なんかごちゃごちゃした話

アリシアの歴史解説コーナー。『初代王妃アントワネット』

アリシア(以下ア)

「皆さん、ごきげんよう。アレクシア・マリー・シュトルーヴェよ。アリシアと呼んでちょうだいね」


ドンフォン(以下ド)

「こんにちは、ジョルジュ・ドンフォンだよ。私のことはジョルジュと呼んで欲しいな」


ア 「ドンフォン中尉には私の助手をお願いするわね」


ド 「ジョルジュゥ……」


ア 「さあ、ここではグルンステイン物語に名前が登場した、歴史人物や歴史的出来事の解説をして行くわね。まず一人目は、『アントワネット・イザベル・マリー・ボーマルシェ』よ!」


ド 「グルンステイン大公国最後の大公妃で、王国最初の王妃だね。王都リリベット中心部の、第一師団本部と第二連隊庁舎の間にある広場に、銅像が建てられているね。アントワネット広場として市民の憩いの場にもなっているよ。とても綺麗な女性だよね」


ア 「ええ。アントワネットは、グルンステイン北西のボーマルシェという国で生まれたの。このボーマルシェは伯国で、アントワネットはとっても可愛らしい伯姫だったみたい。父親はボーマルシェ伯ステファン二世。母親はプニエ辺境伯の娘アントワネットよ。アントワネットは三男四女の三女として、二人の間に生まれたわ」


ド 「母親と娘で同じ名前だ。昔は多かったんだよね、こういうの」


ア 「ボーマルシェの家族の間ではイザベルって呼ばれていたみたいよ。だけど我が国ではアントワネット王妃で慕われているから、アントワネットと呼ぶわね」


ド 「了解!(ビシィッ)」


ア 「グルンステインが大公国から王国になったのは、今からザッと三百年前。アントワネットは、当時のグルンステイン大公ギョームを助けて王国建国の為に大活躍した女性なの。当時は伯国や公国、侯国もあって、乱世そのものだったわ。一番権勢を誇っていたのは、やっぱりカラマンね。当時にはすでに周辺の小国をまとめ上げて、皇帝を名乗っていたわ。それにはエウヘニアとの関わりもあるのだけど、それはまた今度」


ド 「エウヘニアって面倒くさい印象しかないな」


ア 「ボーマルシェ伯はそんな群雄割拠の時代に、後継者に恵まれなかったの。妃との間に子供は生まれていたのだけど、みんな幼いうちに夭折してしまったのよ。無事だったのはアントワネットと弟のハインリヒの二人だけ。その唯一の男児のハインリヒは、母親の生まれた土地であるプニエ辺境伯国で暮らしていたの」


ド 「誘拐かい?」


ア 「いいえ。プニエで生まれたとされているわ。諸説あるけど、一時帰国した際に妊娠が分かって、そのままプニエで生んだとか。母アントワネットは帰りたがっていたけど、孫に当たる公子を意のままに操りたいと考えた辺境伯の策略で、帰国させてもらえなかったという説もあるわね。後に母親だけは帰国出来ているから、後者が有力だと私は思ってるわ」


ド 「乱世怖い」


ア 「そんな状態だから、アントワネットは後継者の一人として、かなり高い教養を身に付けさせられたわ。で、それが面白くないのがプニエ辺境伯で、ボーマルシェ伯ステファンが突然死したのを切っ掛けに、弟ハインリヒを送り返してきたの。自分の妹と結婚させてからね」


ド 「おっと、これは謀略の予感。暗殺かい?」


ア 「ステファン二世が視察で街区に降りてきたところで、暴漢に襲われたの。即死では無かったのだけど、結局その傷が元で亡くなっているわ。犯人はその場で自殺していて動機は判然としなかったみたいだけど、すぐにハインリヒを送り返してきたところを見ると、暗殺と考えるのが妥当なのかしら?」


