ふやけた小説

ふやけた小説

お風呂に入る時、湯船に浸かりながら漫画を読むのが私の日課だ。


これは半身浴中暇だという思いと買ったけど読まずに積まれた漫画が重なった結果だった。やってみるとなかなか良いアイデアで、お風呂に入っている間は他の誘惑がないので漫画に集中することができるのだ。


今日も、私は湯船に浸かりながら小説を読んでいた。紙に印刷されている小説は湿気でふやけてしまうことがあるので、濡らさないよう慎重に扱うのを心がけながら漫画のページをめくる。すると、めくったばかりのページにぽたんと水滴が落ちた。水は紙に吸い込まれ、じわりと滲んで色を変えていく。薄い紙はすぐにふやけ、たわんでしまった。


「あっ、やっちゃった......」


そうぼやきながら、私は結露だろうかと天井を見上げた。


すると、視界が暗闇に埋め尽くされた。


「ひっ」


それは、人間の目だった。顔を覆うほどの黒髪の間から、光の入らない黒々とした瞳が私を見つめている。その瞳の奥の暗闇に今にも吸い込まれそうで、目が離せない。長い黒髪はぐっしょりと濡れており、それがぽたぽたと水滴を落としているようだった。


幽霊。頭の中にその単語がよぎる。


「ひっ」


喉から引き攣った悲鳴が漏れる。湯船から逃げ出すこともできず固まってその瞳を見つめるしかできない私に、その幽霊は言った。


「早く次のページめくりなさいよ、続きが気になるじゃない」

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ふやけた小説 @inori0906

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