RPGのラスボス魔術師に転生したので、弟子と気ままなスローライフを送ろうと思います
軽井広💞キミの理想のメイドになる!12\
第1話 異世界転生とショタな弟子と
「なぁ、クリス。たとえば俺が……この王国を滅ぼす極悪人だと言ったら、信じる?」
「お師匠様が? なんでそんな寝ぼけたことを言ってるんですか」
目の目の少年に鼻で笑われ、俺は肩をすくめた。
少年クリス・クートラは、13歳の小柄な子だ。
金髪碧眼の可愛らしい容姿で、品のある優しげな顔立ちをしている。
成長すれば、きっと女性からさぞかしモテるだろう。
というより、すでに同世代の少女たちからはとても人気らしい。もっとも、クリス自身はあまり異性に興味はないようだったが。
しかし、俺としては羨ましい。ぜひ変わってくれ。
そういう俺は、20代後半のごく平凡な魔術師である。茶髪に茶色の目という、このエセックス王国では一番ありふれた容姿。
王立魔法大学に通っていた頃は、「好みによってはイケメンに見えなくもない」というよくわからない言葉で同級生の女子生徒から慰められた。
住み込みの弟子のクリスがいる他に家族はいない。ついでに恋人もいない。
誰が見ても、俺はぱっとしない普通の魔術師に見えるだろう。
とはいえ、俺も普通ではない点がある。
俺には前世の記憶がある。前世では、20代の社畜で、働きすぎて過労死した。
そして、俺はこの世界――正確には、前世の人気RPG『星月のクロスライン』のラスボスであるアレク・ストリックランドに転生したのだ……。
実は王家の血を引いている凄腕魔術師のアレク・ストリックランドは、幼い頃に反逆者の叔父に父王と家族を殺される。そして、密かに魔術師の老人に匿われ民間人として成長した。
成長したアレクは、魔術師として力をつけていく。
やがて、彼は現在の王家に復讐し、王国を乗っ取ろうとした。そして、主人公の魔術師の少年たちの前に立ちはだかる最強の敵となる。
……という劇的な役割がある……はずなのだ。
といっても、生意気な弟子のクリスは信じてくれないのだけれど。
それに、せっかくラスボスに転生したのだから、もう少しわかりやすく美形にしてくれてもよかったのに。;
ここは王都の外れの時計塔。
魔術師アレク・ストリックランドの仕事場兼自宅だ。
その塔の最上階の書斎に俺とクリスはいた。
寝坊したので、もう午前11時である。
クリスは呆れたように俺を青い瞳で見つめる。
「馬鹿なことを言ってないで、仕事をしてくださいよー」
一応、俺は魔術師だ。その仕事の一つは、魔法付与で魔道具を作ること。普段はこれで生計を立てている。クリスにも手伝ってもらいながら、日々の生活費を稼いでいるわけだ。
別のお仕事のおかげで生活に余裕はあるし、それほど忙しいわけでもないけれど、働かないわけにもいかない。
俺はクリスに手を合わせた。
「ごめんごめん。ところで、そのまえに紅茶が欲しいんだけれど」
「そう言うと思って、ご用意しておきました」
さっとクリスがティーポットからカップに紅茶を注ぎ、俺に差し出す。
俺は嬉しくなって微笑む。『星月のクロスライン』は、19世紀のイギリス風の舞台で、紅茶とスコーンが美味しいのだ。
「ありがとう。用意がいいね」
「もう二年も一緒にいるんですから、寝過ごしたときのお師匠様の習慣ぐらいわかっていますよ」
クリスがくすっと笑う。
たしかに、孤児だったクリスを引き取ってから、もう二年が経った。
悪役アレクが、クリスを弟子にするのはゲームのとおりだ。魔法の才能を見込んで、身寄りのないクリスを引き取るのだ。
ただ、ゲームでは、アレクはクリスに厳しく指導し、自分の野望の道具として扱っていた。
虐待に近い扱いを受け、ときに暴力も振るわれた結果、ゲームのクリスは、性格が歪んでしまう。
そして、冷酷な魔術師として主人公たちの敵になるが、敗れた後は主人公の優しさに触れて仲間になる。そして、師匠のアレクに立ち向かっていく……という筋書きである。
さて、現実はどうかといえば、ちょうどクリスを引き取った頃に、俺は前世の記憶が蘇った。
時計塔の階段から転げ落ち、頭をぶつけたという情けないきっかけで……。
クリスを冷たく扱えば、ゲーム通りなら俺の敵になってしまう。
そもそも、俺は11歳の子どもを虐待するほど悪人ではない。
前世でも、善人ではないにしても、それなりに真面目な人間をやってたのだ(だからこそ、過労死した……)。
というわけで、俺はクリスになるべく優しく接した。
最初は緊張していたクリスも、今ではすっかり打ち解け……俺に生意気な態度を取るようになっていた。
なめられているのかもしれない……。
とはいえ、紅茶や食事を用意してくれたり、魔術の仕事を手伝ってくれたりして助かるのだけれど。
代わりに、俺はクリスに師匠として魔術を教えるし、学校の学費を払っている。
持ちつ持たれつ、だ。
俺はクリスの好意に甘え、早速紅茶を飲むことにした。紅茶の銘柄には凝っているし、クリスの紅茶を淹れる腕はかなり上手い。
とはいえ、俺は紅茶をストレートでは飲まない。でも、ミルクを入れるわけでもない。
「ブランデーをたんまりと入れるのが極上……」
俺はつぶやいて、机の上のブランデーの瓶を取ろうとした。
ところが、俺より先に、クリスはひょいと瓶を取り上げてしまった。
「朝から酒だなんてダメですよ」
「す、少しだけだから……」
「……量は僕が管理しますからね?」
仕方なさそうにクリスはカップにブランデーをちょこっとだけ注ぐ。そして、何がおかしいのか、ふふっと笑った。
ふわりとブランデーの良い香りが部屋にただよう。
ああ、平和だなあ。
こんなのんびりした生活では、俺がラスボスになるなんて、クリスが信じないのも無理もない。
前世の記憶があるせいか、俺も王家への復讐心があまり湧いてこない。
別にラスボスにも、主人公にも、特別な存在にならなくても問題ない。
このまま平穏な、そして自由な生活が送れれば、それで良いのだけれど。
そのとき、塔の中にベルの音が響いた。
玄関に設置した魔道具で、来客を告げるものだ。要するにインターホンである。
クリスと俺は顔を見合わせた。
「お客さんですかね」
「そうだねえ」
俺は立ち上がった。
来客はたいてい仕事の相談だ。
そして、俺の魔術師としての仕事は二つある。
一つはこの時計塔での魔道具の作成。
そして、もう一つは……「魔術保険」の調査員だ。
<あとがき>
転生魔術師とショタな弟子の魔術保険のオプ(調査員)をやりながらのスローライフ!
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