43 問題児たち

 1歩の歩幅を正確に30センチにする行軍訓練に、シャベルを使った塹壕陣地の構築。


 歩兵として必要な訓練をしていたら、問題発生が発生した。




「こんな訓練、もうやってらんねえ。お前なんて撃ち殺してやる!」


 100人の訓練生と共に、軍部から回してもらった6人の騎士にも訓練を施していたが、赤髪がキレて、俺にライフルの銃口を突き付けてきた。


「いいぞ、一度だけなら殺さないでやる。だからさっさと撃て」


「野郎、ぶっ殺してやる。俺は本気だからな!」


「だったら早く撃て」


 まどろっこしいことに、赤髪は吠えるものの、未だにライフルを撃たない。

 人殺しをしたことがないのだろうか?

 ないんだろうな。


 それとも、俺を撃つ気がないだけか。



「いつまで待たせるつもりだ。そんなへっぴり腰じゃ、撃った反動で……」


 バンッ!


 発射音がして、ライフル弾が発射された。


 ただし撃った反動で、赤髪はそのまま後ろに吹き飛ぶ。


「イツツ、や、やってやった。俺は、やったぞ!」


 吹き飛んだ後、頭を振って自分の意識を繋ぎとめる赤髪。

 そうして撃った俺の方を見るが、当然俺は無傷で、怪我一つしていない。


 俺には現代魔法モデムによる防殻があるので、ライフル弾なら防ぐことができる。


「な、なんでだよ!ライフルはオークでも殺せるのに、なんで死なないんだよ!」


 バカなことを言っている赤髪を殴りつけ、地面に蹴り飛ばす。


「衛兵、このバカを懲罰房送りにしろ。3日間監禁の上、飯抜きだ」


「りょ、了解しました!」


 衛兵が即座に駆けつけて、赤髪を拘束した。


 本来なら上官犯行罪で銃殺刑だが、今は訓練性なので一度だけ見逃そう。


 俺に銃弾が効かないと分かったから、次からはもっと大人しくなるだろう。





 ただし、問題はこれだけではない。


「こんなのは騎士として間違っている。

 騎士とは正々堂々の戦いを行うもの。

 こんな飛び道具で、戦うのは卑怯だ!」


「お前、バカか!?」


 赤髪の次は、青髪のバカがそんなことを宣った。


「バカとは何ですか?騎士とは誉ある戦士であり、敵と一対一の堂々たる決闘をすることこそが務め。それなのに、飛び道具で……」


「アホか、決闘ごっこなんてして何の役に立つ。戦場で兵士がやることは、上の命令に従って敵を殺すこと。

 戦場ではるかられるかだ。

 そこに卑怯も卑劣もあるか。生きているか死んだかの結果があるだけだ」


「いいえ、例え死ぬことになったとしても、私は騎士として高潔に……フゴッ」


 あまりにも能天気な青髪を、殴りつけた。

 なお、俺は高位の魔法使いで、魔法使いは常人に比べて身体能力が高い。


 殴れば青髪が吹っ飛んで、そのまま地面の上をゴロゴロと転がっていく。


「決闘ごっこしかできない、マネキン人形騎士が御託を並べるな。

 死がどうとか抜かしているが、今から半殺しにしてやる。

 それでもアホな御託を並べられるなら、並べてみろ」


「クッ、私はこんな卑怯者には負けない!

