白き聖獣のウル 魔法の世界と31人の子供達
@hinomosihiro
ようこそ新たな世界へ!!
『人が存在する限り、この世に平和なんてものは存在しない』
僕がいじめられた時、父さんが言っていた言葉だ。この世界に平和は存在しない。たとえ、人の言う平和が存在したとしてもそれは仮初、張りぼての平和だと。
だから、本当に守りたいものがあるのなら強くなれ。誰もお前をいじめようと思わないほど強くなれと。
そう言って僕を叱った。そして、次の日。僕のいじめていた子供達は学校から消えていた。
その時、僕は始めて力と言うものを実感した。そして、それと同時に力と言うものに恐怖を感じてしまった。
大きな物が空から降ってきたかのような崩れた家々、壁には無数の穴が空いていた。所々から火が上がっており遠くから悲鳴が聞こえてくる。
ドン、ドンと地響きが鳴り響き、地面が揺れる。
突如。家が四散する。そして、そこから巨人が現れ、後ろでに倒れ込んだ。金属で出来た体躯、西洋の兜のような顔には緑色に光る二つの目。傍にはその巨人が持っていた物だろう大きな直剣が落ちている。のっそり、と上体を起し、少し刃零れしている剣を掴もうとする。が、それは叶わず。瞬間、巨人の胸部は圧倒的な質量を持って押しつぶされてしまう。
巨人が完全に壊した家の残骸から新たに巨人が現れた。
その姿は白く、倒れている物と比べて全体的に細身であり、片手には地面に転がっている形の変わった剣を携えておりその刃先、切っ先は青色に光っており所々茶色の液体が付着していてまるで、数人の人間を切りつけた後の刃物のようだ。
その白い巨人は、地面に転がった剣を拾い上げるより先に跳躍し、相手の胸部に体重をかけるように片足で押し潰した。
それは、叩き付けた果実のように内部から赤色の混じった茶色い液体が潰されて割れた金属の隙間から噴出した。
「クソッ! これで三機! 何故たった一機のシルヴェスを殺せないのだ......。我々のシルヴェスとスペックが違いすぎる。これが、アドライアの新型シルヴェスの性能か......! アレンとソーレは左右から挟み撃ちにしろ!」
「「了解!!」」
「あ、あぁ! ちゅ、中隊長! 中隊ちょ―――」
シルヴェスと呼ばれた白い巨人は一時、身体を低くし後ろから飛んでくる弾丸を避けると地面を大きく蹴り上げ、一瞬の間で背後から射撃していたシルヴェス距離を詰め、片手で銃を叩き上げ射線から自分を逸らしすと同時に先ほど踏み潰した所と同じ場所を突き刺す。それから休まず、頭を掴み追撃してきた二機のシルヴェスに向けて放り投げた。
一機は横に避けたが、もう一機は反応が遅れ、正面からまともに当たってしまった。大きな金属音を立てながら崩れ落ちる。
「アレストがやられた! ぐぁ!」
幸いにも、機体の損傷は軽微。しかし、重い機体の下敷きになってしまい上に乗った重い物体を上手く退かす事が出来ずに手こずっている。
「ソーレ!」
避けたもう一機は持っていた突撃銃を捨てると腰に挿してある剣を掴み、倒れたもう一機が起き上がるまでの時間を稼ごうとした。だが、パイロットは極限の状況に置かれていたからか分かっていなかった。
自身と相手の実力というものを。
「グァッ!」
上から下へ勢いよく振り下ろした剣。白いシルヴェスは左足を後ろに、四十五度身体を転身させ紙一重の距離で避ける。それから、相手とは逆に剣を振り上げ機体の股下から胸にかけて両断した。
「アレン! クソッ! この化けも―――」
胸が裂かれ崩れ落ちたと同時に上に乗った機体を退かし終えたシルヴェスは立ち上がらずに傍に落としていた突撃銃を片手で拾い上げ、録に狙いも付けずに乱射した。だが、それを見越していたのか既に跳躍しており、敵の視線から外れ、相手が呆気に取られている内に自身の体重を乗せて剣を奥深くに突き刺した。
