6月28日
知らない街をあてもなく歩きたい。
聞いたことがある路線の聞いたことがない駅。見たことがある景色を彷彿とさせる見たことがない景色。どこにでもあるチェーンのここにしかない店舗。本当にここにしかない個人経営のお店。そういったものたちの中を、僕は練り歩く。
僕はこじんまりとした朝のカフェか、人気のない昼の公園か、路地裏に入口がある夜のバーにたどりつく。そこでただ時間が経つのを待っている。そして、そこで女の子と出会う。まるで、はじめから彼女を待っていたように。
彼女は美人でもなければ醜女でもない。大人でもなければ少女でもない。髪が長いわけでもなく短いわけでもないし、化粧が濃いわけでもなく薄いわけでもない。彼女は特徴をもたない女の子だ。それこそが、彼女と僕が意気投合する理由となる。特徴がないということが、僕にとっては必要不可欠だし、特徴がないことを必要とされるということが、彼女にとっては必要不可欠なのだ。
二人は一緒に朝を迎える。知らない街の知らないホテル。もちろん彼女にとっては知っている街の、おそらくは知っているホテルだ。そのホテルは彼女と同じくらい特徴がない。代金を残して、僕は彼女にさよならを言う。しかし、本当のところは逆なのだと、僕にはよくわかっている。彼女が僕を送り出すのだ。
いつかどこかで彼女とすれ違うことがあったとしても、僕はきっと彼女を思い出さないだろう。彼女には特徴がないからだ。彼女が僕を思い出すかどうかについては、彼女の問題である。それは悲しいことだと思う。そして悲しみもなくてはならない要素なのだ。残念なことに。
僕はよく知っている街のよく知っている部屋に戻ることになる。そこでは安心感と危機感が常に微妙なバランスを保っている。その均衡が崩れるとき、僕は再び知らない街へと繰り出す。
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