第56話 東アジア独立戦争『フィリピン』
天正5(1577)年4月 台湾 台北部落
風間 小太郎
16世紀頃の台湾には全島を統一した国家が存在せず、台湾原住の諸民族が集落を形成していた。また、海岸部には、倭寇の根城が点在する状態であった。
史実では、スペインの進出に続き、オランダの東インド会社が占領支配するが、漢民族の鄭成功がこれを追払い、台湾の全島統一を果たす。鄭氏政権が20年余り続いた後、清の攻撃を受けて鄭氏が滅亡し、後は漢民族の入植が行われた。
俺が台湾に介入したのは、まだスペインの進出前であり、台湾の諸民族が個々に集落を形成していた頃で、手始めに鉄製農具や新種の作物を持ち込んで、交易を通じて部族間の交流を図っていた。
そんな数年が経ち、台湾の諸部族は我らと信頼関係ができ、フィリピンや東南アジアの情勢を知るに連れ、危機感を持ち台湾が一つになって、南蛮勢力の進出、占領支配を防がなければならないとの気運になっていた。
俺は、そんな諸部族の次代を担う若者達を数度に渡り、琉球に招き、日本の治世を見せていた。
琉球を訪れた台湾の若者達は、その文明の違いに驚き、豊かに暮らしている琉球の民達と、直に身ぶりと片言の会話で、それが真実の姿であると確信した。
『百聞は一見にしかず。』なのであるが、話し掛けた相手が、若い女性が多かったのは、男の
首里の王宮跡に建てられた代官館で晩餐会に招いたのも、感激してくれた。
台湾にはない料理とお酒、琉球の音楽と舞踏を見せたから、その印象は強烈だったのかも知れない。
そんな日本国への信頼が深まる中、台湾の全部族の集会が開かれた。
俺は招かれたその席で、台湾が一丸となって南蛮から祖国を防衛するなら、日本国は、全力で支援すると表明した。
それを聞いた参加者達は、胡座を組んで座っていたのに、立ち上がると万雷の拍手の嵐を俺に浴びせ、中には拳を振り上げていた。
たぶん拍手は日本人との交流で覚えたのだろう。日本文化浸透の一片だね。
そうと決まれば、さっそく台湾防衛の段取りを話す。通訳が3人いて、まどろっこしいのだが。
「まず、10日以内に船で物資を届けます。
武器と部落を要塞化する建築物資です。
受け取ったら、琉球の兵士の指導で軍事訓練をしてください。また、各部落に城壁などを造りますから、協力願います。
台湾の拠点をここ台北に作ります。各部族の代表と副代表が交代で詰めてください。
同時に、琉球から水軍の一部が各湊に逗留します。漁師の若者を集めてください。台湾の水軍を作りましょう。
部落の城壁ができる頃、食糧などの補給物資を送ります。収穫した食糧と合せて備蓄をしてください。
台湾と日本は友人になります。日本は友を見捨てません。」
「「「「「 · · · · · 。」」」」」
誰も口を開かない。一言も聞き逃すまいと真剣に聞いている。俺が話し通訳が終わると緊張していた顔が笑顔に変わる。
そして口々に、何か叫んでる。各々の言語だからわからないが、たぶん
それから5日後、予想に反して、琉球から第一次の補給船団が到着した。
補給の武具は、長槍、短剣、ボウガンや、飾りのない鉄兜、防弾着、楔帷子内包の上下衣服、革靴、革手袋などだ。
上陸部隊との戦いは、ゲリラ戦を想定し、音で位置を知られる鉄砲を避けた。
ボウガンは、女子も使える優れものだ。
各部落は、周囲を高さ3mの石と
さらに、部落内に巨大な要塞を建設。分厚い壁に囲まれたその入口は跳ね上げ階段だ。
部族、部落間の連絡は、主として各湊からの小型魚雷艇で定期連絡を行うこととしているが、内陸間は見張塔から夜間の灯り
台湾の最終防衛拠点を台北にしたが、最大防衛拠点は台南の湊として、着々と防備を進めた。
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天正5(1577)年11月
風間 小太郎
フィリピンのスペイン総督は、この夏に、三代目のフランシスコ·デ·サンデ·ピコンに、替わっていた。
フィリピン独立を考えていた1588年より11年も早いが、フィリピン南部の支援していたミンダナオ島、ネグロス島、セブ島、
ボホール島などとレイテ島の一部がスペイン総督の横暴に耐えかねて反乱を起こすと言うのだ。
また、スペイン総督府があるルソン島の北部住民及び近隣諸島への過酷な圧政も、悲鳴のように聞いていたので、予定を早めて独立戦争支援を行うことにした。
戦争と聞いて一番張り切ったのは、脳筋の元将軍足利義輝公である。自ら琉球水軍と九州水軍からなる第一艦隊及び陸戦隊を率いて
参戦した。
上皇や帝は、義輝公のやり過ぎを大層懸念して引き留めたが、最後には仕方なく、俺を総司令官とすることで合意した。
もっとも、義輝公の参戦の有無に拘らず、俺に総司令官が押しつけられたとは思うが。
また、嫁を貰って少し大人びたウッチが、四国水軍と東海水軍からなる第二艦隊及び陸戦隊を率いている。
第一艦隊は、マニラ湾の奇襲攻撃とルソン島北部のフィリピン人の支援を担い、第二艦隊はフィリピン南部諸島への武器、海路移動などの支援を担う。
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天正5(1577)年11月
