第47話 続・悪役令嬢、やってみました。

 私のファースト悪役ムーブが決まった後、微妙な空気漂う教室へと1組の担当教員が現れ、教卓の前に立つと私達を見回しながら話し始めました。


「全員そろっておりますかな?」


(うん、担当教員はゲームの通り・・・って、生で見ると更にイケおじですわね)


 余り男性に興味はないですが、それを置いておいてもカッコイイと思ってしまう担当教員を見ながら色々考えていたのですが、続きを話し始めたので集中する事にします。


「先ず、私の自己紹介をしましょう。私はこの1組の担当となりましたシフロート・ド・マニュエルと申します。選択授業では『実践魔法』を受け持っておりますぞ。この先長い付き合いになる方もいると思いますので、どうぞよろしくお願いします」


 自己紹介をした後に如何にも紳士といったお辞儀をしたのが、ゲームで毎度お世話になる教員のシフロート先生、ロマンスのプレイヤーからは『チュートリアルおじさん』や『イケおじ紳士』とも呼ばれる人です。

 そんな呼ばれ方をしているだけは有り、ロマンスでのシステムのあれこれを教えてくれたりするので、初回のプレイヤーには大変ありがたい存在です。

 しかも、普通はそういうキャラだと周回プレイ時には不要な存在になり会話等もスキップとかしてしまうのですが、シフロート先生は無駄にグラフィックとボイスが良く、更には初期のお助けユニットキャラとなっているので腐りにくいキャラクターなのです。


「さて、私の自己紹介が終わったところで、次は貴方達の自己紹介を軽くで良いのでお願いします」


 シフロート先生は自己紹介が終わると、次は私達に軽い自己紹介をしてくださいと振ってきました。

 これも原作にあったもので、私にとっては第2の悪役ムーブポイントです。・・・といっても先程の様なものでなく、かるーくですが。


「それでは先ずグウェル殿下、お願いできますかな?」


「解りました」


 日本だと出席番号順とかになりますが、この世界は身分制がある世界。学園内という事で一応実家の権力を振りかざさない事とはなっているのですが、そうはいっても色々気を遣う部分があるのです。


「グウェル・フォン・ファースタットだ。そうだな・・・趣味は・・・・・・」


 話を振られたグウェル殿下は軽く趣味や興味がある事、これから学園で学んでいきたい事等を話し、それが終わると全員から拍手が送られました。

 シフロート先生はその後、グウェル殿下の左右に居た護衛に自己紹介を促し、自己紹介を促された2人もグウェル殿下と同じような感じで無難に自己紹介を終えました。


「では次は・・・」


 シフロート先生はその次に自己紹介する人を指名しようとしましたが、ここで教室の生徒側の方達は皆、私に振るんだろうなと思った筈です。そして恐らくそれは本来の私も思った事でしょう。


 ですがシフロート先生が指名したのは私ではなく・・・


「イリスさん、お願いできますかな?」


 主人公である平民のイリス・ウェンディゴブルーでした。


(ふふ・・・皆さんちょっとざわついていますわね、解りますわよ?・・・っと、不機嫌な振り不機嫌な振り・・・)


 結果は知っていたし、別に自己紹介の順番位どうでもいい私ですが、後に繋がる悪役ムーブとして不機嫌そうなふりをします。

 それを受けて私のチンピラちゃん達も不機嫌そうになりますが、それを受けても怯まないシフロート先生がフォローを入れます。


「イリスさんはある方の特別推薦でしてな、入試成績も殿下と並ぶほぼトップクラスです。っと、私が紹介してもあれですな、イリスさんお願いしますね?」


 シフロート先生がわざわざそうやって紹介したので、場を読む貴族としては引かざるを得ないので、私は不機嫌そうな振りを止めます。


(成功ですわね。・・・さぁて、これが終わったらもう一仕事ですのね。やれやれですわ)


 ワザとする悪役ムーブは疲れますわーと心の中でだけため息を吐き、私は主人公の自己紹介を大人しく聞く事にします。


「は・・・はい!私はイリス・ウェンディゴブルーって言います!正直自分を推薦してくれた方がどなたか解らないのですが、有り難い事です!えっと、その、私は本を読むのが好きで・・・・・・・」


