45 チビ助先生は産業革命を推し進める
俺とは別行動で、宮廷魔法使いたちとつるんでいるチビ助。
そんなチビ助と、今回話し合っている。
「我々の目標は、千年前の偉大な祖国を、再びこの時代に再興することにある」
「オーッ」
チビ助の目的はそこにあるので、俺もそれに乗っかって行動していくのは決定事項だ。
その途上で、沢山血が流れることになるだろうから、俺としてはチビ助の考え通りに動いていくことに、まったく異論ない。
「そのために、我々のいるザルツブルク王国を強化していく必要がある。
だが、現状この国では、同じ国の貴族同士でも、領地を巡って決闘ごっこというくだらん遊びをしている。
王家の権力が弱すぎるせいで、国内貴族の統制が取れていないせいだ」
「そうだな、見せしめに貴族を街ごと何人か消すか?」
「まだ早い。いずれやるのは確定だが、我々も準備が必要だ」
「ふーん」
今の俺とチビ助だけでも、貴族のいる街を破壊できる。
だが、考えるのはチビ助の担当だ。
俺よりチビ助の方が、頭がいいからな。
「我々としては王家に権力を集中させ、中央集権体制を確立させる必要がある。
そのためには王の元に力があることを示す必要があり、軍事力が必要となる」
「そのために、兵隊を作っているよな」
俺が現在歩兵部隊を訓練中で、チビ助も砲兵を作っている。
俺たちの祖国は皇帝陛下を頂点にした帝政国家だったが、同時に強力な軍隊によって統制を取る、軍事国家でもあった。
なので、王の権力の元に強力な軍隊が存在するのは、まったく不思議な事でない。
「でも、今作っている兵隊だけじゃ、数が全然足りないぞ?」
「分かっている。強力な軍事力が必要であるが、そのためには軍事力を支えるための生産力が必要になる」
「お、おうっ」
チビ助が、難しいことを話し出した。
祖国でも、強力な軍隊を有していたが、そのために大量の工場も抱えていた。
民生品の生産もしていたが、軍需工場では武器弾薬に戦車などを生産し、それが軍隊の原動力になっていた。
民需用工場でも、軍服や、兵隊の食料になる缶詰を作っていたので、軍隊と無縁でない。
「だが高い生産性を得るためには、手始めに蒸気機関を作り出し、産業革命を推し進める必要がある。
本当は内燃機関を作りたいが、石油を手に入れる目途がないので蒸気機関だ」
「う、うん!?」
「こちらに関しては、巨大魔力結晶を熱源にした、蒸気機関の試作機をひとつ用意した。
ただ、巨大魔力結晶を動かすには、魔法使いが何人も必要になるので、将来的には石炭を燃やす蒸気機関に切り替えるつもりだ」
「……」
チビ助先生が、物凄く嬉しそうに話している。
だが、俺はついて行くのが難しくなってきた。
巨大魔力結晶は、魔法現象を起こすことができる道具なので、それを使って熱を作り出せるのは分かる。
応用次第では、石炭や石油の代わりに、燃料にすることができる。
ただし、魔法使いはそれなりに貴重な存在なので、巨大魔力結晶と魔法使いを大量に用意して、大量生産・大量消費の現場で使うのに向いていない。
「ところで、紡績機を1台用意したのだが、非常に面白いぞ。機械を使って糸を作るだけで、金貨が百枚、千枚の単位で動くようになった。
ククク、”連合王国”では産業革命時代に、紡績業にやたら力を入れていたが、その理由が今の私にもよく分かるぞ」
チビ助先生、難しすぎるぞ。
連合王国というのは、千年以上前、俺たちの祖国が存在した時代にあった、大国の一つだ。
あの国は世界初の蒸気機関を作り上げ、紡績機を作り出し、それを使って紡績業を行って大量の富を得ていた。
俺たちが生まれた頃には、半分歴史上の話に成り下がっていたが、それでも連合王国は植民地相手に紡績業で荒稼ぎをし、連合王国の莫大な富の一部となっていた。
