辺境伯領のタダ人には『郵便屋』がちょうど良い。 ~幼馴染はみんな『英雄』候補者だけど、どうか勝手にやってくれ~

野菜ばたけ『転生令嬢アリス~』2巻発売中

第一章:タダ人と、幼馴染たちの尻ぬぐい

第一節:誓いの時から数年後

第1話 『英雄』を目指した俺は、今



 ――子供の頃、俺達はとある約束をした。


「なぁお前ら!」


 商人や街民や冒険者たちで、ごった返した大通り。

 そこから一本入ったその細路地は当時よく遊び場にしていた場所で、その日もその一角で遊んでいた所だった。



 声を上げたのは、この4人ではリーダーと言っても良いヤツだ。

 ソイツが木箱にタンッと乗って、俺達を見てこう告げる。


「俺達で、この街の守護者に……『英雄』に、なってやろうぜっ!」


 腰に手を当て胸を張りそう言い放った彼の瞳は、興奮に煌めく黄金色で。

 そこにはギラつく対抗心は、しかしどこか楽しそうでもあって。


 高い位置で結わえた彼の赤髪が、綺麗な水色を背景に軽やかに揺れて踊っていた。




 ――英雄。


 彼がそう言ったのは、最近『国を守った王都の英雄』の話を小耳に挟んだからだった。



 この街は、魔物が出る森と隣接している。

 ソレを倒し街を守る強者を、この町では皆こぞって『守護者』と呼び、持て囃す。


 きっとこの町に生まれた男なら、誰もが一度は夢を見る。


 ――俺も『守護者』になりたい。

 誰にも負けない、町を守る英雄に。



 ちょうどこの前たまたま聞いた『英雄』の話は、その時正にそんな未来を夢見た俺たちの胸に、ストンと落ちて煌めいた。


 特に彼は、生まれながらの目立ちたがりだ。

 幼馴染の俺たちがそう言うんだから、間違いはない。


 だからきっと対抗したくなったんだろう、その話に聞いた英雄に。




「まぁそのくらい、わけは無いと思います」


 水色の髪の少年が、クイッと癖でメガネを上げながらそう答える。


「強くなる。それは俺が元々持っていた目標だ」


 黒髪短髪の少年も、無に近い表情でポツリと溢す。


 そして、俺は。


「……そう、なれたらカッコいいよな」


 俺は、三人ほど自分に自信はなかった。

 それでも彼らへの羨望が、俺にそんな言葉を言わせたような気がする。



 何故か、三人の視線が一斉に俺に刺さった。

 

「覇気がないぞ! お前も一緒にやるんだからなっ?!」

「セルジアート、まったく貴方は相変わらず……」

「……」


 口々に怒られたり、飽きられたり、ジト目を向けられたりして、俺は「ごめんごめん」と答えて笑う。


 我ながらヘラッとしたその顔が、彼等の目にはどう映ったのだろう。

 それは俺には分からない。



 もしかしたらあの時の心持ちこそが、俺と彼らの将来を隔てたものだったのかもしれない。


 今になってそう思ってしまう俺は、もしかして凡人にしかなれなかった自分に後悔しているのだろうか。



 否、そんな事はない筈だ。

 だって俺は――。







「ドッ、ドロボーッ!!」


 国の最南端。

 辺境の街・ウラドヴェールで、誰かのそんな声がした。



 今日は青天、今は昼下がり。

 視界は実に良好で、屋根の上を走っていた俺が足を止めて見下ろせば、原因なんてすぐに見つかる。



 人の流れよりもずっと早く街中を突っ切る、濁った金髪の頭が一つ。


 そいつの勢いに驚いて、人々は思わず飛び退いている。

 避けられなかった人は弾き飛ばしてまで、その男はひたすらに逃げ続けている。



 竹で作られた籠ごとなんて、どうせ八百屋に並んでいたのを、籠ごとぶん捕りでもしたのだろう。


 窃盗の末の逃亡だ。

 遠めから見てもそう分かった。



 その身のこなしを眺めていた俺は、「はぁ」と小さくため息を吐く。


「アレはダメだな、やり慣れてる」


 楽して稼ぐことに、味を占めている。

 後ろを振り返り得意げに嗤ったその顔は少なくとも、日々生きるのに切羽詰まって犯行に及んだ奴の顔ではない。


「冒険者崩れか、傭兵崩れか。どちらにしろ同情の余地はないな。見ない顔だし、よそ者か……。って、あ、じいさんだ」


 逃亡者の後ろをヨタヨタと、エプロン姿の老人が追いかけているのを見つけた。

 老体に鞭打ち、それでももうヘトヘトで。

 とてもじゃないが追いつけそうにはないその姿が、もしかしたらあの逃げている男をより得意げにさせている理由かもしれない。


「えーっと、近くには……。誰もいないな」


 こういう時に、大体事態を収拾してくれるのは、荒事に慣れた警邏かたまたま居合わせた冒険者たちである。

 しかし今回は生憎と、そういう類の奴らは見えない。



 俺は背負ったパンパンのカバンを、一度「よいしょ」と背負い直した。


「まぁ、なら仕方がないか」


 そう呟いて、足場の屋根を強く蹴る。



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