第6話「記憶が出来なくなった日」

 明確に分かる人生の転機というものが、僕にはあった。

 今だに、それを覚えている。


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 人並みに物覚えが良かった僕が消え去ったのは、高校生の時だ。

 その時は、外部記憶媒体について学んでいた。USBメモリやDVD,FDDやHDD等の、パソコンの外付け記憶媒体だ。


 本体の主記憶装置に、必要とする(すぐ欲しいや重要な)ものを覚えさせ、優先度の低いものは外部に置いておく。こうする事で、効率良く計算を行えるという考え方だった。


 自身に置き換えたら良いのではないか。


 安易に考えた僕を、今なら止めるだろう。

 人間を主記憶装置に例えた時に、いつでもアクセスできる外部記憶媒体なんて無かったからだ。


 狙いは悪く無かった。記憶力よりも物事を考えたり、もしくはもっと他のことが少しづつ出来るようになった。

 代わりに年々、物覚えが悪くなった。


 最初は、ちょっとした事が覚えにくくなった。

 段々とそれが増えていき、覚えた事を保持するのも難しくなった。感覚で言うと、記憶力を50捧げて、他を20得たようなものだった。割りに合わなかった。

 何かしらの認定を受けるには試験が必要で、それはその後ずっとついてまわった。外部記憶媒体は持ち込めなかった。失ったものの価値が高かった。


 時々思う。

 もし、もっと記憶が出来て、色々なことがちょっとずつ出来なかったら、どんな風になっていたのだろうかと。

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