この千年後の世界には、蒸気機関も紡績機も存在しないようで、糸や生地、服の値段がバカみたいに高い。
街にいるときに値段を見て驚いたが、糸や生地ひとつで、当たり前のように銀貨が飛んで行く。
新品の服になると、1着で金貨が何枚、何十枚も飛んで行く、とんでもなく高価な品になっていた。
それを考えれば、紡績機があれば、荒稼ぎができるのも分からないでもない。
紡績機があれば、人の手で作るよりも早く大量に、糸と生地を作り出すことができる。
ただ、少し不安になってしまう。
「チビ助、金儲けが目的になってないよな?」
俺たちの目的は、結局は大量殺戮をすることで、祖国再建なんてのは建前でしかない。
チビ助の場合、俺より本気かもしれないが、俺にとってはただの建前だ。
建前すらなく大量殺戮をすれば、ただの犯罪者扱いされて、追われることになるからな。
「安心しろ、私も戦友と同じで、目的は同じところにある。
集めた金も、戦友が行っている歩兵訓練の為に使っているぞ。
むろん、それ以外にも必要な研究資金として蓄えているがな」
悪い顔をして笑うチビ助。
「そっか、なら安心だ」
目的が同じならば、これからも俺はチビ助と一緒に、仲良くやっていくことができる。
大戦で散々やらかした俺たちなので、今更他の生き方をしろと言われてもできない。
「さて、話がズレてしまったが、産業革命を進めていき、いずれは製鉄業に手を出すことで、本格的な軍需物資の生産をする予定だ」
「鉄を作れるようになれば、ライフルに銃弾も作れるようになるな」
「それどころか、ゆくゆくは野戦砲に戦車すら作り出してみせよう。
地下秘密基地の物資とて、無限にあるわけではないからな」
「おおっ!」
俺の知っている大戦時代の兵器の数々。
それをこの時代で作れるようになれば、これ以上なく夢が広がる。
敵味方共に、大量の屍を築き上げる時代が、再び戻ってくるだろう。
俺の心は、ワクワクが止まらなくなる。
この時代に目覚めてからと言うもの、あの時代みたいに大量に人を殺してないので、チビ助のする話に興奮してしまう。
こうして夢を語っている時の興奮ってのは、やっぱりいいよな。
もちろん夢が現実になると、もっと嬉しい。
「だが、産業を支えるためには大量の人間が必要になる」
「お、おうっ!?」
俺たちの理想とする時代が、再び来る。
そう思ってワクワクしていたら、またしても話の方向が違う感じになった。
俺のテンションが、微妙に落ちてしまう。
「産業に関わる人間を増やすためには、出産を促す必要がある。
だが、この国では農機具に、鉄製品すら認めていない有様だ。
農民の反乱が怖いために鉄製農具を認めていないとのことだが、そんな状況では、いつまでたっても農業生産が低いままだ。
農業生産の効率を高め、それによって農業に関わる人口比率を減らす必要がある。
また、農業生産が増えれば、自然と出産が増えて人口が増加するので……」
この後、チビ助先生の話が続いていった。
既に農薬の研究にも手を出していて、農村の一つで近代農業の実験にも入っているとか話されたが、もう俺の頭は一杯で何も入ってこない。
俺たちは、いずれ大戦争を起こすつもりなのに、なんで農薬なんて作ってるんだ?
「……と、とにかく、チビ助は戦争のために、毎日頑張っているってことだな」
「当たり前だ。祖国再建のために、ザルツブルク王国には強大な国家になってもらわねばならん!」
「オ、オーッ。それじゃあ、明日からも頑張ろう」
「フフフ、そうだな。戦友もぜひとも頑張ってくれたまえ」
頭痛ぇ。
ただ、チビ助は俺と同じ目的に向かって進んでいる。
それが分かれば十分だ。
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