第42話 開戦




 ステラから話を聞くとそれはもうドロドロした政治の話だった。


 暗殺、拷問、誘拐、金さえ貰えばなんでもする盗賊ギルドからの刺客に追われながらここまで来たらしい。


 さらに深刻なのが。


「バルランド王国がこの国に攻めてきます・・・お礼は必ずしますので王都まで護衛をお願いできないでしょうか?」


「傷ついた兵士達に回復魔法を掛けてくれた事へのお礼も必ず・・・」


 ここまでの話を聞くと間違いなく事の始まりと原因は俺だ・・・どうしよう・・・リゼ達もそれを分かっているようでずっと目を逸らしている。


「分かった、護衛の話、引き受けよう」


「どうやら事態は深刻かつ急を要するみたいだしな」


 どうせそろそろ国王に遠征の報告にいかないとだったし丁度いい。


「ヴァルディ様!この恩は必ず!早速参りましょう!」


 馬を召喚し全速力で王都を目指し国王へ知らせを届けた。


「バルランド王国が攻めてくると?それは誠か? 」


「はい・・・混乱に乗じて暗殺されそうになりましたが、貴国の冒険者に助けられました」


 国王は重々しくうなずく。


「うむ・・・ステラよ報告、感謝する」


「しかし、どうしたものか・・・ヴァルディよ何か策はないか?」


 ここで俺に振るか・・・それともお前が原因なんだからどうにかしろ的な?


「・・・私に一つ策があります、この件は任せて頂けないでしょうか?」


「分かった、なら貴殿にわが国の精鋭を・・・」


 これからすることは少し目立ちすぎる、変に目撃者を増やしたくないな。


「国王よ、これは私の失態でもあるのです・・・なのでここからは単独で動きます」


「どうか、兵達は街の人々を守るために割いて頂きたい」


 流石の国王もこの発言には驚いたようで。


「だが、これは国同士の総力戦・・・単独でどうにかできるものではないぞ?」


「ヴァルディ様!貴方がお強いのは分かっていますが、バルランド王国の兵は十万以上・・・貴方一人でどうにかできる問題ではありません!!」


 ステラも同じ意見みたいだ。


 これからどう説得しようか迷っていたその時、バン!と扉が開かれ息を切らした兵士が。


「国王様!!急報でございます!バルランド王国が我が国に宣戦布告し軍隊をうごかしたようです」


「さて、議論している暇は無くなったようだ」


 国王は諦めたように。


「ヴァルディよ・・・其方を信じる、わが国の民達を救って欲しい・・・頼む」


 国王はこの状況をかなり深刻に見ているようで国を率いる立場でありながら深々と頭を下げた。


「国王よ、頭など下げず貴方はただ命を下せばよろしい・・・この国を守れとね」


「そうだな、ならばヴィス・ヴァルディ!今より命を下す!この国を民達の未来を其方に託す!」


 大丈夫だと思うがこの国が負ければ民達は一人残らず奴隷にされるだろう・・・バルランド王国とはそんな国だ。


 だから絶対に失敗できない。


「了解した」


 そして三日後、ついにバルランド王国の軍は王都の目前まで迫っていた。


 そんな中、十万を超える軍を前に立っているのは俺とリゼ達。


 今回は訳あって身動きが一時的に取れなくなる、何か動きがあれば知らせてもらうためだ。


「!?全軍停止!!貴様ら・・・何者だ?」


 指揮官らしき人物が馬を止め話しかけてくる。


 ここは余裕のある態度の方がいいだろうな。


「初めまして諸君、私はヴィス・ヴァルディ・・・この国の冒険者だ」


「冒険者だと・・・?なぜここにいる?生き残るためにこの国の情報でも売りに来たか・・・」


「いやいや、とんでもない“たかが十万の兵に屈するなどありえんよ”」


 冗談だと思ったのか指揮官はその場で笑い出す。


「アッハハハハ、聞いたか?この男は相当な間抜けらしい!!」


 周りにいた兵士達も笑い出し、各々が余裕そうな笑みを浮かべ罵声を飛ばす。


「この国にはこんなのしかいないのかよ!」


「ああ!時間稼ぎにしても雑すぎる!!」


「それより後ろの女達を見ろよ、かなりの上玉だぜ?」


「クハハ、仲間の前で犯したらどんな顔をするかな?へへっ、楽し・・・」


 パシュ、と何かが抉れたような音が響き渡る・・・男は首から上が消し飛んでいた。


「っえ?グレス?」


 グレス・・・彼は傭兵上がりの兵士だった、数々の村を襲撃し残虐の限りを尽くした者だったが、冒険者ランクはA・・・その腕を買われた彼は傭兵から指揮官の護衛にまで成り上がった才能溢れる兵士でも。


「・・・」


 死んだ・・・あっけなく、あっさりと・・・この場にいる者は全員彼とは顔見知りであり、彼が強いことを知っている者達だった。


「どうした?まだ、ひとり死んだだけだぞ?」


 故に混乱は凄まじい。


「な、なにを・・・した?」


「なに、石ころを指で弾いただけだ」


 状況を理解した彼らは理解した・・・いや、理解してしまった。


 自分達は今、死地に立っていることを。


 目の前にいる騎士が自分達の想像の及ばぬ化け物であるということに。


「さあ、開戦だな」


 この戦いは後にこう呼ばれる事となる。


 ““滅びの惨劇””と・・・。

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