「これでは戦線を維持できません! 中隊長! どうか撤退のご指示を!!」
「ッ! 止む終えんか......。総員、倒れた機体は捨てて撤退。殿は一零七分隊がやれ」
「「「了解!!」」」
三機のシルヴェス以外は背を見せ、全力で走り出した。そして、残った三機は白いシルヴェスに対して一斉に掃射を開始する。剣が引き抜けず数発被弾するが、直ぐに別の行動に移る。剣が刺さった状態の機体の胸に拳を突き刺すとその場にしゃがみ自身の盾として、敵の目の前に突き出した。
金属に銃弾が当たり、破裂音が周囲に響き渡る。少しずつ、少しずつ削れて行くシルヴェス。外部装甲が弾け飛び、フレームが見え始めた時には銃声が止み、射撃を行っていたシルヴェスも遠くに見え大きく距離を離されていた。
純白だった装甲は砂埃と壊れたシルヴェスから噴出した液体が付着し、見る影もなく。その姿はまるで、獰猛なる獣。
相手を容赦なく襲い、貪り、食い荒らす獣のようだった。
「はぁ......はぁ......」
コックピットに座り、顔を前に倒し動かない少女。長い白い髪は揺れ、激しい息遣いで上半身が上下する。
髪で隠れた顔は不快を感じ歪んでおり、左右の操作装置を握り締め、震える身体を必死に押さえながら目の前のメインモニターを見る。
目の前には市民と兵士の数が死屍累々となり、地面に、崩れた建物に、目の前に広がっている。
「うッ!」
少女はモニター越しにそれを眺め、思わず口元を隠し吐き気を必死に我慢した。しばらくすると、電子音と共にコンソールに指令文が受信される。
息を整え、手馴れた手付きで操作し、メインモニターに表示させる。
『状況終了。速やかに拠点に帰投せよ』
「なんで、どうしてこんな事に!」
自身の運のなさを恨みながら、白い獣を動かすとゆっくりとした足取りで壊れいく町を尻目に拠点へと帰っていった。
「ねぇ......ちょっと聞いてるの透」
「え? ごめん。聞いてなかった何て言った?」
「今日は一緒に本屋に行かないって言ったの」
何時も通り学校に向かっている最中。何時も通りの通学路。太陽が昇り、人々が動き出す頃。僕達も何時もの様に学びやへと足を進めた。
「ねぇ香奈」
「ん? 何?」
「......いいや。何でもない」
「もう、どうしたの。今日の透何か変だよ?」
とぼとぼ歩きながら覇気のない返事をする僕の前に回りこみ、不満げな表情を見せる。曇りのない夜の様に艶のある黒い長髪、整った顔立ちに抜群のバランスを誇る身体。世の男達が彼女を知れば必ず自分の物にしようとアピールするだろう。それ程、彼女。
本人はそんなこと気にもしないと言うように僕の周りを回りながら下から上に探るように目線を上げ、最後に僕の顔をじっと見つめた。
「何」
「いいや。何でもない」
さっき言った僕の言葉を口調を似せながら答える。その顔はいたずらをした後の子供のような笑顔で思わずこっちの頬も緩んでしまう。
「早く行こ」と言うと僕の手を掴んで早歩きで歩き出した。それに釣られ、僕の足も自然と早くなる。
「何か変な夢を見たんだ」
「夢? どんな夢?」
「......女の子になってロボットに乗って戦う夢」
「......っぷ。何その夢、変なの」
「だから言ってるじゃん変な夢だって。―――でも、なんだかさ。妙に生々しくて、何だか気持ち悪かった」
思い出すと思わず吐き気が襲う。座っている時の尻から伝わる振動、敵を殺した時の叫び声、地面に転がる死体。それのどれもが
深刻な顔の僕とは真逆で何とも馬鹿にしたような顔。
「......」
「......馬鹿にしてるでしょ」
「してないよ。ふふ。そんなの唯の夢だって透気にしすぎだよ」
「もしそうなっても私が守ってあげるよー」っと笑いながら言う。
