第7話 冒険者令嬢

 皇都を見下ろすと、夜中であるにも関わらず色んな場所に明かりが灯っていた。逃走した令嬢を探し出すためだろう、騎士団が駆り出されているのを見て思わず笑ってしまった。


 いつまでも地面を探していればいい。


 僕はすぐに国境に向かった。夜が明ける頃まで飛び続けて、隣国の少し大きな街に辿り着いた。


 閉ざされた門の前で僕は一人待つことにした。大きな街には魔物避けの魔法が展開されている。この辺りなら安全だ。人の気配もないし、嫌な予感もしない。

 僕は平気だったが、ただでさえ疲れ切っていたローズマリーの体は限界だったらしい。


 少し休むために門に辿り着いた時にはとてつもない眠気が襲い掛かってきた。すぐに目の前が暗くなる。


 眠ってしまったのだと気づいた頃には、完全に体が眠ってしまっていて動けなかった。


「お嬢ちゃん、お嬢ちゃん大丈夫?」


 男の声にはっと目を覚ますと、外は明るく街の門は開かれていた。声を掛けてきた男は検問をする兵士だったようだ。


「大丈夫! ちょっと寝てただけだから」


「倒れてるんじゃないかって心配したんだよ。何もないなら良かった」


 男の他にも何人もの人の視線が突き刺さる。門を開けたら人が倒れていたのだから何事かと思ったのだろう。


 スカートの汚れを払って、僕は大人しく通行料を払った。おつりはピッタリ冒険者の登録料に一致した。あの夜店の店主は存外キレ者だったようだ。


 冒険者ギルドの場所や登録料なんかの話、安くて良い宿屋の情報も仕入れ、僕は嬉々としてギルドへ向かった。


 この街ではずいぶんと楽しく暮らすことができた。ある程度のランクにならなければ冒険者カードは自動的にはく奪されてしまう。そういうシステムらしい。


 そのせいで僕はしばらくの間は地道にコツコツと頑張らなくてはいけなかった。


 ローズマリーの体を休息させつつ、依頼をこなす。その間の色んな事は記憶を共有し、起きた時に受け入れられるように魂に穏やかな夢を見せることにした。


 思考を手放してしまったローズは、ただぼうっとその夢を眺めているようだった。ただ苦しんでいない事だけが幸いだ。


 体よりも彼女の魂を休ませなければならない。僕は依頼をこなしつつ、神殿に通った。ランクが固定されるC級になるまで一年かかってしまった。

 神殿では兄や姉にローズマリーの事を相談していた。


 この街には幸い、なのか残念なことになのか、顕現している兄姉はいなかった。


 冒険者として昇格される頃にはもう新人の教育を任されるくらいには信頼されていたが、僕はこの国の首都に向かうことにした。

 嬉しい事に長兄が迎えに来てくれるらしい。


 既にドレスは亜空間にしまいこんで、髪も高く結い上げていっぱしの冒険者として活動していたが、僕には冒険者令嬢というよく分からない二つ名がついていた。


 やはり誰から見てもローズマリーの高貴さ隠せないらしい。呆れつつも嬉しくなった。

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