英雄に捧げる一杯 ~創作世界放浪記~
柏沢蒼海
来訪:コロニー・E2サイト
『――周辺宙域に反応無し、そのまま宇宙港に向かう』
ヘルメットの中にあるヘッドセットから女性オペレーターの声が聞こえる。
正面にあるメインモニターには、ぼんやりとした光に包まれた構造物が見えてきた。
『セイバー1、随伴を続ける』
「セイバー2、了解だ」
無線に向けて応答し、操縦桿に付いているスロットルを動かす。
機体を加速し、構造物に向かう。
視線を落とし、計器類を確認。
――よし、敵影は無いな。
『今回もアレ、聞いて回るのか?』
「ジェスタ―、そんな言い方は無いだろ……」
オレの相方、女傭兵パイロットは今日も辛辣である。
かれこれ地球に降りてからずっと背中を預けている間柄、キレ味抜群の皮肉はもう慣れっこだ。
『機動部隊にありもしないメシを探す変人がいるって噂になっちまうぞ、虚言癖のあるエース〈ケント・イヌーイ〉ってな』
「うるせぇな……」
オレはこの世界の人間ではない。
WEB小説を書いている30代後半の東北県民、ただそれだけだ。
しかし、唐突に特殊な――妙な力を得てしまった。
それは、創作物の世界に飛び込んでしまう――というものだ。
今回は誰が書いたかはわからないが、ロボットアニメのような地球と宇宙移民が戦争しているという作品世界に転移してしまった。
なんとか終戦まで戦い抜いたものの、まだ現実に帰る方法がわからない。
少なくとも、物語を完結に導ければ『帰還』できるはずなのだが……
『ホントにあるのかよ、その……なんだっけ?』
短くないパイロット生活の中で、オレは苦労している。
それは――この世界のメシが……非常にマズいということだ。
地球は気象変動や長い戦争――企業間紛争の影響で荒廃、現実世界に存在していた食品のほとんどが生産されなくなっていた。
おまけに飲食物のほとんどが保存食のような軍用糧食に置き変わっている。
未来の食事だと思えば、少しは楽しめるかと思ったが……オレには無理だった。
液体化した人工タンパクや食物繊維を3Dプリンターのような機械で成形して、プレートの上に並べただけ――そんなものを料理と呼べるなら、現実の食料問題なんてすぐに解決するだろう。
宇宙母艦の中、地球での傭兵生活、そこでは自販機で売ってるホットスナックより酷いものしかなかった。
今ならポテトチップス1袋でさえ、号泣しながら食える自信がある。
そして今――オレはずっと、食べたいものがあった。
「――ラーメンだ」
事実、ここにはラーメンに似たようなものは存在する。
パスタや卵麺のようなものが加工・流通しているため、それを使った加工食品がどこでも食べられるのだ。
一般的にはヌードルと呼ばれるそれは、とてもじゃないがラーメンには遠く及ばない。
スープ・ヌードルと呼ばれているものは味が薄かったり、麺じゃないことが多い。
パスタ麺でさえ、まともに食えたものではなかった。
パッケージされたものはフォークに巻けないほど切れやすくて、ソースも美味しくない。
米も無く、酒だって飲用可能な工業アルコールに人工甘味料を添加したような代物しか流通していない。
探せば見つかるかもしれないが、地球上には存在しなかった。
地球と
ただそれだけのために機動部隊に居残り、終わりの見えない任務を続けている。
『見つかるといいな……無理だろうけどよ』
鼻で笑う相方のジェスタ―に返す言葉を考えながら、正面の景色に目を凝らす。
次第にはっきりと見えるようになってきたそれは、想像以上のものだった。
絵に描いたようなスペースコロニーとは造形が違うが、宇宙空間に浮かぶようにそびえるそれはまさしくコロニーと呼べるものだ。
これまでいくつかのコロニーを巡ったが、ここはそれらを遙かに超える規模の設備の多さと大きさを備えている。
『おっと、見えてきたな』
今回訪れるのは、アースナンバーと呼ばれる番号が付いた特別なコロニー。
地球の環境や文化の保存という目的を持って建造されたと言われている。
コロニー・E2サイト――
もうひとつの地球、と呼ばれているらしい。
「ああ、デカイなぁ……」
コロニーの宇宙港へと入っていく母艦を遠巻きに眺めながら、オレたちはゆっくりとコロニーに近付いていった。
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