるようなヤツだしね。誘っても無駄なんじゃない?」


「あ、あはは……。そっか……」


 ただ、木の棒に刺さる鳥肉を焚き火の上で静かに半回転させている、【灰】の大男だけは……。

 少し肩を落とし始めている乙女の提案に、遅れての賛同を見せてきた模様──



「でもまぁ、実際にコイツらの武器がなけりゃ、オレ達も全滅してたことだろうし。……ここは素直に感謝を示すのが筋ってモンだろ」



 ──すると、鳥肉が刺さった木の枝を炎の中へとしっかり固定したのちに、その場をゆっくりと立ち上がる彼は……。


「うっし! 後で化けて出てこられても困るし、オレも【紫】の姉ちゃんを見習って、手向けの祈りくらいは捧げてやるとするかねぇ」


 なんと、付近に座り込んでいた【紅】の少年を、軽々と持ち上げてしまった模様。


「なっ……!? おい、何の真似だ……!」


「勿論、【黄】の嬢ちゃんや【蒼】の兄ちゃん達も、一緒に付き合ってくれんだろ?」


 続けて、そのまま自身の肩に少年を担ぎ直しながら、付近にいた他二人にもそう声をかける、【灰】の大男。


「野郎ならともかく、レディの頼みを断る訳ないじゃん。僕は最初からやるつもりだったけど」


「……ま、まぁ。神様はともかく、お化けはこの世にいるかもしれませんもんね。……呪われたら嫌ですし、私もやってあげます!」


 一人、また一人と。

 焚き火の周りから立ち上がる彼らは、気がつけば……。

 あっという間に、前門付近へと集結したようだ。


 大男の呼びかけを見て。

 ようやく飾らない笑顔を思い出す、【紫】の乙女。


「……【灰】さん」


「よーし! 全員、一分間の黙祷を開始ー! やらないヤツは、今日の晩飯抜きだぞ〜」


 すると、大男の号令により。

 乙女を筆頭とする彼らは、砂漠地帯の方に顔を向けながら、次々と目を閉じてゆく。


「……」


 しかし、そんな他四人の姿に強く呆れているのか。

 少年だけは、端の方で無愛想に腕を組んでいる模様。


 おそらく、彼だけは何となくこうなることが予測できていたのであろう。

 もしかすると、先程の一説も……。

 彼なりの牽制であったのかもしれない。


 ただ、そんな彼の不動な姿勢は。

 隣を陣取る乙女の耳打ちにより──



「……ほら、【紅】くんも一緒にやろう」


「……」


「……人様の亡骸を作戦に利用しちゃったんだから、せめてお礼くらいはしてあげなきゃ。……ね?」


「……」



 ──やがて、終わりを見せることとなる。


 そう、早く終わらせようと。

 ついに彼も、形だけの祈りを捧げ始めたのだ。


「……」


「……」


「……」


「……」


「……」


 瞼の向こう側に広がりし……。

 巨大鼠に喰い荒らされた、亡者達。


 そんな他者の無念に対して。

 彼らは暫し、弔いの祈りを見せ続ける。


 ……が、しかし。

 事件が起きたのは……。


 まさに、その瞬間であった──



「──……っ!?」



 その通り。


 祈りを見せる彼らを襲ったのは……。

 どこかで聞いたことのある、煩わしい耳鳴り。

 加えて、視界の全体を覆いし眩い『何か』である。


 ……間違いない。


 コレは──『光』だ。



「……きゃあ!?」


「な、なんだっ……!?」



 彼らの前にて。

 一際に輝く、眩い閃光が襲いかかったのである。


 そして、そんな光にも……。

 この星空の下に並んだ【五色】と同様。

 己を象徴せし、唯一の色がある。



「……なっ!?」



 一切の穢れを知らぬ、長き白髪。

 ふわふわと宙に浮かぶ、まっさらな素足。

 無垢を印象づける、透き通った瞳と小さな背丈。


 そう、祈りを捧げる彼らの前に浮遊していたのは……。

 儚い表情を持つ、一人の幼子。


 やがて、彼らの運命を自らの色に染め上げんとする、かくも儚き──【白】の子なのである。



           *

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