第3話 癖の強すぎる幼馴染たち
国の最南端、辺境の街・ウラドヴェール。
それが俺の住む街だ。
俺はそこで荷物の配達員、つまり『郵便屋』の職に就いている。
全ての配達を終えて、とある建物へと帰って来た。
『郵便配達、承ります』という看板が下がった古い木造の建物だ。
いつも俺は割り当てられた郵便物をカバンいっぱいに詰め込んで、朝早くにここから出て昼過ぎに戻ってくる。
今日もすっかり萎んでただの布切れになったカバンを背負い、建物の中へと入った。
するとちょうど戻ってきたところなのだろう。
近くでたむろしていた同僚と、目が合い手を上げられる。
「よう、セルジアート」
「終わったか?」
「あぁうん特に問題なく」
言いながら寄っていくと、集まっている男たちから感心したような声で言われる。
「それにしても凄いよなぁ。その一番大きな規格のカバンにパンパンに詰めて出て行って、この時間にはすっかり空にして帰ってくるんだからなぁ」
「荷物の重量もバカにならないだろうにさ、こう……街の上をピョンピョンピョンピョン」
「素早く走り、音も立てずに身軽に立ち回り確実にかつ丁寧に仕事を熟していく。こんなすごい事が出来るのに、何でこんな仕事なんてしてるのやら」
同僚たちの言い草に思わず苦笑を漏らす。
何で……なんて言われても、特に大袈裟な理由はない。
ただ自分を何か役立てられる仕事に就きたいと思った結果だ。
そして実際、一般市民よりは身軽な体を活かせるこの仕事を俺は「性に合っている」と思ってる。
「この街は、道は入り組んでるし大通りには人も多い。屋根の上を行った方が、圧倒的に早いからな」
俺にとってこの街は、生まれ育った場所である。
勝手知ったる土地だから、地図は頭に入っている。
それも、修行と称して普段から屋根の上をピョンピョンとしていたお陰で、俯瞰での地図が。
「まぁ確かにこの街って、すぐ近くに魔物が棲む森があるから近隣に居住地なんて他には無いし、都市防衛の観点から生活圏をあえて狭く取ってるっていう話だしなぁ」「そのせいで建物が乱立、道は入り組み、地域面積のわりに人が多い。あー、お前のピョンピョンスキルがどうしようもなく羨ましい……」
「俺達にもあればなぁー、ピョンピョンスキル」
「何だソレ」
成人男性がするにはあまりに可愛すぎるその行動名称に、思わず声に出して笑った。
「まぁでも俺のコレは、かなり中途半端だぞ? 『本業』ならもっと上手くやる筈だ」
「なんだよ『本業』って」
「冒険者や騎士」
俺だって、もちろん自分の身のこなしが一般市民平均以上だという自覚くらいはある。
が、あくまでもそれは一般市民を基準にした場合である。
戦闘職の中に入れば、俺なんて中の中だ。
「どっちかって言うとお前のソレは、隠密とか盗賊のスキルだと思うけどなぁ」
「人聞きの悪い事を言うなよ」
周りがやっていたから俺も。
そんな気持ちで始めた修練で身に着けたこの身体能力は、元々は『英雄』になるためのものだった。
それと比べると、盗賊はもちろん隠密も求めていた夢とは大きく方向性が異なる。
それに、だ。
「その隠密とか盗賊の中に入っても、俺のレベルじゃ底が知れてる」
「そうなのか?」
「多分だけど」
そう思ったから、俺は道を違えたのだ。
「俺程度じゃぁどうにもならない『才能の壁』ってのがあるんだよ」
過去にぶち当たった「俺には到底手の届かない世界がある」という壁は、ほろ苦い過去の記憶だ。
が、あくまでも過去である。
今では良い酒の肴として、彼等との宴席で話に上がる。
と、俺が浮かべた苦笑から、思考を読みでもしたのだろう。
「あーまぁお前の幼馴染って、確かに凄いヤツ等だもんな」なんて、心を察したのだろう一人が遠い目になって小さく呟く。
――凄いヤツ等。
そんな言葉に聞いた誰もが否定しなかった。
その余地など無いくらいには、アイツらは確かに凄いのだ。
いい意味でも、悪い意味でも。
「そう言えばこの間酒場で見たぞ? 黒剣黒衣のジークノイル。また女どもにチヤホヤされてた。まぁ当の本人はいつもの無口・無表情で酒を呷ってばかりだったが」
「男の夢だよねー、強くて女にもモテるとか」
「流石は『この街に常駐している冒険者の中じゃ一番の腕の持ち主だ』ってだけの事はあるよなぁ」
そんな話が出てくると、それに触発されたのか。
別の男が手を上げる。
「はいはーい。それで言うなら俺は昨日、カイル大司教様を見かけたよ。他の白ローブたちと一緒に集団で歩いてたけど、あの水色の髪に薄紫色の瞳。見間違える方が難しい」
「なぁセルジアート、髪とか目の色素が薄いのって確か、魔力量が多い人間の特徴なんだよな?」
「そうらしいなぁ。まぁ実際にアイツの内包魔力は凄まじいし」
聞かれたのでそう答えると、相手は「この街の教会で最年少で最高位にまで上り詰めたのは、そのお陰って話だしな」と言いつつ目を輝かせた。
もしかしたらそれは、教会という未知の世界や中性的な美しさが見せる神秘に向けられた崇敬なのかもしれない。
「それを言うなら、俺はさっきレオ様を見た。相変わらず金ピカ鎧に囲まれてめっちゃ目立ってたし偉そうだった」
「え、何で領主の息子が街をほっつき歩いて?」
「さぁ? でもあの人が来ると懐事情が潤うからみんな結構喜ぶんだよなぁ。ほら、かなり羽振りが良いからさ」
同僚たちがそんな風に話に花を咲かせる横で、俺は一人「どうやらアイツら、揃いも揃って相変わらずみたいだなぁ」なんて心の中でぼんやりと思う。
今話しに出たこの三人は、それぞれに何かに秀でた人間たちだ。
故にこの人口の多い街の中でも、彼らは
なんて思っていた時だった。
ドガァァァァァ!
「「「「「……」」」」」
話していた面々が、地響きと共に聞こえた轟音に誰からともなく黙り込む。
「……おい、セルジ」
「何だよどうした」
「なんかすんごい音がしたんだが」
そう言われ、俺は一瞬沈黙する。
がすぐに取るべき方針は決まった。
「聞こえなかった」
「いやぁーそれは流石に無理があるだろ」
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