第5話 天啓?

 カリカリ、カリカリとわたくしは紙に数字を書きます。


 それは簡単な数式で、成人男性の記憶が混じる前でも簡単に解けていたモノでした。


 私は気楽に紙へ数式を書き綴っていたのですが、それは横で見ていた人の声により終わりを迎えます。


「マシェリー様、一度止めてもらってもよろしかったでしょうか?」


「ええ、解りましたわ先生」


「あ・・・ありがとうございます。それでは拝見いたします」


 横で見ていた家庭教師の女性『アリス・ド・ヒューエルバーグ』先生は、私が丁寧に返事をすると一瞬驚いていました。

 ですがこれは仕方ありません、何故なら昨日までの私とは対応が全く違うのですから。


「全問正解でございますマシェリー様。流石です」


 昨日までの私・・・あの両親のおかげで順調に悪役令嬢の道を上っていたマシェリーならこういう場合、『当たり前ですわ。あなた私を侮辱していますの?』等と、とても上から目線で返していたでしょう。

 しかし早乙女玲としての記憶もある今なら・・・


「ありがたく存じますわ先生、これも先生に教えてもらっているお陰ですわね」


 と、こういう風に謙虚な姿勢で感謝を伝えれます。


「は・・・はい!いいえ!滅相もございませんマシェリー様!」


(あれぇぇ?謙虚に感謝を伝えたつもりなのに、先生が何故か私に向けてお辞儀しながら謝ってますわぁぁぁ!?)


「決して悪気があって言った言葉ではないんです!どうかご容赦をマシェリー様!」


 これは恐らく・・・今までの態度が原因でしょう。

 昨日までブイブイ言わせてイキっていた不良が、次の日あったら凄く従順な優良児に変わっていた、こんな感じでしょうか?


 私は昨日転生して来て生まれ変わったのですが、そんな事を知らない先生はそりゃあ怖いでしょうね・・・失念していました。

 私は頭を下げたままの先生に話しかけます。


「・・・アリス先生、頭をお上げくださって?」


「やはりお怒りなのですか!?申し訳ありません!!」


「え・・・!?ち・・・違いますわアリス先生!わ・・・私は・・・そう!人格ぅ・・・ではなく!・・・心!心を入れ替えましたの」


「へ?」


 私がそう言うとアリス先生はチラリと私の顔を見てきましたが、その顔には疑心がありありと見て取れました。


「え・・・えーっとその・・・そう!天啓!天啓を受けましたの私!」


「て・・・天啓ですか?」


「ええ!天啓ですわ!」


 成人男性が転生してマシェリーの体を乗っ取りましたー、と言われても困るでしょうし100%信じられないでしょう。ならばどうするとなった時に閃いたのが天啓でした!

 まぁ天啓も胡散臭さマックスですが、これでごり押すしかありません!


「急にフッと降りてきましたの!汝はこのままだと破滅する、悔い改めよ、と!私はその天啓を信じたので悔い改める事にしましたの!」


「は・・・はぁ?」


「あの感じは絶対神様でしたわ!間違いありませんの!それで私は今までの自分を見つめ直し、悪いところを直していこうと思ったのですわ!だから今の言葉も裏の意味などなく、本当にそのままの意味で感謝をしていたのですわ!」


 それでもアリス先生は訝しんで信じていなさそうでしたが、私は根気強く説得を続けました。その結果、なんとか信じてもらえました。


「成程・・・天啓で御座いますか・・・。流石はマシェリー様と言ったところなんでしょうか」


「はい、そういう訳で何の意図もないので、そのまま感謝を受け取ってくださいまし」


「解りました・・・ありがとうございますマシェリー様」


 まだ少し疑っている感じはしますが、まぁいいでしょう。・・・というか、自分で言っておいてなんですが、天啓とか言われて完全に信じられても少し怖いモノがありますからね、これで良かったのです。


 私が一人でうんうんと頷いていると、アリス先生は立ち上がり再びお辞儀をしました。


「それではマシェリー様、本日は此処までといたします」


「はい。本日は大変ありがたく存じました」


 私も立ち上がり優雅に礼を返します。するとアリス先生は自分の持ち物を纏めてやや足早に部屋を退出しました。


「ふぅ・・・これで今日の予定はおしまいですわね」


「いいえ、昼食後トリム家、マルドール家、キーピス家の方とお茶会の予定がございます」


「えぇ・・・そうでしたわね・・・」


 一晩経ったらお茶会が無くなっていたという事はやはりありませんでしたわ・・・はぁ・・・


 私は机の上をのそのそと動きながら片付け、昼食を取る為に食堂へと向かいました・・・はぁ・・・


 ・

 ・

 ・


 時刻はもうすぐ14時、そろそろ到着する頃ですわね。

 テンション低くそんな事を考えていると、噂をすれば何とやら、部屋の扉がノックされました。それを受けノワールを見ると、ノワールもこちらを見て頷き扉の方へ向かいました。

 そしてノックをしてきた使用人と何事かを喋り終えると、私の方へと戻って来て報告をしてきました。


「お嬢様、マルドール家の方がお見えになられたそうです」


「そう、なら庭園へ向かいましょうか」


「かしこまりました」


 やはり先程の知らせは、お茶会に招いたお客様の到着を知らせるモノだった様です。気は乗りませんが出迎えなければいけませんので、お茶会の舞台となる庭園へと移動する事にします。


 私は先導するノワールの後に続き庭園へと向かいました。


 無駄に広い屋敷を暫く歩き庭園へと着くと、そこにはすでに粗方用意されたテーブルとイスがあり、近くへ寄ったタイミングで庭園の向こうから家の使用人が声をかけてきました。


「マルドール家の方をご案内しました」


「ご苦労様、下がっていいですわ」


「はい、失礼いたしました」


 案内して来た使用人に下がるよう言うと、代わりに1人の少女と2人のメイドが前に出てきて挨拶をしてきました。


「本日はお招きいただきありがとうございますマシェリー様」


 少女がそう言ってカーテシー(貴族の挨拶みたいなもの)をすると、後ろのメイドもそれに合わせてお辞儀して来ました。


「本日はご招待をお受けいただきありがたく存じますわサマンサ様」


 私もカーテシーをして返すと席へ座るように促します。



 そうしているうちに残り2人の招待客も現われたので先程と同じように挨拶を繰り返し、いよいよお茶会が始まりました。



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 マシェリーより:お読みいただきありがとうございますわ。

 「面白い」「続きが読みたい」「どんなお茶会が始まるんですの・・・(ゴクリ」等思ったら、☆で高評価や♡で応援してくだされば幸いですわ。

 ☆や♡がもらえると お茶会が、ドキッ☆お嬢様だらけのお茶会♪になりますわ!


 マシェリーの一口メモ

 【〇〇・フォン・〇〇や○○・ド・○○はゲーム製作陣の方々が付けたので適当ですわ。設定としては王・公・候の上位が『フォン』、伯の中位が『ド』、子・男の下位が『ラ』、士の最下位が『ル』となっておりますわ。】

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