ド 「安月給とは言え、現在に生まれたことを感謝すべきなのか……?」


ア 「今、そんな事をしたら、どうなっちゃうのかしらね」


ド 「それで、アントワネットはどうしたんだい?」


ア 「特別何もしなかったわ」


ド 「ええ? だけど、後継者としての教育は受けていたんだろう?」


ア 「それでも弟が帰って来たんだもの。プニエ辺境伯の思惑は分かっていたから、自分がしっかりと弟を支えれば良いと考えていたの。でも、ダメだったのよ。帰国して初めて会った弟は、アントワネットを蔑ろにしたの。そして、弟の妃にも邪険にされて、アントワネットはすぐに摂政の座を降りる事になったわ」


ド 「ちなみに、その時の年齢は?」


ア 「アントワネットが十七歳。ハインリヒは十三歳。妃は二七歳よ。妃は一度結婚して、夫と死に別れて出戻っていたの」


ド 「ダメだ! それは、もう、どう考えても、ダメなヤツだ! 大人の女性の手練手管で! 骨抜きになってるヤツだ!」


ア 「ハインリヒはすっかり妃の言いなりだったみたい。ボーマルシェの宮廷をプニエから連れて来た家臣が跋扈して、我が物顔で歩いていたら……。ボーマルシェの古参の家臣達は、そりゃアントワネットのもとに集まるわよねえ」


ド 「つまり伯爵位を巡っての争いが起こった訳だね」


ア 「ええ。ハインリヒは叛逆の疑いでアントワネットを幽閉したわ。彼女を担ぎあげようとしていた家臣達も捉えられて、沢山の人々が幽閉や処刑の憂き目にあったわ。だけど、アントワネットに味方する家臣達は、彼女を幽閉された城から脱出させる事に成功したの。アントワネットは、そのまま隣国であるグルンステイン大公国に亡命したわ」


ド 「どうして、そこでグルンステインが?」


ア 「当時のグルンステイン大公ギョームは、アントワネットに結婚を申し入れていたのよ。元々、ギョームは結婚していたんだけど、先の妃は出産の際に亡くなっていたの。子供も男の子だったんだけど母親と一緒に亡くなっていて、ギョームは新しい妃を探していたのね」


ド 「そこで候補として上がったのが、アントワネットだったって訳だね。だけど、アントワネットはボーマルシェの有力な後継者候補だったよね」


ア「だからよ。彼女がとても賢い女性だったから、きっと宮廷内をしっかり取り締まってくれるだろうと考えたの。ギョームはとても戦上手ではあったけど、統治の方はあまり上手くは無かったから、政治の面での補助を求めていたのね」


ド 「宰相とかいなかったのかい?」


ア 「居たけど、貴方。グルンステインって基本的にどういう国か分かっている?」


ド 「……脳筋かあ……(遠い目)」


ア 「オーベール一世やフィリップ十三世が稀有な存在だったのよ」


ド 「それじゃあ、グルンステインはアントワネットを女伯に立てて、ハインリヒを排除したのかな」


ア 「いいえ。まずプニエを攻めたわ。そしてプニエ辺境伯を廃位して幽閉し、ギョームの弟を辺境伯に就けたの。ギョームの数代前の大公妃はプニエ辺境伯家の姫君だったのよ。血縁関係は、あるにはあったの」


ド 「超強引。だけど、それが当たり前の時代だったんだね。そうしたらボーマルシェはどうしたの? ハインリヒもその妃も黙っていないのでは?」


ア 「力こそパワーよ」


ド 「わあ。(攻め滅ぼしたのか)」


ア 「ギョームは新たに辺境伯となった弟と一緒に、ハインリヒを挟み撃ちにしたの。だけど、グルンステイン側としては、アントワネットを旗印にして挙兵したボーマルシェ貴族を支援した形ね。あくまでもグルンステインは、プニエの勢力を排除してボーマルシェをあるべき姿に戻す、という体裁をとったのよ」


ド 「脳筋だったのでは?」


ア 「アントワネットが『そうして欲しい』とお願いしたとされているわ」


ド 「なるほど」


ア 「アントワネットは鎧を身に付けて戦場に出たわ。勿論、婚約者を護るという口実で、ギョームも出陣したわ。ボーマルシェの軍を指揮したの。グルンステインは後方支援を中心に、陣形の弱いところに補充されたわ」


