[act]
土屋シン
1 ばか。
御上陣はその日も例に漏れずVR MMO[act]に興じていた。今は対CPU戦闘。相手の攻撃を紙一重のところで躱し続けて、隙のできた一瞬に必殺の一撃を決めようとした時だった。ピコンと音がなり、チャットが入る。陣はストップボタンを押して、戦闘を停止した。
───出席日数がやばいので学校来てください。どうせメールは確認してないと思うからこっちでいう。
チャットの送信元はmikoとなっていた。
mikoこと桐生美琴は陣の幼馴染だ。幼稚園の頃斜向かいに越してきて、小中高と同じ学校に通う腐れ縁でもあり、何よりも[act]を陣と同じくらいやり込んでいる戦友であった。
最後に陣が見た時は髪を首元くらいの長さにして、ヘアピンで前髪を整えていた。そのヘアピンは陣が小学生の時に誕生日プレゼントに渡したものだったから、美琴の背の低さも相まって高2にも関わらずかなり幼く見えた。ランドセルでも背負っていたら発育のいい小学生にだって見えただろう。
───マジかー!サンキュー!美琴がおしえてくれなかったら危うく知らないうちに退学になってるとこだったわ!!!愛してるー!
───ネットで本名出すな。ばか
陣はクスリとわらった。馬鹿と言うのは美琴の口癖だが、チャットではいつも必ずひらがなで「ばか」と書く。陣はそれを見るといつも美琴なりの微かな気遣いに心癒されるのだった。
───馬鹿ではない。本気を出してないだけだ。
───ならその本気をだせよ。ばか。
───頑張らないが俺のモットーだから。
───そんなこと知らないよ、ばか。ちゃんとやればなんでもそこそこ出来るくせに。
───美琴は不器用だもんな。
───うるさい、ばか。本名出すな、ばか。明日はちゃんと学校来ること!私はもう寝るから!以上!
陣は内心しつこいなと思った。そして、次の対戦はどういう戦略でいこうかなとフォルダを開いてチェックしようとした。すると、ふたたび美琴からチャットが入った。
───おやすみ。
陣はボサボサと頭を掻いてしぶしぶVR端末の電源を落とした。ヘッドセットをデスクに置いて大きく伸びをすると、ずっと猫背だったため脊骨がメキメキと音を立てた。重たい体を持ち上げてベットに入ると、へこたれて薄くなってしまったため、いつもは落ち着かない枕が何故かその日はスッとフィットして、案外早く寝付くことができた。
時計は12時過ぎを示していた。
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