☆転生したら私がゲームの隠しキャラで不思議ちゃんなの?〜★スタータイド!★
黒井影絵
第1章 邂逅編
私は、想起する。
――私の幼少時は常にぼんやりしていた。
自分の姿を鏡で見る毎に、何かを思い出しそうで、思い出せない……もやもやした歯がゆさを、ずっと胸に抱いていた。
そんな自分を包んでいた霧が晴れたのは、六歳の時だった。
「今日は新しい髪型にしてみましょう!ちょっと、思いついたんですけどー、きっと似合うと思うんですよー!」
我が家のメイドであるメイはテキパキと私の髪を櫛といて纏める。
いつもは鏡の中のぼんやりとした私が、この世界で唯一にして
「はい!出来ましたー。わぁ〜、すっごく可愛いですよぉ〜〜!」
私は鏡越しに自分の姿を見た瞬間に、全てを思い出した。
鏡の中の私である、ペパーミントグリーンのふわふわした髪を三日月と星を象った特徴的な意匠の髪飾りでツインテールにした、赤い瞳の美少女を見て、思わず呟いた。
「私……“うさぎちゃん”だったの……?」
その日、私は“前世”を思い出したのだ。
□
私の名前は、アリス・イシュタール。
王国領地を持つ伯爵家の、一応は貴族令嬢である。
もっとも、領地は王都近辺の狭い土地でそれほど裕福ではなく、父親は省庁勤めだが、天文方という閑職な為、我が家はギリギリ貴族という状態だ。
それはべつにいい。
派手な贅沢とは縁遠いが、貴族特有の堅苦しい空気もなく伸び伸びした環境で、慎ましくも食うには困らない、ゆるゆる状態は、前世が小市民な日本人には、むしろ助かる。
そう、前世。
私の前世は日本人で普通の……いや、世間的には十分重度のゲームオタクだった。
そして、髪型を変えた自分の姿を見て、この世界が、前世で遊んだ恋愛ゲームの世界だと、思い出したのだ。
そのゲームとは『Star-Tide/Ride on Love-Galaxy!』
日本語タイトル『スタータイド・恋は銀河を越えて……』という海外発のインディーズ系ゲームで、支援者の協力で多言語に翻訳され、グローバルな人気があった。
見た目は可愛らしいグラフィックのファンタジー世界の学園を舞台にした恋愛ゲームなのだが、やり込み要素の奥深さと、フラグ管理の複雑さで、とにかく“濃い”ゲームだった。
特色としては、海外発という事でポリコレに配慮したシステムで、主人公の性別や容姿、配色を選べるのは勿論、同性婚にも完全に対応している点があげられる。
よーするに、ノマカプでもBLでも百合でもどんとこい、なのだ。
しかも、テキストの分量が半端なく、セリフの選択を一つ変えただけで、攻略対象がライバルキャラになった上に、最推しを略奪される展開まで起こり得るので、エンディングまで全く気が抜けないゲームであった。
で、この私、アリスだが……ゲーム内での立ち位置は、主人公ではなく、モブでもなく、正式な攻略キャラでもない。
私、アリスは通常プレイじゃ会うことすら出来ない隠しキャラ、通称“うさぎちゃん”なのだ。
□
で、その“うさぎちゃん”、なのだが……。
正直なところ、良く分からない、掴み所のない謎のキャラだ。
プレイヤーには“不思議ちゃん”キャラとして認識されていた。
実際、そう言うしかないくらいゲーム内情報量が少ないキャラで……一応ゲーム全体でほとんどのイベントを見た自分でも、あの娘がどこの何者なのか全く分からない。
うさぎちゃんのイベントは彼女のルートにしか現れないのだ。
彼女はペパーミントグリーンの髪をツインテールにした可愛い系の娘で、登場フラグを丁寧に立てた上で、月夜に学園の裏庭に行くと登場する謎の少女だ。
この登場フラグも、普通にプレイしていたら絶対に気がつかないモノで、最初に彼女に遭遇した奴は一体何を考えてプレイしていたのか不思議でならない。
主人公と出会った少女は意味深でスピリチュアルな戯言を一方的に並べた挙句、究極の選択みたいな哲学的な問い掛けを投げかけて、プレイヤーを翻弄する。
その問いの一例を挙げると……
――――――――――――――――
もしも、明日、世界が滅亡すると知ったら、あなたは最後の日をどう過ごす?
A. 全財産を使い果たす。
B. 好きな人に告白する。
C. 普通に過ごす。
――――――――――――――――
私個人としては、いきなりそんなこと言われても……としか思えない。
この返答に対する彼女のリアクションは……
A『全財産を使い果たす』を選択した場合……
――――――――――――――――
そうね。最後の日くらい、羽目を外して楽しむのもいいかもね。
でも、この世界にはお金よりも大切な事があると思うの。
――――――――――――――――
私的意訳→お前は守銭奴のカスだ。
B『好きな人に告白する』を選択した場合……
――――――――――――――――
あなたってロマンチストね……胸に秘めた恋心を放つタイミングは、手遅れではないけど、ちょっと遅すぎるかも……。
世界最後のロマンスの味は甘いのかな?それともほろ苦いのかな?
――――――――――――――――
私的意訳→お前は優柔不断な恋愛厨だ。
C『普通に過ごす』を選択した場合……
――――――――――――――――
あなたは自分に自信があるのね。これまでの行いに迷いも悔いも無いなんて……どれほどの試練を乗り越えたら、その強さを手に入れることが出来るの?