学校に近づくと次第に登校する生徒達が増え。気恥ずかしくなった僕は手を離すように不満げに言うと「私に命令出来るのは私だけよ」と意味の分からない事を言い離してくれない。
生徒達の視線が刺さる。
「また一緒に来たぞ」
「何であんな奴が香奈さんと」
「幼馴染らしいよ」
「羨ましい」
ひそひそと話す声。その内容は嫉妬、羨望、疑問。小学校の頃から味わっているが、未だになれない。僕の出来る事は唯一つ、視線をしたに。目を合わせないことだけだ。
階段を上り、自分の教室に辿り着く。香奈が扉を開け、僕が後に続くように入って行く。
「おはよみんな!」
「おはよう香奈ちゃん!」
「おはよ香奈っち」
「おはよう香奈」
香奈の一声で教室のほぼ全員が挨拶を返す。僕と一言言うと離れ、自身の席に付くと直ぐに周りに生徒達が集まり、我先に香奈に話しを投げた。
本人は笑いながらその全てに答えていく。
そんな周りに好かれる香奈。僕はその顔はまるで、仮面を付けているようで嫌いだ。
自分の席に座り、バックパックを席の端に引っ掛けると窓の方に目を向け空を眺めた。
友達が少なく、香奈と一緒に居るせいで他の人達の当たりが強い。だから、僕は学校に居る殆どの時間を一人で居ることが多い。
その方が、気を遣わなくて済むし楽だからだ。
「おい、透」
始業まで残り五分。教室の喧騒から離れ、青い空を眺めていると僕を呼ぶ声が聞こえてきた。声のする方に顔を向けると、そこにはバックパックを下ろし僕の隣の席に掛け、額の汗を手で払い拭いている男。
癖のない普通の髪。どっちかと言うと整った顔立ち。汗をかいていても清潔感のある身なりは人に不快感を与えない。
そんな青年は僕の数少ない友人である
「おはよう。今日も遅かったね」
「今日もバイトが忙しくてな」
圭吾の家庭は貧しくて生活費の他に自分で学費も稼いでいる。だから、朝でも働きに出ている為、殆ど毎日始業時間ギリギリなことが多いのだ。
「そんなに働いてよく体力がもつね」
「おうよ。生まれつき体力だけはあるからな」
屈託なの笑顔が僕の緊張を解れさせる。身体事、圭吾の方に向くと一番見たくない顔が見えた。
「貧乏男と贔屓野朗じゃねぇか」
「あ?」
「おい御崎。何時になったら箕島紹介してくれるんだ?」
「そんな約束したことない」
圭吾を無視して僕の肩に手を回し、言葉に圧を込めながら話し掛けてくる。僕はあからさまに顔を顰めながら、そっぽ向く。
「ッチ! お前、箕島と知り合いだからってあんま調子乗ってんじゃねぇぞ?」
それが気に入らなかったのか香奈に聞こえない程度に声を荒げ僕の胸倉を掴むと強制的に身体を向けさせる。
「別に調子のってないんだけど」
「テメ「おい梶野」あ!?」
右手で拳をつくり、僕を殴ろうとした時。僕と梶野の間に圭吾が割って入った。梶野の右手首を掴みとる。
「お前ダサい真似してんじゃねぇよ」
「んだと貧乏人が!」
一触即発の雰囲気。直ぐにでも殴りかかろうとしたその時、停戦の合図が鳴り響く。鐘の音と共に一斉に席に座る生徒達。
それを一瞥すると、梶野は舌打ちをしそのまま自身の席に戻っていった。
「ごめん圭吾」
「気にすんな、何時もの事だろ?」
「ありが―――」
それは、突然訪れた。
床が青く光りだし、教室全体を包み込む。悲鳴を上げる女子生徒。叫ぶ男子生徒。生徒達はパニックになり、我先に教室から出ようとするが、一番先に扉の前に到着したのと同時に光りが大きくなり、目の前が見えなくなった。
「空間を固定。......成功しました。人数は31人です」
光が収まり、目を開けるとそこは教室ではなかった。
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