ド 「アントワネットも脳筋の気があったのか!」


ア 「違うわよ。そうする事で、よりグルンステインが軍事介入しやすい形をとったの。ハインリヒは捕まって、幽閉されたわ。アントワネットはボーマルシェの女伯になった。そして、ギョームと正式に結婚。女伯であり、大公妃にもなったの」


ド 「ハインリヒの妃はどうしたのかな」


ア 「妃は別の国に逃げたわ。叔母の嫁ぎ先の伯国ね」


ド 「面倒臭い事になりそうだ」


ア 「そうでもないのよ。妃の逃亡先の伯国は面倒ごとを嫌がって、妃の要求を突っ撥ねたみたい。グルンステインは強い国だったもの。特段の利益を見込めないのなら、直系でもない外国の妃の為に、わざわざ好んで戦争する意味なんてないのよ。結局、彼女は適当な屋敷を充てがわれて、生涯そこで暮らしたの。晩年は貧困に苦しんだようよ」


ド 「世知辛いなぁ。それで、その後のアントワネットはどうしたんだい?」


ア 「女伯となったアントワネットは、積極的に外征を行うギョームを助けたわ。まず度量衡を統一して税金の徴収制度を整えたの。道も整備して、商人に限って村や町へ入る時の税金を下げたわ。これは土地を治める貴族達の評判は悪かったみたいだけど、商人の往来がしやすくなって結果的に地方も豊かになって行ったの。また、学校も建てて学問を奨励したわ。これを、アントワネットはグルンステインとボーマルシェ二つの国で行ったのよ」


ド 「まるでフィリップ十三世のようだね」


ア 「途中でボーマルシェのハインリヒ派の貴族の謀反もあったけど、これはギョームがすぐに叩き潰してしまったみたいね。それまでハインリヒは幽閉と言っても、立派な城を充てがわれて比較的自由だったのよ。監視は厳しかったようだけどね。だけど、この一件で別の、もっと監視しやすい城に移されて、残った人生のほとんどを人と会う事が許されなかったと言われているわ」


ド 「もう少し姉を大切にしていれば、そんな事にはならなかっただろうに。ハインリヒは妃とプニエ貴族の言いなりだったんだろう?」


ア 「歳上の妃を、物心ついた時から慕っていたの。実の父の顔すら知らず、母からも引き離されて、姉と会ったのは十三歳になってから。十歳も離れた妃はハインリヒにとって姉で、母だったのよ。依存してしまうのも、分からないでも無いわ」


ド 「それじゃあ、その最愛の妃にさっさと見捨てられたのはショックだっただろうね」


ア 「本当にそうね」


   しんみり……。


ア 「そうそう、アントワネットの話だったわ。ハインリヒはいいのよ、ハインリヒは」


ド 「酷い……」


ア 「アントワネットは、ギョームの為に周辺諸侯と積極的に交流をしたわ。当時のグルンステインは、現在の国土を南北に二分するオルヌ河の北部に領土を構えていたの。今も昔も我が国の重要な穀倉地帯ね。かつての首都バルナベを中心に、結構な広大な領地を抱えていたわ。因みに、我がシュトルーヴェ家はバルナベの西部、今は治安維持軍第二師団の管轄区域にあるわ」


ド 「ドンフォン家は……、はっ! かつてのプニエ辺境伯領だ……!」


ア 「ドンフォン家は、かつて高品質なサファイアの産地だったわね」


ド 「今は採り尽くして見る影もない……」


ア 「アントワネットとギョームの間には、子供がたくさん生まれたわ。六男五女よ。この子供達を領地運営の合間に生んで、自らの手で教育を行ったの。それでいてギョームが愛妾との間に作った子供達も、愛妾達の面倒も見ていたのだから、とんでもなく凄い事よね。まあ、この子供達の子孫が、後にグルンステインに絶対覆してはならない後継者制定法『マルト法』を作る切っ掛けとなった、争いを起こすのですけどね」