あなたの崇高さは賞賛に値するわ……。
――――――――――――――――
私的意訳→お前はいい奴だけど、少し堅苦しいぞ。もっと楽にしろ。
……。
……ぱっと見、思うのは……どれが正解なんだよ!……だ。
多くの初見プレイ動画では恋愛ゲームという事もあり、大体のプレイヤーがBを選びがちだが……。
反応から判断するに、一見Cが正解に見える。
しかし、大規模掲示板に書き込まれた内部解析に基づくリーク情報によると、Aが好感度大幅マイナス、Bが好感度マイナス、Cが好感度変動なしだそうだ。
……この女ヤバくない?
リアルに存在してたら、確実に地雷物件だと思う……もしかしたら、私なんだけど!
彼女のイベントは概ね、このノリで進行するので、パラメータの推移が分かりにくい事この上なく、その攻略はノーヒントだと難易度超ハードモードだ。
というか、“うさぎちゃん”というのも、主人公が勝手にそう呼んでるだけで、公式サイトでも本名は公開されてない。
クラファンで出版された設定資料集の初期デザイン画に走り書きで“Alice”と書かれてはいたが、そう呼ぶファンは皆無だった。
開発者インタビューによると、元々彼女は攻略対象候補の一人だったが、諸事情でボツになり、それを惜しんだプログラマーが隠し要素として詰め込んだらしい。
□
そんな“うさぎちゃん”だが、正式な攻略対象でないにも関わらず、プレイヤーの人気は高い。
このゲームで良く挙がる特徴として、メインヒロインが未プレイ者がネタにするレベルで不人気だった事情を差っ引いても、ウェブ上での人気投票で一二を争う程の人気があった。
作ってるのは日本のアニメ・ゲームに精通しているオタクではあるが、海外発ということもあって、キャラクターが全体的に微妙にバタくさい上に目的意識が非常に高く、何かとプレイヤーを振り回しがちなキャラが多い中、ほんわかした彼女はストレートにカワイイ女の子だった。
……もっとも癒し系なのは見た目だけだけどな!攻略、マジでムズかった!
話を戻すと、見た目のアドバンテージか、散々攻略で苦労させられたからか、意見が分かれる所だが、ともかく、うさぎちゃんは人気があった。
公式で販売されているグッズはサイトに登場するやいなや瞬殺で完売し、ガチなコレクター達は有給を取得して画面に張り付いていたようだ。
私はそこまでではなかったが、それでも他社がライセンスを取得して販売していたフィギュアや小物類を買うくらいにはお気に入りのキャラだった。
□
そんな、うさぎちゃんの好感度を最大値まで上げ切り攻略に成功すると、彼女はラストシーンでプレイヤーに別れを告げる。
『私……星の世界に帰らなければならないの……』
そして、プレイヤーの前に選択肢が現れる。
――――――――――――――――
→ ついていく
別れを告げる
――――――――――――――――
ここで、“ついていく”を選択すると、主人公はうさぎちゃんと共に星の浮舟に乗って、銀河の海へと旅立つ……という隠しエンディングに到達する……。
……いやいやいや!!
私、未成年を何処に連れてくんだよ!
そんなん知らんがな。
うちはただの貧乏貴族だってば。
大体、舞台設定は、なんちゃって中世ヨーロッパ風ファンタジー世界じゃないの?
SNSなどでの考察班の間では、あの娘はドラッグの売人で主人公はガンギマリ状態である説が濃厚だけど……うちのパパそんな悪どいことやってるの!?
まっさかー!
……。
……いや、マジで何者なんだよ……うさぎちゃん……。
ゲーム中、通常移動モードの学園内において、それらしき人物に会うこともなかったので、本当に学園の生徒なのか、それどころか生きてる人間なのかも不明だ。
なので、他人の空似であってほしいが……。
そう願いつつも、手鏡に映る自分を見ると……
「あああー!もうっ!可愛いなぁ――!!」
思わず自画自賛してしまう程の至高の萌えキャラっぷり。
しかも、現在の私は幼女。
萌えるしかねぇ!
……我ながらダメなオタクだと思う。
「でも、可愛いんだよなぁ……はぁ〜……アリスちゃん、カワユ……」
「はい!お嬢様は世界一可愛らしいです!!」
突然の大きな声に私は硬直し、錆びついた蝶番のようにギギギギギ……と後ろを振り返ると、そこにメイドのメイが悪意なき微笑みを浮かべ立っていた。
私の顔は血の気が引いて青くなったり、恥ずかしさで赤くなったりで、完全に混乱した。
「うわぁぁぁあああぁぁぁーーーーー!!!」
恥ずかしさで居た堪れなくなった私は真っ赤になった顔を抑えてクローゼットに駆け込み、閉じこもった。
「お、お嬢様ーー?!」
死ぬ……!
これは死ねる……!!
恥死……!!!
どこの世界に本気で自分に萌える幼女がいるんだよ……!!
いても気持ち悪いだろ……。
終わった……私の人生……齢六歳で終わった……!
「お嬢様ー!、お嬢様ー!!どうしたんですかー?開けてくださーい!!」
私の内面の修羅場を知ってか知らずか、メイはクローゼットの扉を叩くが、どんな顔で何を言い繕えばいいのか分からない……。
暗いクローゼットの中で扉を抑えて、あわあわしていると……誰かがこっちに向かって走ってくる足音が聞こえ……
「アリスーーーー!!!どうしたぁああぁぁぁーーー!!!」
迫真の絶叫に思わず反射的に身を引くと、クローゼットの扉が、凄まじい力で剥ぎ取られた。
扉がなくなったクローゼットの前に立っていたのは、私……アリスの兄チャールズが、鬼気迫る顔で私を見据えた。
「無事かぁぁぁあああぁあぁーー!アリスーー!!」
――――――――――――――――
新連載始めました。
よろしくお願いします。
“ほのぼの”タグは“目標”です……。
……後でこっそり外すかも。
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