第11話 混乱
王女のそばにいる間はリアムも近づくことはしなかった。だがこちらの様子を観察しているのは感じていた。
すがりつくような視線に、僕はローズに声を掛けた。ローズが意識を失ってからの一年間、兄から聞いた話を伝えておくべきかもしれない。
ローズ、君がいたあの国で、君がいなくなった後に起きた話をすべきかもしれない。
僕の言葉に、ローズは少し震えた。会話の間、王女は時折心配そうな視線を向けてくる。それに小さく微笑み、ローズは誰にも気づかれないように頷いた。
幼い頃のローズが家族に冷遇されていたのは、ローズの母が不義の疑いをかけられ、それを理由にないがしろにされていたのだった。
もちろんそれは誤解だ。
だが人の心は頑なで、公爵はローズの母に治療を受けさせることもローズを思いやることもしなかった。
美しすぎるがゆえに、不安をこじらせたのだった。そして生まれた子供は母に似た金髪。そして父母に似ない赤い瞳を持っていた。
その不安に何かがつけこんだのだろう。母が死んでからマリーが現れるまでローズは愛される事がなかった。
ローズがいなくなった卒業パーティの後、売り払った宝飾品に刻まれた家紋から足がついた。その頃には既に隣国にいて冒険者として活動していた。
兄が派遣した神官たちの活躍で悪魔はロベリア帝国を去ることになった。大規模な結界がないせいで、国全体が虚弱な状態になっていたようだ。
その結界を支えられるほどの魔法使いも魔石もあの国にはなかった。
正気に戻った人々は、悲劇の主人公である悪女を探した。
あの事件の発端はこの世界の時間軸、いくつもある可能性の一つを『架空の世界』として娯楽にした異世界の少女がこの世界に連れられてきたことだ。
リリーとして生まれ、その娯楽を未来予知として認識していたようだ。
リリーは塔に幽閉されているらしい、そしてローズマリーは行方不明。貴族の令嬢が急に平民として暮らすことなんて出来るわけがない。
きっとさまよった揚げ句に違法な奴隷商人に捕まったのでは、と噂されていた。
ローズの家族はただ一人、公爵が過ちを悔いていたそうだ。愛していた妻の忘れ形見を傷つけ、そして失ってしまった。
今でもロベリア帝国では悲劇の令嬢として、語られている。
繰り返してはいけない、と隣国から魔石を買い取ってまで結界を維持しているようだ。
――ローズ。どうするの?
どうするって何? ローズは僕の言葉に疑問を唱えた。
あいつ、王女さまから離れたら絶対話しかけてくるよ。ほら、今も見てる。
僕の言葉にローズが周囲を見渡すと、リアムと視線があった。目を反らすことなく、こちらを不躾に見つめている。
どうもしないわ。私は今が幸せなの。
ローズはもう何も迷ってはいないようだった。
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