第12話 新しい仕事

 そんな中に長い間生活をしてきた人々は山に生えた針葉樹の大木を切り出したり、ここ数世紀の間で発展した工業のおかげで未発見だった鉱石の鉱山を開発したりして、それなりに潤っていた。

 つまり、貴族のはずの伯爵家よりも、街のなかで店を構える商人の方が、ちょっとしたら裕福かもしれない。

 そんな嫌味とも思える逆転劇が、ここでは起こっていた。


 富が欲しければ、ペイゼワールに行け。

 名誉が欲しければ、ペイゼワールに行け。

 

 すぐ近くには魔王がいて、獣人の帝国があって、魔獣が闊歩し、ダンジョンがあり、職には事欠かない。

 平和な王都とは真逆の世界。

 大陸の中央からはいくつもの有名な冒険者ギルドが支点を出していて、冒険者に登録することさえできたら、誰でも何かの職につけるそんな世界。


 だけど貴族には貴族の義務があり、平民の仕事である冒険者になることは許されない。

 街には富が溢れ、活気と喧騒に満ち、新しい可能性がどこにでも落ちている。

 それを尻目に、ルークは自分も働きたいのに、何もできないことに悔しさを覚えていた。


 一年と少しを過ごし、母親のマーシャは自らルークに学問を施すようになった。

 貴族の女性が学ぶことは少ない。

 文字の読み書き、算額、織物や編み物、刺繍のやり方と、吟遊詩人がするように、詩を編み、歌を作ること。

 一通りの楽器の弾き方と、王国貴族なら当たり前に学ぶ、古代魔導文明最盛期に作られた、リテラ・アンティクアと呼ばれる古代文字の読み書きと発音。


 伯爵家に伝わるとされている、光の精霊との契約の方法‥‥‥しかし、これは伝説でそんな精霊はここ数世紀は姿を見た者はいなかった。

 そして、伯爵家に嫁いでくる前に辺境の城に住む領主の娘だったマーシャは、攻城、籠城などの城で戦う方法を学んでいた。


 まあ、家庭教師がいなくても、騎士になるために必要な学問と馬や剣といった武具の扱いを学ぶことは、ルークが望む望まないは関係なく、二年間を通して身に就いていた。


 そんなある日のことだった。

 この街にやってきてから一年と八か月ほどたったころ。

 父親の古い友人の貴族が、ある仕事を紹介してくれた。


 それは、街の郊外に領地を持つオルケス男爵家で働くこと。


 十六歳の男爵令嬢の、物持ちとして従僕をする仕事だった。

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