第2話 陰キャの俺、仲間たちと魔女の野望を打ち砕く
無限ともいえる広大な異空間の中で、俺たちは魔女エステリアとの激闘を繰り広げていた。
「出でよ!我が忠実なる黒犬たち」
地面から浮かび上がるようにしてヘルハウンドの群れがその凶悪な姿を現す。
凶暴なヘルハウンドたちがその口から炎を吐き出しながら、次々と俺たちへと向かって飛び掛かる。
――斬ッ、――斬ッッ、――斬ッッッ!!
勇者ヨシニールが厳しい顔で、迫りくるヘルハウンドを次から次へと切り伏せて行く。
アヤネは銃のようなものを手に持ち、必死の形相だ。
エステリアの攻勢は止まらない。
「出でよ!我が忠実なる騎士たちよ」
地面から次々と浮き出した骸骨の姿をした騎士たちが、一斉に俺たちに向かって剣を構えて襲い掛かかり始める。
「ピスターチオッ!」
ナンシーが明朗な声で回復魔法を唱える。
しかしその表情に一切の余裕はない。
俺は精神干渉魔法で必死に骸骨騎士たちの目を眩ませ、少しでもその攻撃を遅らせることに徹する。
必死に応戦する俺たち対し、魔物たちの後方に控えるエステリアが電撃・火炎・氷結・暗黒魔法など多種様々な種類の攻撃魔法を間断なく繰り出してくる。
永遠とも思える死闘は続く。
圧倒的なエステリアの力の前にもはや俺たちにはなすすべはないかと思われた。
四人全員が疲労困憊しボロボロの姿になっている。
アヤネの頭からはすでに
肩で息をするヨシニール。
辛そうな表情で歯を喰いしばるナンシー。
俺も体中に無数の切り傷を負い、満身創痍の状態となっている。
俺たち四人の目に絶望の感情がちらつき始める。
と――――その時、
闇の奥からいきなり現れた小さな人影が目にも止まらぬ速さで、エステリアの背後へと忍び寄る。
「グハァァッ!!」
エステリアが驚愕の表情が浮かべ、断末魔の叫び声を上げる。
やがてその胸には真紅の染みがゆっくりと広がって行く。
ドサリと音を立て脱力したエステリアが地面へと崩れ落ちる。
前のめりに倒れ伏したエステリアの背中には、柄の部分に古代文字の刻まれた短剣が深々と突き刺さっていた。
「「「「サナエっっ!!!!」」」」
――――そこには黒装束に身を包みその口を真一文字に結びながら、ひっそりと佇むアサシン・サナエの姿があった。
「結局……、わらわはあの“御方たち”の余興の駒でしかなかったということか……」
エステリアは這いつくばりながらも懸命に前へと進もうとする。
しかしほどなく彼女は力尽きやがてその体はピクリとも動かなくなった。
やがて朽ち果てたその肉体からは強い炎が噴き出し、あっと言う間にエステリアの体は燃え盛る業火の中へと包みこまれて行く。
そして炎が消え去ったあとの地面には、真っ白い大量の灰が残されていた。
今ここに時の魔女、侯爵エステリアは完全に滅び去り同時にその野望は完全に潰え去ったのである。
☆☆☆☆☆☆
仲間たちがそれぞれの時空へと旅立って行く。
ひとりは堂々と胸を張りながら、
ひとりは穏やかな微笑みをその顔に浮かべて、
ひとりはその感情を決して表には出さぬままに、
そして……、
「さよならだね……みーくん」
「ああ、さよならアヤネ……俺にとっては今日二度目のさよならだけどな」
俺はそっとため息をもらす。
「あなたの時空にいるアヤネちゃんと仲良くね」
アヤネが穏やかな目でこちらを見つめる。
「魔女エステリアの死によってそれぞれの時空における《歪み》は元に戻され、きっと正しい世界線に戻っているはずだから」
アヤネのその表情は晴れやかでそれでいてどこか寂し気でもあった。
その瞬間、目の前の空間がグニャリと屈曲する。
まさに今俺たちがいる空間はもろくも崩れ去ろうとしていた。
「急いで!」
慌てた様子でアヤネが叫ぶ。
アヤネに急かされ、俺は目の前の空間に生じている裂け目の中へと急いでこの身を投じる。
俺に続いてアヤネが亀裂の中へと勢い良く飛び込む。
――――亀裂が閉じた数秒後、境界の狭間と呼ばれる異空間は完全にこの世から消滅した。
☆☆☆☆☆☆
俺はいつものようにキッチンで朝食の後片付けをする母親とリビングで新聞を読む父親に挨拶をしてから、勢い良く玄関を飛び出す。
家の前の通りにはこちらへと向かってうれしそうに小さく手を振るアヤネがいる。
――――俺は楽しそうな表情を浮かべているアヤネへと向かって大きく一歩を踏み出した。
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