 ウオオオーーッ、ゲフォッ!」


 青髪は健気にも格闘戦を挑んできたが、面倒なので足払いして地面に転ばす。

 その後青髪の腹を蹴りつけ、足で踏みにじる。


「ほら、どうした?騎士様のご立派な演説はもうしないのか?」


「ゲホッ、ゴホッ、や、止めて……」


「ああん?聞こえねえな。威勢ばかりよくて、弱っちいザコが喚くんじゃねえ」


「ギャア、アギャッ!」


 しばらく蹴ったら、青髪が気絶してしまった。

 騎士様だから、もう少し格闘戦もできていい気がするが、弱すぎる。


「衛兵、このバカも懲罰房送りだ。3日間の飯抜き。ただし、懲罰房に送る前に軍医に見せておけ」


「りょ、了解しました」


 3人の衛兵が大慌てで駆けつけ、青髪を担架に乗せて連れて行く。




「あいつらバカだよな。閣下相手に戦いを挑むなんて」


「そうだそうだ。あいつら騎士だからって、変にプライドが高すぎるんだよ」


「ボコられていいざまだな、ケケケッ」


 なお、一連の様子を見ていた100人の訓練生たち。

 彼らは一番上の立場でも、王都の衛兵にしかなれず、多くは就職に失敗した末端貴族の3男以下の連中だ。

 現役の騎士よりプライドがないからか、彼らの方が大人しく訓練についてきた。





 ところで、問題その3がある。


「閣下のお力に、心の底より心服しております。

 どうか私の体を好きなようにしてください」


 ザビーネ・クラウゼ。

 お色気を振りまく女騎士だが、こいつが夜に俺の部屋を訪ねてきた。


「好きなようにしていい?じゃあ、こういうのはどうだ?」


「まあ、いきなり大胆っ」


 褐色の肌に豊満な胸をしているので、遠慮なく服の上から胸を掴んでやった。

 そのまま揉んでやるが、わざと力を強くしてイジメる。


「ンンッ、イタイですわ。閣下は乱暴ですわね」


「当然だろう。甘ちゃんな将軍閣下なんて、何の役に立つ」


「キャアッ!」


 部屋の中に連れ込んで、ベッドの上に押し倒してやれば悲鳴まで上げた。


 ただし、お色気騎士は期待のこもった目で、俺の方を見てくる。

 普通の男だったら、欲情を抑えきれなくなって、そのまま倒しにかかるだろう。


 だけど、俺には全然興奮する要素がない。

 昔、女に心臓を刺されたり、あそこを切られそうになったせいで、全然興奮できない体になってしまった。


 俺はため息をついて、近くにある椅子に座った。



 そしてお色気騎士を、ジッと見る。


「閣下、どうして早くしてくださらないのです?」


「する気がないからだ」


「なっ!」


 いい雰囲気を出しておいて、いきなりのお預け。

 その状況に、お色気騎士の顔が強張る。


 かわりに俺は、説教を始める。


「お前さん、女で騎士なんてやっているから分かっているだろうが、戦場では女は真っ先に狙われるぞ。

 殺されるか、犯されてから殺されるか。

 それが分かっていて、騎士になっているんだよな?」


「当たり前です」


 大戦時代に女の兵士なんていたら、真っ先に殺されるか、犯されるかだ。

 それも犯してくる相手は敵の兵士でなく、味方の兵士だ。


 軍隊は男集団の社会なので、特殊な例外がない限り女がいない。

 軍隊生活で男たちは常に女に飢えているので、近くに女がいれば、見境なく襲い掛かる。

 特に戦場ではいつ命がなくなるか分からないので、生存本能が強烈に刺激されて、普段以上に押さえが効かなくなる。


 俺たちが居た時代とは違うが、この時代においても女が騎士をするからには、そう言った状況が常に付きまとうだろう。



「男にいちいち媚びるな。

 女としての武器を使いたいなら、貴族相手に体を売るなり、商館にでも行って働け。

 戦場で役に立たん女などいらん」


「……屈辱ですわ。ベッドの上にまで連れ込まれて、まさか説教されるだなんて」


「俺にとって、お前はその程度なんだよ」


「クッ……」


 その後お色気騎士は、俺の部屋から走り去って出て行った。




 後日、背後から刺されないように、気を付けおかないとな。

 心臓を刺されても、大賢者グランドマスターである俺は死なないが、女に2度も刺されたとあっては、沽券に関わるからな。





 とまあ、軍部から寄こされた連中は、こんな感じで問題児のオンパレードだ。



「太陽の光が心地よいですなー」


 なお、爺さん騎士のオイゲン・シュルツは、最初から役に立たないのが分かっているので、日中はその辺で日向ぼっこさせて放置している。

 飯の時間にはちゃんと帰ってくるので、問題ない。



「閣下、どうぞお茶です」


「ありがと」


 ついでに役立たずその2である、ガキ騎士カミル・クラインだが、こちらは俺の従卒として、身の回りの世話をやらせている。


 12歳の子供を兵士として訓練しても、周りの足を引っ張るだけ。


 なので従卒として使ってやることにした。


 いつまで俺の傍にいるか分からないが、3年後もいるなら、その時に兵士として訓練してやればいいだろう。




 カリカリカリ。


 あと、黄色髪のペーター・ノイマン。

 こいつは書類に向かって、事務仕事をしている。


 訓練生100人の所帯ともなれば、物資が数多く必要になり、金銭の管理もしなければならない。

 訓練に使う弾薬の管理も必要だ。


 数字に強い人間が必要だが、黄色髪は母方が商人の家系とかで、事務仕事に向いていた。

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