第3話 陰キャの俺、夢の中で女神と出会う
あの《最悪の一日》からひと月が過ぎた。
アヤネはすっかり垢抜けまるで以前とは別人のようになってしまっていた。
もともとあまり目立たない存在だったアヤネだったが、今では髪も茶色く染め制服もオシャレに着崩し、すっかり学年でも目立っているトップカースト集団の一員となっていた。
一応、二階堂ヨシキの彼女というポジジョンに収まった形のアヤネは性格までキツめになってしまったかのようだった。
一度廊下ですれ違いざまに「陰キャ、キモッ」と言われたときはショックでその場で吐きそうになりそうなほどだった。
以前の優しくて思いやりのある彼女はもうどこにもいなかった。
きっとこれまでに経験したことがない華やかな人間関係の中に身を置くことによって、気持ちがひどく舞い上がってしまったのだろう。
そうしているうちに他人を見下すことにある種の快感を感じるようになってしまったのかもしれない。
人というものは流されやすいものであり、同時にひどく弱い心を持った生き物なのだろう。
これまでずっと一緒にいたアヤネがそうだったというのは信じたくもないし、本当に悲しいことだけれど……。
それに今の姿こそがこれまでは隠れていたアヤネの本質なのかもしれない。
そしてその元凶である二階堂も俺の目の前でわざとアヤネとイチャつくなどことあるごとに俺をからかうようになっていった。
幸いにしてクラスでひどいいじめに合うようなことはなかったけれど、俺は嫌がる幼なじみに無理やり迫っていた身の程知らずのバカ陰キャという扱いになっていた。
そんなある日の放課後、俺が靴箱から靴を取り出そうとしているところに運悪くこれから部活に出ようとする二階堂が現れた。
「陰キャくーん元気?少し暗くなーい。そんな陰キャくんに素敵なお知らせ。この前見せた動画のアヤネのオッパイ思い出しながらシコシコしちゃってオッケーだよーwww」
二階堂は小馬鹿にした様子で俺の頭と小突くとあっという間にグラウンドへと立ち去って行ってしまった。
俺は逃げ去るように家へと帰った。
アヤネとの間に何かが起きたことを察した様子の母親が心配そうにこちらを見つめていた。
俺は母親に向かってなんとか笑顔を作ると、二階の自分の部屋へと階段を駆け上がった。
部屋に入りベッドへと力なく倒れ込んだ俺は、あまりの惨めさについに声をあげて泣いた。
ただひたすらに自分が情けなかった。
せめてもの救いは明日から三日間の連休がスタートする、それだけだった。
☆☆☆☆☆☆
泣きつかれた俺はいつのまにか眠りに落ちてしまった。
そうして気が付くと俺は薄暗い部屋の中にポツンと立っていた。
目を凝らすとどうやら自分の部屋ではないようだった。
だだっ広い部屋で立派な木製の椅子とベッドが備え付けてある。
そして鉄製の重そうな扉が壁の中心にはめ込まれている。
――――そのとき、コツ・コツ・コツと足音のような音が響いた。
その足音はゆっくりとこちらへと向かってくるようだ。
そしてついに足音が扉の向う側で止まった。
俺はゴクリと喉を鳴らす。
一瞬の間をおいて《ギイーッ》というきしむような音を立て扉がゆっくりとこちら側へと向かって開く、やがて扉の向かうから一人の老婆がゆっくりと姿を現した。
その老婆はボロボロの古着らしきものを身にまといパサパサのザンバラ髪、カサついてひび割れた皮膚、潤いのない唇に血走った目をしていた。
老婆は射抜くような鋭い視線をこちらへと向ける。
「ようこそ境界の狭間へ」
老婆はザラついた低い声音でそう囁くと、真っ黄色の歯をむき出してニヤリと笑った。
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