大戦の英雄と呼ばれていたけど、祖国が敗戦したせいで戦犯になったので、魔法で百年仮死状態になってやり過ごそうとしたら、千年経っていた -千年の眠りから大魔王と悪魔は目覚める

エディ

プロローグ

プロローグ

 戦略魔導歩兵が戦略魔導歩兵と呼ばれる所以。

 それは敵対国の60万からなる侵略軍を、たった50人にも満たない魔導歩兵部隊が、敗退させたことにある。



 それまでの戦争は、陸か海における戦いが当たり前であり、空を飛んでの戦いなんてお伽噺の中にしか存在しなかった。

 歴史上に一部例外はあるものの、戦いとは陸か海で行うものだった。


 しかし魔導歩兵は、最新の魔導科学によって生み出された新兵科で、空を飛ぶことができる歩兵だ。

 彼らは敵軍を空から一方的に銃撃して、敗走させた。


 その戦果は常軌を逸し、戦術を超え戦略レベルで戦争を左右することができる、新戦力とされた。

 以降、魔導歩兵の名は、戦略魔導歩兵と改められ、以後の戦争において戦略魔導歩兵をいかに使いこなすかが、戦争の趨勢を決すると言われるようになった。




 そんな戦略魔導歩兵の歴史において、極みに達したと言われるのが、大戦における英雄、アルヴィス・ガイスター大佐だ。


 彼は、大戦参加当初はただの一少尉に過ぎなかったが、戦争の中で頭角を表し、みるみる間にエースに。

 敵兵を殺し、敵陣を蹂躙し、敵の施設を破壊し尽くした。



 階級は瞬く間に上昇していき、部隊を率いる指揮官となる。

 ついには大佐にまで昇進し、一軍を預かるまでの活躍をみせる。


 だが指揮官でありながら、彼個人の活躍は続き、彼がいる戦場では常に味方が優勢、敵は劣勢であり続けた。


 その華々しい戦果によって、彼は英雄と呼ばれる存在に上り詰めた。


 戦場の英雄であり、国民のヒーローであり、国もその存在を無視することができない。

 戦意高揚のために、国からは貴族としての爵位が与えられ、戦争で獲得した新領土に領地まで与えられて厚遇された。





「戦後になれば、南の島の領地でヌクヌクダラダラ過ごして、優雅な貴族ライフを送るぜ!」


 そのはずだった。




 だが、開戦当初は優勢であった戦況も、時間の経過とともに劣勢に陥り、ついには祖国が敗戦に至る。


 それまで英雄として崇められていた彼の立場は、一転してしまう。


 戦争の英雄とは、詰まるところが大量殺戮者。

 味方からすれば英雄でも、戦争相手からすればただの大量殺戮者でしかない。



 彼の戦場での最終撃破数は1万を超え、歴史上1人で最も多くの殺人を行った、大量殺戮者とされてしまった。




 敗戦後の祖国の首都にて、戦勝国による軍事裁判が執り行われ、彼は戦犯認定されてしまう。

 それも戦争指導者とされる、政治家クラスでなければ認定されることがなかった、特一級戦犯に指定されてしまう。


 見つかれば即処刑の大戦犯だ。



 幸いと言っては何だが、首都が陥落し、西部戦線は総崩壊していたものの、アルヴィス・ガイスターがいるのは東部戦線。

 陥落した首都から発せられる停戦命令が、東部戦線では未だ実行に移されておらず、いまだに泥沼の殺し合いが継続して行われていた。


 とはいえ、もはやこの戦線の決着がつくのも、時間の問題。


 東部戦線も、もはやただ一つの戦区を除いて、全て味方が不利な戦況。

 壊滅寸前の有様だ。


 彼の戦っている戦区だけ、なぜか祖国側が優勢、敵国側が劣勢という状況だが、ひとつの戦区だけで、もはやどうにかなる状況ではなかった。




 さて、そんな状況で祖国の敗北を知ったばかりか、自身が戦犯認定されたことまで知ってしまったアルヴィス・ガイスター。







「よし、俺はほとぼりが冷めるまで隠れるぞ。

 チビ助、お前も殺されたくなかったら、しばらく隠れていろ」


「分かっているとも戦友。私もお前に付き合ったせいで、第一級戦犯認定は確実だ。

 特が付くかつかないかの違いでしかない以上、私も見つかれば殺されるのが確定だ」



 てなわけで、俺アルヴィス・ガイスターと、戦友であるチビ助少佐は、2人とも戦争なんて放り捨てて逃げ出した。



「100年も寝てれば、ほとぼりもさめるだろう」


「コールドスリープによる仮死状態か。全く、こんなものに頼らなければならないとは」


 2人で別々に逃げることなく、なぜか同道。


 軍の秘密地下施設にある仮死状態コールドスリープ施設を使って、俺たちは百年ほど眠ることにした。


 百年も経てば、俺たちの事を覚えている奴も、ほとんどいないだろう。



 大賢者グランドマスター級の魔法使いは不老のため、百年経っても生き残っているだろうが、寿命がある多くの人間の記憶からは、俺たちの事なんて忘れ去られている。


 そう思い、俺とチビ助少佐は、コールドスリープ施設で眠りにつくことにした。


「お休み、戦友」


「ああ、チビ助」


 俺は金髪碧眼の、見た目は幼女なチビ助少佐に挨拶して、百年の眠りについた。



 チビ助とは、戦争当初からの付き合いだ。

 命を助けたり、助けられたりした仲なので、もはや俺とは一心同体のような奴だ。

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