〈16〉【夜明けの聖地】


 翌朝。

 

 平穏が戻る夜明けの聖地では……。

 早速、例の五人達による新たな取り組みが行われていたらしい。


 その通り。

 一本の細みな木と共に、防壁の裏門を跨いだのは……。

 額から健康的な汗を流している、一人の大男である。


「──……うっし! ひとまず、こんだけ拾ってくりゃ十分だろ」


 砂漠の防壁内へと足を踏み入れるや否や。

 肩に担いでいたソレをドサリと地面に降ろし始める、【灰】の大男。


 なるほど。

 どうやら、一夜をやり過ごした防壁の中央には……。

 今はただの石片となった神殿の残骸達に加えて、彼が外から持ち込んだであろう倒木の多くがズラリと並べられていたらしい。


 すると、残骸の隣側にて自らの肩を叩きほぐしている彼は……。

 自身の隣にいた人物に向けて、一息ついでに次のような依頼を投げかけた模様。


「おーい、【黄】の嬢ちゃん。 悪いんだが、ちょいとばかし向こうの遺品置き場から、オレの分の『短剣』も探してきてくれないかい?」


「え〜……!? またですか!?」


 そう、中央に積まれし残骸の上で、ぷらぷらと両足を揺らし続けていたのは……。

 退屈そうな顔で時を過ごしている【黄】の少女である。


 おそらく、すっかりとその場へ腰を馴染ませていたのだろう。

 残骸に座る彼女は、すぐさま億劫そうな言葉を返してきた様子である。


「面倒くさいですよー……。さっき【紫】の人に渡したヤツを、二人で交互に使えばいいじゃないですかー……」


 そして、そんな会話が耳に入ったのか。

 近くで黙々と作業をこなしている別の色もまた、ぎこちない笑顔をそっと振り返らせてきた模様。


「ご、ごめんね。……私も、【蒼】くん達が運んできてくれたこの木を加工するのに必要なんだ」


 一本の短剣を片手に。

 持ち込まれた倒木の皮をベロリと剥いでいるらしき、【紫】の乙女。


 地面に座り込んでいる彼女は、そんな二人に挟まれつつも……。

 ただただ、困ったような笑いを見せているばかりであったようだ。


 その通り。

 本日の聖地にて取り行われていた作業は……。

 森から調達してきた木々達を主な構造材とする。

 ──『木造家屋の建築』である。


 すなわち、護るべきモノを失ってしまった防壁内に、今後とも必要となる自身らの新たな拠点を築き上げてしまおう、と考えた訳なのだ。


「さて、手が空いちまったことだし。オレもそっちの木材作りの方を手伝ってやるとするかねぇ。……【紫】の姉ちゃん、今の内に何か素手でも出来ちまいそうな仕事は余ってないかい?」


「ありがとう、【灰】さん! それじゃあ、ここにある枝をぜんぶ折ってってもらおうかな!」


 ……差し詰め。

 今は五人で役割を分担し、必要な木材の調達から始めている、といったところなのであろう。


 【蒼】の青年が、森の中から横たわる倒木達を選別して、ソレを砂丘の上から防壁側へと蹴り転がし……。

 【灰】の大男が、裏門付近の壁に激突して溜まりゆく倒木達を、防壁内へと運搬。


 そして、最後は……。

 防壁内にて待つ【紫】の乙女が、運ばれてくる木々達に刃を入れ、枝と皮を取り除いた光沢のある『丸太』へと仕上げていたようである。


 しかし、そんな働き者である彼らとは違って。

 防壁の一角に設けられた『遺品置き場』の方へと指を差し示してくる、【黄】の少女。


「言っておきますけど、その一本を探すのにだって、ものすごく苦労したんですからね! ……知らないでしょ!? あんなに沢山の袋の中から、特定のモノを見つけるのがどれだけ大変か!」


 見たところ。

 少女は終始、彼らの働く様子を近くで傍観しているだけのようだが……。

 そんな少女にも、温厚である彼らは変わらずに優しい言葉を浴びせていたらしい。


「まぁまぁ、そう言わずに頼まれてくれよ、嬢ちゃん。……ほら、いつまでも砂に塗れながら眠る生活なんてのは、お前さんも嫌だろ?」


「えー、でも〜……」


「大丈夫! 向こうには、昨日から調べ物をしてる【紅】くんもいると思うから! 事情を話せば、力になってくれるんじゃないかな?」


 すると、物腰の柔らかい彼らの説得が響いたのか。

 ようやく、その場から渋々と重い腰を上げ始める、少女。


「もー、分かりましたよ〜! 探しに行けばいいんでしょ、探しに行けば!!」


 彼女はブツクサと小さな不満を漏らしながらも、次第に防壁内の一角へと足先を合わせるのであった。


「……もう、あの人がいるから行きたくなかったのに」


 加えて、そんな重い足取りの進行方向には……。

 まだ仕分けが済まされていない、山積みとなった大量の袋達。


 おそらく、死傷兵達から回収したであろう武具やまだ使えそうな旅道具などが、無造作に中へと押し込まれているのであろう。

 これでもかというほどの遺品達が、ぎっしりと溢れかえっていたらしい。


「……うーん、何個目の袋まで見ましたっけ? 覚えてないなぁ……」


 本日、二度目となる……。

 遺品置き場での品探し。

 

 しかし、ガサゴソと辺りを探っている彼女の視界にて、まもなくとある人物の姿がポツリと紛れ込んでくる。


「……ん?」


 その通り。

 視界の端でふと映り込んだのは……。

 山積みとなった袋の一部にもたれ掛かっている、【紅】の少年の姿だ。


「……」


 何やら、険しい表情を使って。付近の足元に並んでいる──『透明な五つのガラス玉』を、静かに見比べている様子であるが……。

 もしや、アレも外の兵達がこの世に遺したモノであるのだろうか?