ド 「第五話〜⑨でフランツ先輩が話していた法律だね。確か、ギョームの愛妾の一人が生んだ姫君が政略結婚で国内の有力貴族に嫁いだんだ。そうしたら、その何代目かの子孫が血筋の正統性を訴えて王位を主張したんだっけ」


ア 「この時はフィリップ六世の時代だったわ。だけど、フィリップ六世はまだ幼少で、母親が摂政として国政を取り仕切っていたの。でも先代の弟で宰相を務めていたカリエール公爵と恋仲と噂されていて、フィリップ六世はカリエール公爵の子だとも、先代国王は王妃とカリエール公爵に殺害されたとも言われていて、それを良いように利用されたってところね。外国から嫁いだ姫君が好まれないのは、いつの時代も同じなのよ。カリエール公爵の妃がフィリップ六世の母親を嫌っていたっていうのもあったの。二人は馬の育成が趣味で、共に軍馬を育てる事に熱心だったみたいね。楽しそうに意見交換をする二人に、カリエール公爵の妃は嫉妬したの」


ド 「実際に先代国王は……?」


ア 「狩猟中に家臣の一人が撃った銃弾が当たって、その傷がもとで亡くなったの。獲物の位置なんかの連絡が充分に行き渡っていなかった事が原因みたいよ」


ド 「うわ、うう〜ん? それは何ともまた」


ア 「判断し難いところよね。はっ! いけない。また脱線しちゃったわ」


ド 「アントワネット、アントワネットだ!」


ア 「そうそう、初代王妃様よ。アントワネットが生んだ子供達は、十一人の内、十人が無事に成人したわ。一人は死産だったそうよ。アントワネットとギョームは、成人した子供達を積極的に周辺国へと送り出して、姻戚関係を結んだわ。グルンステインは各国諸侯との強い血の絆を得たの。諸侯達が揉めたら仲裁を行い、外国に攻められたら軍事で支援したわ。そして、無茶な要求をする事なく、すんなり引き揚げた。そうして確実に周辺諸侯の信頼を得て行ったの。それが出来たのは、アントワネットが国内をしっかりと纏め上げていたからよ。国庫を潤すだけでなく、貧困者への支援もアントワネットは行っていたわ。勿論、それはギョームの名前でよ。そうする事で、ギョームは領民から良き大公として尊敬されていたの。そんなアントワネットの努力が実って、グルンステインは周辺諸侯の支持を得て、国王を名乗る事を正式に認められたわ。しっかりした封建体制を築くのはまだ先の事なのだけれど、この時にはアントワネットの才覚によって下地が築かれていたわ。これがグルンステインが大公国から王国へとなった経緯よ。ギョーム亡き後は、跡を継いだ息子のフィリップ一世を助け、息子の妃ともそれなりに仲良く暮らしていたわ。晩年は弟の妃とは対照的に幸福に過ごしたみたいよ。彼女の死の際には、国王ギョームにも負けないくらい、壮麗な国葬が行われたわ。国民も諸侯も、良き王妃の死を心から悼んだの」


ド 「愛された女性だったんだね。凄い、凄い女性だ……!」


ア 「そうそう、因みに我がシュトルーヴェ家にも、ギョームの愛妾が生んだ姫君が嫁いで来たわ。シュトルーヴェ伯爵二代目当主の妻になったわ」


ド 「ちょっと待って。それじゃ、シュトルーヴェ家は、君のひいお祖父さんがソフィ王女と結婚する前から王家の血筋に連なっていたってこと?」


ア 「うふふ。うふふふふふ(ニンマリ)」


ド 「か、格が違う! 侯爵家とはいえ、貧乏貴族のドンフォン家とは、あまりに格が違う!」


ア 「貴方、それジェズの前で言わないほうが良いわよ。ジェズからしてみたら、貴方、大金持ちの子弟なんですからね? 撃たれちゃうわよ?」


ド 「シェースラー一等はそんな事はしないように思うけど、了解」


ア 「さあ、どうだったかしら。これが『アントワネット・イザベル・マリー・ボーマルシェ』の人生よ。また機会があれば、お話をしましょうね。それでは皆さん、ご機嫌よう!」


ド 「ご機嫌よう!」




                           終わり。


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