足利 義輝
開戦の口火は、夜明けと共に我が第一艦隊の戦艦3隻の砲撃で始まった。マニラ湾内に停泊中の戦艦を無力化する。
従える駆逐艦12隻が湾内にいた30隻余の
ガレオン船とキャラック船を次々と沈めて行く。
第一艦隊の戦艦2隻と駆逐艦8隻、そして魚雷艇40隻は、外海の警戒に当たらせた。
慌てふためくマニラの街を尻目に、湾岸の倉庫、船の修理
マニラを占領するのは儂らの仕事ではなくフィリピンの人達が成すべきことだからだ。
小太郎が小煩く言う、やり過ぎとはフィリピン人の手柄を横取りせぬと言うことだ。
そんなことは、解っておるわいっ。ただ、戦いに、武士としての血がたぎるのだっ。
マニラ奇襲の少し前には、ルソン島北部や諸島の民達に、上陸した陸戦隊が単発の
やがて始まる南部の蜂起に合せて、北部にもスペイン軍を分散させるのだ。
我が陸戦隊1千は、あくまでも彼ら2千のフィリピン人を護るための支援部隊なのだ。
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天正5(1577)年11月
風間 小太郎
「ウッチ、嫁さんは可愛いかい?」
「小太兄っ、いきなりそんなことを聞きますか。嫁とは信頼関係を育み、愛しむものだと言ったのは誰ですかっ。」
「はははっ、ウッチがどう応えるか、試しただけだよ。そう怒るなっ。」
「嘘ですね、からかっただけでしょっ。
この緊迫した情勢の中で、僕を出汁に和ませるのは止めてくださいっ。」
そう、確かに周囲にいるフィリピン南部の主だった者達は、緊張して力が入り過ぎだ。
奇襲予定日の3日後、時刻は早朝から3時間ほど経つ。マニラ湾奇襲の報せを今か今かと待っているのだ。
マニラ湾からの報せは、小型魚雷艇でもたらされることになっている。高速とは言え、全速力でも、800kmの距離は丸二日掛かるのだ。夜間の海は危険この上ないし。
と、その時、海上に一隻の高速で近づく、小型船が現れた。待ちに待った魚雷艇だ。
魚雷艇は湊に入ると、数人が慌ただしく上陸して我々のいる司令部へとやって来た。
「申し上げますっ。第一艦隊はっ、3日前の早朝、マニラ湾を急襲し、湾内の艦船30隻余を全て沈めましてございます。
敵の反撃はなく、第一艦隊は無傷にて帰還してございますっ。」
「「「おおっ。成功だっ。」」」
そんな声が随所にあがる。
「伝令ご苦労であった。良く危険な任務を果たしてくれた。感謝するぞ。ゆっくり休んでくれっ。
皆んなっ、聞いたであろう。マニラの奇襲は成功し、スペイン艦隊の脅威は失せた。
これより、フィリピン独立戦争の開始だ。各自、予定の行動を開始してくれっ。」
「「「「「「おおぅっ。」」」」」」
ひときわ大きな歓声が上がると、たちまち皆んな、その場から散って行った。
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天正5(1577)年11月
フィリピン独立軍 ナサン
ルソン島のマニラ南部に上陸した俺達は、スペインのマニラ守備部隊と戦っている。
奴らは、マスカット銃と大砲で俺達を攻撃して来るが、互いに固まった大軍ではないし俺達の
部隊長からは、『命を大切にせよ。危険な攻撃はせず、敵の射程外から攻撃せよ。』と厳命されている。
それでも血気盛んな奴らは、危険を顧みずに接近して敵を撃ち取ろうとしている。
確かに、自分や家族を酷い目に合わされた恨みは、俺にもあるからな。気持ちは分かるぜっ。
前進して敵に接近した味方の3人を狙って敵兵が何人も動き出した。
3人を包囲する気だ。小隊長の俺は、部下を守らなきゃならない。
「アイバン、5人連れて右側へ回って、近づく敵を狙えっ。
ジャスパ、フェリック、ディエゴ、ゴッカ付いて来いっ。左手に回るぞっ。」
俺達は、敵が回り込んで来たところを一斉射撃で倒し、生き残りを退却させた。
アイバン達、右翼も撃退したようだ。海側から味方の砲撃が始まった。援軍の日本軍の陸戦部隊が上陸を終えたようだ。一気に形勢有利だぜっ。
独立のための戦争を開始してから10日後フィリピン軍は、マニラのスペイン総督府を包囲していた。
支援する日本軍の大砲が一斉射撃を開始すると、たまらずスペイン総督は降伏を選んだ。
ここに、フィリピン人による独立戦争は、フィリピン軍の勝利によって、勝ち取られたのである。
そして、フィリピン国と日本国の友好条約が結ばれた。
捕虜となったスペイン総督及びスペイン兵達は、6ヶ月の復興作業に従事させられた後に、帰国を許された。
この間、フィリピンに来航したスペイン、ポルトガル、イギリス、オランダなどの商船は、フィリピン国の独立を認め、通商条約を結んだ場合に限り、交易を認めるとして、
フィリピン政府から各本国への通達書を渡されて追い返された。
余談だが、あまり活躍の場がなかった義輝公は、次はインドネシアかと、手ぐすねを引いているとか。やれやれだ。
ちなみにウッチは、嫁さんの土産を漁っていたよ。母親への土産も忘れないといいが。
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