(へぇー、自由に喋る主人公だとこんな感じですのね?新鮮ですわぁ・・・)


 私は主人公の自己紹介を聞きながら感動していました。

 それはと言うのも、ロマンスの主人公であるイリスは恐らくプレイヤーがより主人公に感情移入できるようにしているのか、本来そこまで会話文が無いのです。

 ちょっと詳しく説明すると、こういうADV形式のゲームの主人公には大きく分けると2パターンの表現方法があり、1つは他のキャラ同様普通に喋りまくるパターン、もう1つは会話が大体選択肢になっているパターンです。

 ロマンスの主人公イリスは後者のパターンになっており、ゲームだと普通にペラペラと喋ったりはしないので、今の様に喋る主人公を見るのは新鮮さがありました。


(ふーん、へぇー、成程その店のパンが好物ですのね。メモっておきましょう)


 イリスの歴戦ストーカーもとい、歴戦プレイヤーである私としては生のイリスの情報が知れたので嬉しく思い、持っていたノートに話をメモしていきました。

 しかし話は軽い自己紹介だったので直ぐに終わり、残念ですわぁ・・・とちょっとテンションダウンしていたのですが、シフロート先生の言葉を聞いて出番を思い出し、気を引き締めました。


「では次、マシェリー嬢お願いできますかな?」


「解りましたわ」


 シフロート先生に指名されたので私は立ち上がり、ゲームで話していたままの自己紹介をします。


「私はマシェリー・フォン・オーウェルスですわ。そちらにいらっしゃるグウェル殿下とは婚約関係にありますのよ?ですので私の事は姫と呼んでもよくってよ?そうね、後紹介する事と言えば・・・あぁ、私が好きな宝飾品のブランドは・・・・・・」


 別に宝飾品の好きなブランドとかはありませんが、取りあえずゲームであった会話通りに自己紹介を進めます。

 そして話し終わると、ジロリとイリスの方を最後に見てから席へと腰を下ろします。


(上出来ではなくて?)


 着席した後に教室の様子を伺いますが考えていた通りの雰囲気になっていたので、私としては大満足です。


「ありがとうございますマシェリー嬢。では次、マルシア嬢よろしいですかな?」


「はい。私は・・・・・・・・」


 内心ではどう思っているのか解りませんが、シフロート先生は私に笑顔で礼を言ってから次の人物へ自己紹介を促します。いかなる人物にも丁寧に接する、流石はイケおじ紳士といった所でしょう。


 そんなこんなで自己紹介は続き、最後の人物が終わるとこれからの学園生活のオリエンテーションが始まりました。

 教科書の受け取り方法だったり、学園の施設紹介、これからの行事説明等です。

 これらはゲーム時にはなかった説明の為、私は一応メモを取っていきます。


 それらは休憩をはさみつつも昼まで続き、12時を知らせる鐘が鳴った事で漸く終了となりました。


「丁度終わりましたね。それでは今日はここまでとなります。明日からはいよいよ授業が開始されますので頑張っていきましょう」


 シフロート先生はそう締めくくり教室を出ていきましたが、私の締めはまだ残っていたので早速それを行う事にしました。


 グウェル殿下が教室を出て言った事を確認すると私は立ち上がり、帰る準備をしていた主人公の元へと近寄り目の前に立つと、彼女に扇子を突き付けながら言います。


「貴女・・・あんまり調子に乗ってるとどうなるか解ってますわよね?」


「え・・・?」


 突然そんな事を言われた主人公は困惑していた様でしたが、私はそれだけ言うとノワールたちを引き連れて教室を出ていきました。



 教室から出ると、本日のミッションをコンプリートしたことによりスキップでもしたい気分に襲われましたが、そこは我慢をし、私達は昼食を取る為に部屋へと戻りました。



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 マシェリーより:お読みいただきありがとうございますわ。

 「面白い」「続きが読みたい」「悪役令嬢ムーブが決まったぁぁ!」等思ったら、☆で高評価や♡で応援してくだされば幸いですわ。

 ☆や♡がもらえると 魔王ムーブも決めていきますわ。


 マシェリーの一口メモ

 【今回出て来たシフロート先生ですが、結構お歳をめしたイケおじですわ。この方は何と、結構珍しい光魔法が使えるお方ですのよ?】

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