「……む、むむぅ」


 出会い頭に強い印象を刻まれているせいなのか。

 今でも、彼とは関わりを持ちたくはないと考えている様子の彼女。


 しかし、このままアテもなく。

 一人で袋の山を漁り続けることが酷く億劫なのも、また事実である。


 ……おそらく、昨夜から遺品置き場に居座り続けている彼であれば、『短剣』の詳しい在処を知っていることは間違いない。


 ここは一時の辛抱を取り、手早く彼から聞き出した方が無難だろう。


 ……という訳で、彼女は大きめの咳払いを挟んだのちに。

 早速、遺品置き場に滞在し続ける少年の前へ、わざとらしくその足を鳴らしてみせることに。


「……ね、ねぇ! ちょっと、そこの【紅】の人っ!」


「……?」


 すると、ザッと対面に立つ少女の存在に気がついたのか。

 静かにその場から視線のみを上げてくる、【紅】の少年。


 彼が見上げた先には……。

 握った両手を自らの片頬に引っ付けながらも、作り笑いを見せている【黄】の少女が存在していたらしい。


「え、えっとですねー! 実は今、小さい刃物を探してこいって頼まれてるんですよね〜!」


「……」


「ど、どこかで見かけませんでしたか?」


「……」


「……もし覚えてたら、どの辺にあるかだけでも教えてくれたら嬉しいんですけど!」


「……」


「あ、そうだっ! ……なんだったら、今から一緒に探してくれても良いんですよ? ほら、こんなに可愛い美少女ちゃんと一緒の作業ができるなんて、超絶ラッキーでしょう?」


「……」


 ……が、しかし。

 彼は本当に、ただ視線を合わせてきたのみ。

 程なくして、自身の手元にあるガラス玉へと再び視線を落とすのであった。


「ちょっと……。人の話、聞いてます……?」


 引き攣った笑いを浮かべている少女を他所に。

 一貫とした無言を返す、【紅】の少年。


 無論。

 少女はそんな少年の冷たい態度に対して。

 プツリと頭を鳴らしてしまう。


「もぉー!!! 何ですか!! 人がせっかく下手に出てあげてるのにぃー!!」


 加えて、少年の頭上から地団駄を交えた抗議の声を浴びせ続ける、少女。


「無視するな〜っ! サボるな〜っ!! ……ガラクタばっかりいじってないで、チームの為にはーたーらーけーっ!!」


 ただ、真上から絶え間なく喚き続けている少女の存在を、煩わしく感じたのか。

 次第に無言を貫いていた少年もまた、握っていたガラス玉を地面に放り投げてきたようだ。


「ひっ!?」


 続けて、その場から徐に立ち上がるや否や。

 彼女とほぼ同じ目線から、鋭い睨みを効かせてくる、少年。


「な、なんですか!? また蹴ったら、次こそ他の皆さんに言いつけますからね!?」


「一つ、自慢じゃないが俺はこの五人の中で最も非力だ。二つ、チームへの貢献ならば今もしている。そして、三つ……──」


 怯んだ様子を見せる彼女に放たれたのは……。

 色に相応しき怒りの瞳と、色に反する凍てつく視線。


 彼は怯みを見せる目の前の少女に向かって、次のような言葉で会話を終わらせるのであった。


「──……そんな事すらも理解できんような馬鹿に、指図される筋合いはない。分かったら、さっさと消え失せろ」


 一方的な口調でそう言い伏せたのちに。

 再び、元いた定位置へと静かに座り直す、彼。


「……」


「……」


 なるほど。

 必要以上の関わりを持ちたくないと感じていたのは、どうやらこちら側も同様であるらしい。


 当然。

 ワナワナと体を震わせる少女が最終的に泣きついた先は、自身の後方側にて作業をする二人の常識人達だ。


「もうっ〜!!?? やっぱり、この人っ!! 普通に無理っ!! ……ねぇ〜え〜、【灰】の人ぉ〜……!」


 一体、少年少女の仲に生じた亀裂が修復するのは、いつになることやら……。

 遠目から二人の様子を盗み見ていた彼らも、揃ってため息を吐いてしまう始末である。


「やれやれ、また喧嘩かい? ……全く、若い奴らは元気で羨ましいねぇ」


「あはは……、二人とも仲良くね」


 一方、隣で憤慨を見せているそんな少女を他所に。

 自身の足元に転がっていた──『五つの透明なガラス玉』を無言で見下ろしている、少年。


 おそらく、現在の彼は……。

 今頃、昨晩での出来事を鮮明に振り返っていたことなのであろう。



           *


 

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