第4話 オーウェルス家

 時は少しだけ進み夕食後、俺は魔道具の光に照らされた自室でため息を吐いていた。


「はぁ~・・・」


「どうなさいましたお嬢様?」


「それは・・・いや、何でもない」


「そうでございますか?」


 本当はあるのだが、それをノワールに言ってもどうにもならないしどうする事も出来まい。


(ゲームで知ってたけど・・・やっぱどうにもならないなあの両親・・・)


 俺が考えていたのはマシェリーの両親、オーウェルス家の現当主『クォース・フォン・オーウェルス』とその妻『キャスアナ・フォン・オーウェルス』の事だ。

 この2人は将来悪役令嬢になるマシェリーの親だけあって、夕食時に少し接しただけでも解る良くない人達であった。


(あの両親の元で育ったなら、そりゃマシェリーも悪役令嬢になるわ。寧ろならいでか!・・・まぁ貴族的と言えば貴族的なのかもしれないけどさ)


 マシェリーの両親は悪役貴族にありがちな性格をしていた。

 強き者にはおもねり弱き者には鞭を振るう。プライド高く傲慢で、何かあればすぐに権力を使いどうにかしようとする。

 ゲームの製作陣が考えた設定ではあるのだが、まさにザ・悪人という感じだった。


 そして実際に接して見たり、ノワールや他のメイド達から情報を収集して思ったのだが、マシェリーは主人公と絡まずともその内破滅していたのかもしれない。


(まさかそんな設定があったとはねぇ・・・。いや、設定と言うか現実になったから見えて来た真実?)


 実はオーウェルス家が悪役貴族になったのはここ最近の事らしく、マシェリーの祖父・・・前当主がオーウェルス家を収めていた時は、平民にも慕われる善良な貴族だったらしい。

 しかし4,5年前に前当主が亡くなり現当主に変わってからは一転、他の悪い噂がある貴族家とつるんだり平民を虐げたりと、途端に評判の悪い貴族家になった。

 これはどうもオーウェルス公爵家の上・・・王族にも評判が届いているらしく、ずっとこのままなら何かあるのでは?というのが情報を収集した末に見えて来た真実である。


(まぁ原作中ではまだまだオーウェルス家に権力があったみたいだから、とりあえずそれまでは何もないんだろうけどな。けど仮に俺が破滅せずに原作を越えたとしたら、超えた途端に国から通達があってオーウェルス家取り潰しっていうのは十分あり得る)


 俺が魔王になると決めた時はこの事を知らなかったが、このような事情ならば余計に魔王を目指すべきである。


(魔王は魔王で命の危険が無いわけではないんだけどさ、流石にこのまま行くよりかはな・・・)


 ロマンスの魔王は乙女ゲームだけあってファンタジー系の魔王とは少し違う。確かにロマンスのお話でも、魔物を操り人々を苦しめ「人間を滅ぼすのだ!」と言うのはあるが、実際のロマンスにいる魔王は隔絶した力を持つ王様という感じだ。

 魔王が治める国だからと周りの国から攻められたり、魔王さえ落とせば国が手に入ると狙われたりもするが、『悪役令嬢として破滅or悪役貴族として破滅』よりはいいだろう。


「まぁそんなわけで、やっぱり俺は魔王を目指しますよっと・・・」


「お嬢様・・・」


 ぽつりと呟いたのを聞いたのか、ノワールが神妙そうな顔をしてコクリと頷いた。俺の呟きを聞き、ようやく本当に魔王を目指していると理解してくれたのだろうか?


「お嬢様・・・また言葉遣いが・・・」


 はい、違いました。


 俺はそれから寝るまでの間ノワールに懇々と言葉遣いの指導をされ、気が付いたら眠りについていた。


 ・

 ・

 ・


 その夜俺は夢を見た。


 それは懐かしい記憶で、俺の昔の記憶が次々と映し出される。


 学校や友達、ゲームや遊び、色々な事が映し出され、やがてそれは唐突に切り替わる。


 切り替わった記憶に映し出されたのは・・・恐らくマシェリーの記憶。


 それは物心ついた時から現在までの出来事や心情で、次々と色んな事が映し出されて・・・


 ・

 ・

 ・


「・・・おはようですのノワール」


「おはようございますお嬢様」


 俺・・・いえ、わたくしはいつも通り、いつから居たのかベッド傍に控えていたノワールに挨拶をし、ベッド脇に準備されていた温ま湯が入った桶で顔を洗いました。

 顔を洗うとスッとノワールが差し出してきたタオルを受け取り顔を拭き、続いて差し出された歯ブラシで歯を磨きます。


 それが終わり立ち上がるとノワールがササッと私の服を着替えさせ、アイテムボックスから台座付き鏡と椅子を取り出しそこへ私を座らせました。


 私は何も言わずそこへ座ると、ノワールがササッと身だしなみを整えてくれます。


「完了いたしましたお嬢様」


「ええ、ありがとうですのノワール」


「滅相もございませんお嬢様。こちらこそ礼の言葉を頂きありがとうございます。それとお嬢様、言葉遣いも寝る前と違い問題なくなっておりますね」


 私はノワールになんとなく礼を言ったのですが・・・そういえば今まではしていませんでしたね。

 これはきっと・・・早乙女玲とマシェリーが混ざり合った結果なのでしょう。


 私は昨日夢を見ました。

 それは早乙女玲とマシェリー・フォン・オーウェルス、2人の記憶が映し出された夢。

 最初は片方づつ見ていた夢は途中から交互になり、やがて2人分の記憶が入れ代わり立ち代わりに映し出され・・・やがて混ざり合いました。

 だからなのでしょうか、今の私は早乙女玲、マシェリー、そのどちらでもなくどちらでもあります。

 意識は溶け合い一つになり、物事はマシェリーより深く考えられ玲より柔軟な考えが出来る、そんないいとこどりとも感じられるものになりました。


「これで・・・」


(これで、より一層魔王に成れる可能性が増えたかもしれません)


「何かおっしゃいましたかお嬢様?」


「いいえ、なんでもありませんわ」


 うっかりと呟きが漏れてしまいました。成人男性と少女のハイブリットになり、イイトコ取りになったとはいえ・・・まぁこういう事はあります。

 というか、この組み合わせハイブリットなのでしょうか?今となっては戻れない日本だと犯罪臭が・・・いけませんね、これ以上はいけません。


「ノワール、今日の予定はどうなっておりますの?」


 私は危険な思考を切り替える為に今日の予定をノワールへと尋ねました。

 ノワールは使用人兼護衛なので、秘書みたいな役目も持っています。だから私のスケジュールも全て把握している為尋ねたのですが・・・尋ねなければよかったです。

 まぁ聞かなかったところで結果は一緒なのですが・・・


「はい、本日のご予定は9時から12時まで勉学、14時から当家の庭園にてお茶会のご予定でございます」


「お・・・お茶会ですか・・・」


 マシェリーの記憶も混じった為お茶会の作法は大丈夫なのですが、いまの私は玲・・・成人男性の記憶がまざり、思考が大分大人よりとも言えます。

 そんな私が貴族令嬢の嗜み、お茶会で若い娘とキャッキャウフフですか。



 それって何て苦行ですか?



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