1 暴食地獄へと落ちた王と民衆

第2話 暴食地獄へと堕ちた王と民衆。1 揚げられるウンディーネと肉塊のエルフ

 かつて聖女ジャンヌが作り上げた平和は地獄へと一変した。


 ジャンヌを処刑した後、突如人も植物もすべて溶かす瘴気が広まった。


 水も草木も濁り枯れてしまい食料の奪い合いによる戦争が起き暗黒時代に逆戻りしてたった一年ですべての生き物は死んでしまった。


 善意がありジャンヌを最後まで信じた者や、平和に堕落した者から理不尽を受け未来を潰された哀れな魂たちは楽園へ上がる。


 そして、平和を貪りジャンヌを陥れた者たちの魂はすべて地獄へと堕とされた。


「へ、陛下…ここは一体…?」


「ワシが知るか!! くそっ!!」


 ジャンヌの処刑に加担した肥満で豪華な宝石を身にまとった王。ブオウと大臣らは透明な壁に阻まれて身動きが取れなかった。


 ブオウ達を閉じ込めている透明な壁は実は瓶であり、ブオウのいる瓶の左右上下にはジャンヌに向け魔法の的や石を投げ暴言を吐いていた民衆たちの姿があった。


「ひぃぃぃ!!!! な、なんだあれは!?」


 ブオウがこの台所の主である巨人たちが見え叫んだ。血がべっとりついた作業服とエプロンを着こんだ巨大な豚たち。二足歩行で器用に食器を並べ、油の入った釜を用意して料理の準備を進めていた。


 そして、巨大豚が下半身にヒレや鱗を生やした水棲種族「ウンディーネ」が入れられた瓶を取る。中にいるウンディーネたちは「やめて」「ここから出して」と恐怖で泣き叫んだ。


 暗黒時代に水が荒れ住処がなかったウンディーネ達は、ジャンヌが人を動かしその協力のおかげで環境を整え美しい住処に戻すことができた。


 瓶の蓋が開けられ中にいた水棲生物たちは何千度もの油の釜に放りこまれた。


 ジュゥゥゥゥ!!!!!!


「ひぎぉぉぉぉぉ!!!!!!!」


「あづぅぅぅぅぅぅく!!!!!」


「あがぁ、ひぎぃぃぃぃぃ!!!!」


 水中では無類の強さを発揮するウンディーネだが、地獄の油湯の中では何も意味もなさない。


 ジャンヌがウンディーネ達の住処である水場を占領しようとしている噂を聞き、水を何よりも第一に考えるウンディーネはジャンヌの排除に協力した。その噂がブオウによる嘘だと知らないまま。


 カリカリといい音をたて、巨大豚のコックはトングを使い油あげにされたウンディーネ達を皿に盛る。香ばしい臭いを放つウンディーネだった物を見せられ、瓶の中の罪人たちは泣きわめいた。


「いやだぁぁぁl!!!! 出してぇ!!!! 出してぇぇ!!!!」


 そこから、豚たちの調理が進み次々と瓶の蓋が開けられた。


 自然を愛するエルフたち。この種族もジャンヌが身を削って自然を守るため闘いエルフたちはジャンヌに感謝していた。


 だが、その闘いはジャンヌが山や森を削り別荘を建てるために守っただけと、ブオウの言葉と嘘の証拠を信じてしまい地獄へ堕ちてしまった。エルフたちは巨大なボウルに入れられ、豚の巨大な手により力強くかき混ぜられ跡形もなく肉の塊と化した。


「ふっ!! ファイヤボール!!」


「フライ!!」


 中には瓶の底につかまり魔法で攻撃する者や、空を飛ぶ魔法で逃げるがすべて無駄に終わる。


「~~ッ」


「ッ~~」


 豚が口を開き何かを発すると、瓶の底にへばりついていたエルフや飛んで物陰に隠れていたエルフたちが豚の口に向かって飛び込んできた。


「うぁぁぁぁぁ!!!!!」


「いやぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


 クチャ ペチャ


 豚が次々と何かを発するたびに逃げていたエルフたちが豚の元へ飛んでいく。


 どんなに抵抗して物にしがみついても、魔法で地面と自分をくくりつけても最後には豚たちのもとに飛んでいき食べられてしまう。


 実は巨人豚が発していたのはエルフたちの名前だった。食材の名前が見える目をもっており、名前を呼ぶだけで逃げた食材たちは豚の元へ強制的に帰ってくる。


「いやだぁぁ!! やめてくれ!!」


 悲痛な叫びをあげまた一体のエルフが豚に食われた。


 この地獄にいる限り、食材たちは豚の一言で手元に戻ってきてしまう。


 あまりにも無残な光景に瓶の中に種族ごとに入れられた者たちは言葉を失い気絶する者がいた。


 平和をむさぼり堕落してジャンヌを陥れた愚か者たちの調理は始まったばかりだった。


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