36 アルヴィス・ガイスターと師匠
俺は、数多くの魔法使いが集まり、日夜魔導の深淵を探求せんとする、大賢者の塔と呼ばれる場所で生まれた。
生まれながらにして、
赤ん坊の時から、魔導王の直弟子としての英才教育を受け、物心つく前には
魔法使いの魔力は、人が死ぬ場所にいることで、より強さを増していく。
高位魔法使いは、人を殺すことができなければ、さらなる高みへ上がることができないから、殺しを覚えさせるそうだ。
「よいか、高位魔法使いが至るべき究極の姿は、始まりにして、この世界を作り出した創世の魔法使いである。
余は、そのために人間の体を捨て去りリッチとなった。
千年の時を超えて生き続け、その領域を目指し続けている」
師匠は、見た目は中年男性の姿をしているが、元々は老人の姿をした人間だったそうだ。
ただ、
見た目は人間の形をしているが、体を構成している物質からして、通常の生物から逸脱した存在らしい。
実際ナイフで切り付けても、銃で頭を撃っても死ななかったので、本当なのだろう。
毒を盛ったこともあるが、ケロッとしていたので間違いない。
全部、俺が直接試したからな。
俺は師匠のことが、嫌いだった。
ブツブツと面倒臭い詠唱を1日中させられて、長すぎる詠唱の後に、初めて発動できる
このおっさん、さっさとくたばれ。
てか、俺が殺す。
今すぐ殺してやる。
魔法バカな師匠を殺そうと、一時期色々な方法を試した。
でも、すべて失敗した。残念だ。
そして俺は師匠を殺そうとしたのに、師匠の方は全く気に留める様子がなかった。
そんな師匠曰く、
「お前はあらゆる点で凡人以下だが、壊すことに関してだけは、誰よりも優れている。
この私が知りうる中で、余以上に破壊することに長けているのは、お前が初めてだ。
お前であれば、余と同じく、始まりの魔法使いの領域へ至るかもしれない」
師匠は嬉しそうにしていたが、まったくもって有難迷惑だ。
俺はじっとしたまま詠唱しなければならない、
だが、師匠はそれを強要してくるのだから、質が悪い。
そんな俺だが、18歳の頃には老化が止まり、見た目が変わらなくなってしまった。
気が付けばいつの間にか、
「天才だ、素晴らしい。
その年齢で不老に至り、
魔法バカ師匠は大喜び。
だが、俺はその例に外れて、18歳で老化しなくなった。
まあ、
俺としては、天才どうこうより、もっと成長して大人になりたかった。
後日、チビ助に出会うことがなければ、グレてたぞ。
その後程なくして、大戦が始まった。
大戦の勃発によって、俺たちの祖国である
高位魔法使いに大規模破壊魔法を使わせることで、戦線の押上げを図ろうとしたのだ。
大規模破壊魔法は、この時代においても戦場の一角を覆すのに有効な手段で、高位魔法使いは、軍にとって喉から手が出るほど欲しい存在だった。
帝国において、軍隊はもっとも力ある組織であり、その影響力は魔導王が率いる大賢者の塔であっても、無視することができない。
軍の要請という名の強制によって、塔の魔法使いたちも戦場送りにされた。
俺の場合は、
いやー、最高だ。
詠唱全カットで魔法をぶっ放せる
飛びたいと思えば空を飛ぶことができ、魔導ライフルの引き金を引くだけで、敵兵を殺すことができる。
火炎弾で焼き払うことも、爆裂弾でまとめて吹き飛ばすことも、貫通弾で纏めて貫くこともできる。
俺にとっては、まさに最高の魔法だった。
その頃からチビ助と一緒になって、敵国の高位魔法使い狩りをやって、俺たちは一気に有名になった。
本当はチビ助の方が、高位魔法使いを殺した数は上回っていたが、なぜか俺の方が人気が高かった。
「私は英雄などという、くだらん偶像に興味はない」
「もしかしてこの写真のせいか?」
「き、貴様、なんでそれを持っている!」
軍の戦意高揚の一環で、英雄扱いされたチビ助の写真が撮られたことがある。
金髪碧眼の幼女がおめかしして、人形のように綺麗に整えられたチビ助が映った写真だ。
俺でも分かる。どう見ても戦意高揚とは別の写真だ。
これを見て戦意高揚する人間は、かなり特殊な趣向の持ち主だろう。
幼女愛好者でない限り、無理だろ。
この写真を見せると、チビ助が慌てるので面白いが、その後俺はボコられた。
チビ助、見た目はチビでも、俺より強いんだ。
と、そんなことしている間に、師匠が死んだ。
千年以上の時を生き続けてきた師匠は、始まりの魔法使いが、この世界を創造した際に用いたとされる、創世魔法の一つを使うことができた。
”創造の為の破壊”と呼ばれる魔法で、この魔法の一撃は、それまで最高火力とされていた上位戦術級の大規模破壊魔法を超える威力を持っていた。
この魔法を使用しようと詠唱している最中に、敵国の戦略魔導歩兵200機が玉砕覚悟の突撃を敢行し、相打ちとなる形で死んだとのこと。
俺とチビ助が、戦場で詠唱しながら突っ立っているだけの高位魔法使いを、散々殺して回ったので、敵国もその手法を真似てきたわけだ。
ただ俺たちなら、自分たちが死ぬことなく敵の高位魔法使いを殺すが、他の戦略魔導歩兵だと、それができないらしい。
だから、玉砕覚悟の突撃だ。
それでも、敵国の戦略魔導歩兵たちはやり遂げてくれた。
「ありがとう。俺は名も知らない敵国の戦略魔導歩兵に、心の底から感謝したい」
師匠を殺してくれて、ハッピーだ。
もっとも、あの師匠の事だから、肉体から魂を切り離して、別人の体を乗っ取って生き延びているかもしれない。
でも、それをするには前準備を入念に行ったうえで儀式を行わないと、今までに得た魔力の多くを失ってしまうという話だ。
土壇場の状況で、別人の体を乗っ取ったとしても、相当に弱体化しているだろう。
だから、俺はハッピーだ。
なお、これ以降の戦いで、帝国も敵国も高位魔法使いの多くが戦死してしまい、大規模破壊魔法が戦場に与える影響力が、なくなってしまった。
ところで俺だが、師匠に散々しごかれまくったせいで、創世魔法のひとつを使えたりする。
“破壊の為の破壊”という、今ある世界を壊すことのみ特化した、究極の破壊魔法らしい。
あくまでも師匠の話なので、この魔法が本当に創世魔法の一つなのか、俺には確認しようがないが。
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