7月3日

 これは僕に付き合って二年目の彼女がいたときの話である。

 当時の僕たちはどこにでもいるようでなかなかいない、本当に仲睦まじいカップルだった。休日の昼には映画館や喫茶店に出かけ、夜にはホテルやお家で一緒に寝た。僕は彼女になんの不満もなかったし、彼女もおそらく僕になんの不満もなかった。

 その夢を見るようになったのはちょうど梅雨が明けた日からだった。性的な夢から目覚めると、テレビをつけて気を紛らすのが僕の癖だった。だからその日、アナウンサーが嬉しそうに梅雨明けを宣告していたのをよく覚えている。

 それから僕は週に一回から二回のペースで同じ夢を見た。女とセックスするだけの、抽象的な夢だった。女の顔も見えなければ、自分の体も見えなかった。僕が見えるのは女の豊満な肉体だけだった。僕が感じるのは自分が彼女の中に入っていて、精密な共同作業のような運動を続けていることだけだった。そもそもどうしてその塊が人間であることがわかるのかすらよくわからない。しかし夢が往々としてそうであるように、僕は女とセックスしているという事実だけははっきりと認識できた。そして問題は、その女は僕の彼女ではないことだった。

 彼女が異変に気づいたのは、セミがうるさく鳴き始めたころだった。女の勘というものに、僕は改めて感心せざるをえなかった。事を終えて、ホテルの布団の中で、彼女は僕に切り出した。僕もそれを隠すつもりはさらさらなかったので、すべて正直に打ち明けた。そして彼女は怒った。

 「浮気ってこと?」

 「いや、夢なんだ」

 「でもその女の人とやってたんでしょ? しかも定期的に」

 「まあ、夢の中でね」

 「それってほとんどセフレみたいなことじゃん。なんで? わたしじゃ物足りないの?」

 「そんなことはない。僕だってしようと思ってしてるわけじゃないんだ」

 「それでわたしが傷つくって思わないわけ? それともわたしなんてどうでもいいってこと?」

 「いやだから、僕だってそんな夢を見たくないさ」

 「でも夢を見るってことはやっぱり心の中のどこかでそういうのがあるってことじゃん」

 「夢はもう生理現象っていうか、僕の気持ちではどうしょうもないことだよ。わかるでしょ?」

 「いやわからない。彼女がいるのに浮気をする人の気持ちなんてわかりたくもない」

 結局、話は宙に浮いたまま、その日の夜も僕は同じ夢を見た。僕は夢の中で抗おうとした。いつもよりずっと力強く。もうその女を殺してしまえばいいと思った。彼女の首を一思いに締め付けるとき、ついにその顔が見えた。それは、僕の彼女の顔だった。僕は狐につままれたようにそのままの体勢でいた。やがて彼女はぐったりと息絶えた。

 目が覚めてから、僕は急いで彼女を呼び出そうとした。もう同じ夢を見ることはないという絶対的な確信があった。その喜ばしい知らせをいち早く彼女と共有したかった。しかしいつまで経っても彼女へのメッセージに既読はつかなかった。電話をしても圏外だと言われた。ほかのあらゆるSNSでブロックされているのを確認して、僕はもう一度布団の中に潜った。誤解なんだ、と僕は声に出してみた。返事はなかった。

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